三島由紀夫「仮面の告白」のあらすじを徹底解説、読んでみた感想

三島由紀夫

三島由紀夫「仮面の告白」のあらすじを徹底解説、読んでみた感想

著者:三島由紀夫 2010年3月に新潮社から出版

仮面の告白の主要登場人物

私(わたし)
本作の主人公。病弱な青年。自分の性的欲求が他者と違うことを幼いころから思い悩む。

近江(おうみ)
中学時代の同級生。たくましく粗暴な不良青年。主人公の初恋の相手。

草野(くさの)
高校から付き合いのある気の置けない友人。軍隊に入隊する。

園子(そのこ)
草野の妹。美しい少女。主人公と惹かれ合い恋仲になるが、他の男と結婚する。

1分でわかる「仮面の告白」のあらすじ

病弱な主人公は、幼少のころから自分の欲求に思い悩んでいました。

周りの青年が女に欲望を抱くなかで、自分だけは男性のたくましい体やそこから流れる血に興奮を覚えました。

同級生の近江という粗野な青年に恋をし、そのことをさらに自覚します。

一般的な男子の思考を探り、それを真似て女に興味を持とうとしますが、その努力は虚しく疲れるだけでした。

大学生になった主人公は、友人の草野の家で妹の園子に出会います。

主人公は園子と打ち解け、恋仲になりますが女に欲望を抱けないことを実感し園子との結婚を断ります。

園子はほかの男と結婚しますが、主人公と肉体関係の伴わないあいびきを重ねます。

ある日主人公は園子と会っている最中に見かけたたくましい体の青年に欲情し妄想に夢中になり、自分が欲求を抱けるのは死と血潮と男性の体だけなのだと実感します。

三島由紀夫「仮面の告白」の起承転結

【起】仮面の告白 のあらすじ①

 

欲望と初恋

主人公は土地柄のあまりよくない町の一角の借家に生まれます。

祖母は病弱な主人公をいたわるために男の子と遊ぶことを禁じたので、遊び相手はお手伝いの女と看護師、近所の女の子たちだけでした。

そんな主人公を思い悩ます記憶の始まりは、五歳のころ道端で若い男の汚物くみ取り人を見たことでした。

男は血色のいい美しい頬と輝く瞳を持ち、汚れた鉢巻をして紺の股引きをはいていました。

主人公はその姿にくぎ付けになり、この世にひりつくようなある種の欲望があることを予感します。

物心がつくと同時に、主人公は汚物くみ取り人という職業に憧れを抱きます。

その職業に感覚的な意味での「悲劇的なもの」を感じていたのです。

十三歳になった主人公は、自分の興味が死と血潮と男性の体へ向かっていることを自覚します。

雑誌の扉絵に載る腹を切っている若い侍の絵や、銃に撃たれて血を滴らせる兵卒の絵に欲求を抱くようになります。

主人公の中学校は寮生活が基本でしたが、過保護な両親は病弱さを理由に自宅通学にしてもらいます。

その最大の理由は、主人公が悪いことを覚えるといけないから、というものでした。

二年生の最終学期に、数少ない自宅通学の生徒のなかに近江という生徒が加わります。

近江は、乱暴な振る舞いで寮を追い出された不良でした。

主人公は男らしくたくましい体を持つ近江に恋をし、憧れとともに性的な欲望を抱き始めます。

しかし自分の体と近江の体を比べて、ひ弱な自分は近江に似ることはできないと確信し、嫉妬の感情が芽生え愛を諦めます。

主人公が夏休みを終えて学校に登校すると、近江は放校処分になっていました。

放校の理由は、情報通の生徒にも分からずじまいでした。

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【承】仮面の告白 のあらすじ②

 

園子とのであい

中学四年になると、主人公は貧血症にかかってしまいます。

そして、生まれながらの血の欠乏が流血を求める残酷な衝動へつながっていたのだと納得します。

貧血が治っても主人公が「悪習」と呼ぶものは治らず、若い男の教師に性的感情を寄せ自慰行為をしてしまいます。

主人公は自分の感性が周りの青年たちとは違うことを自覚していたので、一般的な同年代の男子の思考を探ろうとします。

好奇心の面では主人公とも共通する思春期があることを知ります。

この時期には男子は女のことばかり考え、自慰行為に没頭するらしいと聞き、その点は自分と同じだと安心します。

悪習の対象にするものの明らかな違いには気付いていましたが、主人公は見て見ぬふりをしました。

友人の家に遊びに行った際に、主人公は美しい友人の姉とであい、自分はその姉に恋しているのだと信じこみます。

彼女の家の近くをうろついてみたり、クッションを抱きしめて女の抱き心地を想像してみたり、彼女の唇の絵をかいてみたりします。

これらの人工的な努力は、主人公の心に異常な疲れを与えました。

やがて主人公は学校を卒業して大学へ入ります。

父親に強制され専門は法律を選びました。

ある日主人公は、友人の草野の家で下手なピアノの音を聴きます。

草野に聞くと、妹がピアノの稽古のおさらいをしていると言います。

草野と親しくするうち、ピアノを習う妹の園子とも打ち解け始めます。

園子は美しい少女で、主人公は軽やかな園子の脚を見て感心しますが、欲求は抱きませんでした。

本の貸し借りをする仲になり、園子たちが疎開して離ればなれになっても二人は手紙のやり取りをします。

主人公は距離があるゆえの自分の正常さを感じ、園子に思いを寄せます。

手紙を交わすうちに二人はひかれ合い、主人公は人生に希望を持ちます。

初恋の少年少女がするように互いの写真を交換し合い、持ち歩くようにまでなりました。

【転】仮面の告白 のあらすじ③

 

キスと逃避

園子の家からは、何度か遊びに来るようにという招きの手紙が来ていました。

主人公は、園子のおばの家へ泊まるのは心苦しいからホテルを探してくれと手紙に書きます。

そのとき主人公は園子を抱いて、愛することができる自分を空想します。

それを成し遂げた瞬間疑念と不安が消えて、まともな男に生まれ変われるはずでした。

しかし結局ホテルは手配できず、おばの家へ泊まることに決まり、主人公は疲労に似た安堵を覚えます。

園子に会いに行く汽車の中で、主人公は園子にキスをする決心をします。

滞在期間中は園子の妹たちに勉強を教えたり、祖母の話し相手になったり、園子の家族によく思われようと努めました。

帰る日付が二日後に迫ったころ、主人公は義務的な気持ちに急き立てられ、決心した園子へのキスをはたそうとします。

機を伺いキスの直前になっても、主人公は園子の唇に愛も欲望も感じません。

キスをすれば正常な感情が芽生えるのではと望みをかけ、ついに園子と唇を合わせます。

一秒たっても何の快感もありませんでした。

二秒三秒とたち、主人公にはすべてがわかってしまいます。

自分が園子を愛せないことを知り、主人公は逃げなくてはと焦ります。

それから一ヵ月もしないうちに、軍に入隊した草野が東京近郊の隊に移り、家族と面会すると言うので主人公も同席します。

変わらない園子の姿を見て、主人公は変わり果ててしまった自分自身を痛感します。

そのとき草野に近いうちに重大な知らせをすると言われ、主人公は驚きます。

一週間後、草野から園子との結婚をどう思うかという打診の手紙が届きます。

主人公はその手紙に、今の段階ではそこまで気が進んでいないと拒絶の返事をしました。

その後、園子は見合いをして他の男と結婚します。

その話を聞き、主人公は肩の荷が下りた気持ちになりました。

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【結】仮面の告白 のあらすじ④

 

園子との再会

主人公には、大学で親しくなった友人が一人いました。

その友人に童貞であることを見抜かれ、女遊びに誘われます。

結局その誘いを受けて売春婦を抱こうと試みますが、主人公の性器は反応しませんでした。

それ以来空虚な日々が続くある日、街を散歩していると後ろから名前を呼ばれ、振り返ると園子がいました。

二年越しに再会した二人は、取り留めのない会話をして別れます。

その後園子の予定に合わせて草野の家に遊びに行ったとき、主人公はピアノの音を聴き驚きます。

その音は以前のような幼さはなく、豊かな響きを持ち充実していました。

草野が園子を呼び部屋に二人きりになり、主人公はまた二人きりで会えないかと問いますが、人妻であることを理由にその場では断られます。

肉欲もなく会いたい気持ちが、主人公は自分でも何なのかわからず困惑していました。

やがて主人公と園子は二三ヵ月ごとに、昼の一二時間何ごともなく会い、別れる機会を作るようになります。

その肉体関係の伴わないあいびきは、主人公に不徳の喜びをもたらしました。

晩夏の一日、避暑地から帰ってきた園子とレストランで会い、二人はいつものように無意味で堂々巡りの不真面目な会話をします。

しかし、ふいに園子はこの関係への疑問や不安を口にします。

夢から覚める間際のような、虚しい悦楽を感じていたのは主人公も同じでした。

二人は店を出て夏の街を歩き、別れまであと三十分になったところで行き慣れない踊り場へ行きます。

息苦しさに耐え兼ね中庭に出ると、そこでは何人かの男女が談笑していました。

そのなかの一人の、たくましい青年に主人公はくぎ付けになります。

青年は浅黒く整った顔立ちをしていて、汗にぬれたさらしを筋肉の乗った腹に巻き直していました。

主人公はその様子を見て欲情し、その青年の腹が血に染まる妄想に夢中になります。

園子があと五分だわ、と名残惜しそうにつぶやく声を聞き主人公はわれに返ります。

その瞬間、主人公は自分のなかで何かが残酷に引き裂かれるのを感じました。

やはり主人公が欲求を抱けるのは園子ではなく、死と血潮と男性の体だけなのでした。

三島由紀夫「仮面の告白」を読んだ読書感想

仮面の告白は三島由紀夫の二作目の長編小説で、戦後文学の代表名作です。

主人公「私」の一人称で語り進められる自伝的な小説です。

主人公は男性にひかれてしまうことを自覚しながらも、女性を愛そうと努力しそれがかなわず苦しみます。

そのつらさが、詩的で情緒のある文体を通じてありありと伝わってきました。

同性愛という異質なテーマを扱っていますが、主人公が自分の性的志向に悩み葛藤する姿には、どこか共感してしまう部分がありました。

性愛の話に限らず、私たちは社会生活を送るうえで、体裁のために仮面を被っているとも言えると思います。

その仮面と本当の自分の違いに悩み、苦しんだ経験は誰しもあるのではないでしょうか。

主人公が自分とは何かを探して他者とつながろうとする様子は、普遍的でとても人間らしいと思います。

自分を重ねて主人公を身近に感じながら読むことができると思います。

痛々しく赤裸々な主人公の告白に、読んでいて時には羞恥を、時には絶望や希望を感じました。

本を通して、葛藤と矛盾にもがく一人の人間の人生を味わえる作品でした。

-三島由紀夫

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