谷崎潤一郎「猫と庄造と二人のをんな」のあらすじを徹底解説、読んでみた感想

谷崎潤一郎

谷崎潤一郎「猫と庄造と二人のをんな」のあらすじを徹底解説、読んでみた感想

著者:谷崎潤一郎 1937年7月に創元社から出版

猫と庄造と二人のをんなの主要登場人物

庄造(しょうぞう)
荒物屋の亭主。気が弱く呑気な性格で、誰からも好かれやすい。母や妻から子供扱いされるのを不満に思っている。三十に手が届く。

リリー(りりー)
雌の鼈甲猫。推定十歳。最近老いが目に見えてきた。数年前他の家に譲り渡されたことがあるが、長い距離を歩いて戻ってきた。

福子(ふくこ)
庄造の今の妻。庄造とは従兄弟同士。おりんとともに品子を追い出した。奔放な性格で、スキャンダルで新聞に載ったことがある。リリーに嫉妬している。

品子(しなこ)
庄造の前の妻。勝気な性格で、しっかり者。おりんと反りが合わず、家を追い出された。妹夫婦の家に間借りしている。リリーを譲ってほしいと福子に手紙を出す。

おりん(おりん)
庄造の母親。しっかり者。息子をいまだ子供扱いしている。荒物屋が立ち行かなくなっているのを懸念している。

1分でわかる「猫と庄造と二人のをんな」のあらすじ

売れない荒物屋の亭主である庄造は、雌猫リリーを溺愛していました。

が、リリーに嫉妬した新妻・福子にリリーを手放すことを約束させられます。

リリーのもらい手は庄造の前の妻だった品子です。

福子と姑のおりんによって半ば強引に離縁されられた品子には、リリーを引き取って庄造をおびき寄せ、あわよくば復縁しようという思惑がありました。

けれどリリーと一緒に暮らすうちに品子はリリーに本当の愛情を覚え、深く慈しみます。

一方、福子は追い出したはずのリリーと品子にいまだ嫉妬して感情を爆発させ、そして庄造はリリーだけでなく自分の居場所を失い、自己憐憫に浸るのでした。

谷崎潤一郎「猫と庄造と二人のをんな」の起承転結

【起】猫と庄造と二人のをんな のあらすじ①

 

福子への手紙

福子はある手紙を受け取ります。

友人の名を騙るその手紙は、福子の亭主である庄造の前妻・品子からで、ひとり身で淋しいので庄造が可愛がっている雌猫リリーを譲ってほしいという内容でした。

また、庄造は女房よりリリーを大事にする、私のように猫以下に見られたくなかったらさっさと離した方がいいとも書かれていて、福子は図星を突かれます。

実際、食事時に自分のおかずをリリーに口移しでやるなど、庄造の猫好きは度が超えていて、夜寝るときですら割り込んでくるリリーをうとましく思っていたのです。

品子のいう通りにすれば、猫ごときに嫉妬していたことがばれて彼女に溜飲を下げさせるとは分かっています。

しかしリリーの介在をこれ以上我慢できず、福子は庄造にリリーを譲るよう訴えます。

案の定庄造にのらりくらりとかわされ、リリーへの愛着が想像以上に深いことに気付いた福子は、自分がいなくなるかリリーをやるかどちらか決めろと強く迫り、ついにリリーを譲ることを約束させるのです。

往生際の悪い庄造は、母親のおりんにどうにかならないか相談します。

しかし彼女も福子の意見に賛成でした。

福子はおりんの姪で、裕福な家の娘でしたが、奔放な性格で嫁の貰い手がありませんでした。

反りの合わない品子を家から追い出したいのと、福子の持参金が欲しいという思惑もあって、おりんは庄造と福子を引き合わせていたのです。

さらに、おりん自身も料理を盗ったり家を汚したりするリリーに閉口していました。

品子が嫁に来る前にも一度リリーを他の家に譲り渡したことがあったのですが、リリーは五、六里の道を自力で帰ってきてしまい、不憫なのと薄気味悪いのとで、おりんはそれ以降庄造に何も言えなくなっていました。

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【承】猫と庄造と二人のをんな のあらすじ②

 

庄造の後悔

庄造と品子の仲人をした塚本が、リリーを品子の元に連れていくことになりました。

庄造はリリーが入ったバスケットを塚本に託し、泣く泣く送り出します。

品子がリリーを囮にして庄造を呼び寄せようとしていることを、夫婦はそのころようやく気付いていて、それゆえに庄造は福子に外出を禁じられていたのです。

リリーが品子の家から自力で戻ってくることを唯一の望みにし、庄造は以前他家にもらわれていったリリーが帰ってきたときのぼろぼろになった姿や、自分の呼びかけに答える「ニャア」という鳴き声や嬉しそうな顔つきを思い出します。

ほかにも、鼈甲猫とよばれる毛並みの美しさと愛らしさに惹かれ、仔猫だったリリーを当時の職場から家に連れ帰ったこと、幼いときはいたずら盛りのお転婆で、表情が人間のように非常に鮮やかだったこと、リリーが初めてお産をしたときの訴えるような優しい眼差しを次々と回想します。

半ば事故でしたが、互いの屁をかぎ合ったことまでも。

それくらい親しかったリリーは、十年もの長い間、それこそ品子よりも福子よりもずっと一緒にいた、いわば庄造の過去の一部だったのです。

そして最近のリリーには体のこなしや毛の色つやなど、老いのさまがありありと見えていたことも思い出し、そこでようやく庄造は自分のしたことを深く後悔します。

あんなに老いたリリーをなぜ譲ってしまったのだろう、リリーを家で死なせてやればよかった、と。

しかしそんな思いを見透かしてか、福子はリリーに会いに行かないよう、庄造に釘を刺すのです。

【転】猫と庄造と二人のをんな のあらすじ③

 

品子とリリーの和解

塚本がリリーを品子の元に連れてきました。

品子は妹・初子夫婦の家を間借りしており、己の部屋である二階の四畳半にリリーを閉じ込めると、準備していた餌やトイレを勧めます。

しかしリリーはそれらには見向きもせず、部屋の隅に縮こまってしまいます。

庄造やおりんにないがしろにされたときに八つ当たりをしたのを、いまだに根に持っているのか。

品子は腹を立てますが、自分も家を追い出されてここに来た当初、何をする元気もなくろくに食べなかったのを思い出し、心配しつつもリリーをそっとしておきます。

ところがリリーは品子の目を盗んで逃げ出してしまいました。

結局庄造の元に帰ってしまったのかと品子は落胆しますが、三日後リリーはなぜか品子の部屋に戻ってきました。

品子が名を呼ぶと、自分を可愛がってくれる人に対してそうするように「ニャア」と優しく鳴きます。

自ら逃げ出した割にすんなり品子の元に戻ってきたのは、老いてしまい以前のように帰る力がなくなっていたからと思われましたが、それでも自分は赤の他人と思われていなかったのだと品子は涙を流します。

福子の推測通り、品子が福子にリリーが欲しいと手紙を出したのは、リリーを預かっておけば、そのうち福子と仲たがいした庄造がこちらにきて復縁ができるとの心づもりがあったからで、本当はリリーを嫌っていました。

が、いざ一緒に暮らしてみると、リリーは本当に愛らしく、品子は愛情をもって細やかに世話をするようになります。

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【結】猫と庄造と二人のをんな のあらすじ④

 

一番可哀想なのは

ある日の夕方、家事も満足にせず福子が実家に行ってしまうと、庄造も母親に出かける旨を伝えて自転車に飛び乗ります。

まず塚本のところに行き、リリーに会いに行きたいからどうにかしてほしいと相談しますが、塚本は品子に未練があると思われたらどうするのだとにべもありません。

それでも庄造は諦めきれず、品子の家の前まで行きリリーが外に出てくるのをこっそり待つことにします。

庄造は母や妻に子供扱いされるのを不満に思っていましたが、それを愚痴る友人もおらず、誰にも理解されない寂しい気持ちをリリーに慰めてもらっていました。

リリーと別れて四十余日が過ぎた今、鬱憤を抑えきれなくなっていたのです。

辛抱強く待った庄造でしたが、その日結局はリリーに会えませんでした。

それから数日後、庄造が散髪から帰ってくると、福子がおりんに怒鳴っています。

庄造がリリーに会いに行っていたことが福子にばれたのです。

福子の留守中に庄造が出かけた事実をおりんが黙っていたことに、福子はひどく怒っていたのでした。

いたたまれなくなった庄造は2人に気付かれないようそっと外に出ます。

その足で品子の家に向かった庄造は、品子の留守を見計らって初子にリリーに会わせてほしいと懇願します。

初子は仕方なく庄造をリリーのいる姉の部屋に上げます。

リリーが虐待されていることを心配していた庄造でしたが、リリーは痩せておらず、毛並みもつやつやしていました。

品子は貧しい中でもきちんと暮らし、リリーに美味しいものを食べさせるなど、とても大事にしていたのです。

庄造はリリーを膝に抱きますが、リリーは前のようにいちゃついてくれません。

リリーの心変わりに深く傷ついた庄造は、本当に可哀想なのは自分が家から追い出した品子やリリーではなく、今どこにも居場所がない自分ではないかと思い始めます。

そして品子がそろそろ帰ってくると初子から告げられた庄造は、またもや逃げるように家を飛び出すのでした。

谷崎潤一郎「猫と庄造と二人のをんな」を読んだ読書感想

特筆すべきはリリーの描写です。

姿やら仕草やら、リリーを表現する全ての文章が至極細やかで、愛情にあふれています。

猫を現在飼っている、また飼っていた人は、リリーの様々な姿を文章の向こう側に垣間見て、思わずにやにやしたり、逆にぐっと心が苦しくなったりするでしょう。

登場人物たちは揃いも揃って自分勝手で、己の都合で周囲を振り回したり、逆に振り回されたりします。

誰一人他人を思いやることはなく、常に自分、自分です。

リリーを溺愛する庄造でさえも、実のところ空虚な自分をリリーに慰めてもらいたいだけでした。

唯一品子だけが心を入れ替え、自分のことはさておいてリリーに愛情を注ぎますが、その愛情の先にも庄造の姿がちらちらと見え隠れします。

そんな愚かな人間たちを、リリーは己の愛らしさとしたたかさで手玉に取り、その人自身すら気付いていない複雑な感情を心の底から引きずり出しながらも、生きるためにしなやかに立ち振舞っていきます。

リリーには幸せな老後を迎えてほしいとひたすら願うばかりです。

-谷崎潤一郎

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