夫婦善哉 織田作之助

織田作之助

織田作之助「夫婦善哉」のあらすじを徹底解説、読んでみた感想

夫婦善哉の主要登場人物

蝶子(ちょうこ)
ヒロイン。10代から花街に足を踏み入れ20代で有芸仲居に転身。根が陽気で働き者。

維康柳吉(これやすりゅうきち)
蝶子とは事実婚。浪費癖があり食べ物には目がない。

種吉(たねきち)
蝶子の父。天ぷら屋をやっているが金勘定が下手。

お辰(おたつ)
蝶子の母。節約家で信心深い。

おきん(おきん)
蝶子の雇い主。若い頃は美人で浮名を流した。

1分でわかる「夫婦善哉」のあらすじ

芸者としてお座敷に立つようになった蝶子にとっての1番のお得意さんは、安化粧問屋の若旦那・維康柳吉です。

遊び好きで家庭を省みない柳吉は親から勘当を言い渡されてしまい、蝶子を連れて東京への駆け落ちを決行します。

金策に走り回っていたふたりは大地震に見舞われて大阪に引き返し、蝶子は昔のつてを頼って働き始めますが柳吉は何をやっても長続きしません。

法的には夫婦として認められないまま、ふたりは文士のためのサロンを開くのでした。

織田作之助「夫婦善哉」の起承転結

【起】夫婦善哉 のあらすじ①

北から南へグルメ開拓

小学校を卒業した蝶子は大阪市中央区日本橋三丁目の古着屋で半年ほど住み込みで働いた後、曽根崎新地のお茶屋で芸者の見習いを始めました。

17歳で本格的なお座敷デビューを果たすと、思いっきり声を張り上げて歌う姿がご愛敬とかわいがられます。

ひいきのお客の中でも特に蝶子に入れ揚げていたのが、梅田新道にある卸問屋の息子・維康柳吉です。

夜店で2銭で売っているドテ焼きや蒸しまんじゅう、戎橋そごう横のどじょう汁、千日前のすし屋の鉄火巻き、道頓堀向かいのまむし。

柳吉が蝶子にごちそうするのはミナミの下手もの料理ばかりで、北新地にある上品なお店には入ろうとしません。

柳吉の通い方が頻繁になるに連れて自然と深い仲になり、家庭で抱えているやっかい事も手に取るように分かりました。

脳出血の後遺症で一日中寝ている父親、早くに亡くなった母親、妻とのあいだに授かった今年5歳になったばかりの娘。

そんな最中に蝶子が柳吉にプレゼントした男物の草履と、メッセージを添えた手紙が家族の手に渡ってしまいます。

不義理で道楽者の息子を枕元に呼び寄せては幾度となくお説教をしてきた父も、今度ばかりは我慢の限界です。

親子の縁を切ることを言い渡された柳吉ですが、銀行の通帳と実印は父が布団の下に隠しているために手が出せません。

梅田新道の店ではクリームや美顔水を理髪店に卸していましたが、東京の方にもいくらか未回収のお金が残っていることを思い出します。

梅田駅で蝶子と合流した柳吉がそのまま東京行きの汽車に乗り込んだのは、やけに蒸し暑い8月の末のことです。

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【承】夫婦善哉 のあらすじ②

西から東へ逃げるふたりに激震が走る

東京の得意先を回って300円あまりの集金を終えた頃、突如としてごう音が鳴り響き大地が激しく揺れ始めました。

命からがら避難列車に駆け込んだ柳吉たちは梅田に引き返し、上塩町で1個1銭の天ぷらを揚げている蝶子の父親・種吉と母親の辰子に会いに行きます。

先日発生した地震については大阪の号外でも「関東大震災」という見出で大々的に報じられているために、当分のあいだは実家でやっかいになるしかありません。

黒門市場の路地にある2階建ての一軒家に所帯を構えて落ち着いた頃、蝶子が見つけてきた仕事は臨時雇いでお祝い事に出席して芸を披露する「ヤトナ」です。

夕方から夜更けまでの宴会1回で6円、ヤトナの取り分は3円5銭、黒門市場の間借り代が月7円の前払い、銭湯代が3銭。

要らなくなったチラシをとじて家計簿を作った蝶子は、毎月の収入と支出をこまめに書き込んで何とかやり繰りしていました。

そんな蝶子から1日1円のお小遣いを受け取っている柳吉は、昼間は将棋を差したり浄瑠璃の先生に弟子入りして稽古に通ったりしています。

年が明けてもブラブラとしている柳吉に働き口を紹介してくれたのは、ヤトナの周旋をしているおきんという高齢の女性です。

カミソリ屋の通い店員で勤務地は千日前にある牛肉店の隣、勤務時間は午前10時から午後11時まで、月給25円で弁当は自前。

理髪に関係のある商売で柳吉にもピッタリのはずでしたが、主人とケンカをしたりズル休みが多かったりと3カ月ほどしか持ちません。

【転】夫婦善哉 のあらすじ③

転々とした看板チェンジに母へのはなむけ

一層ヤトナ稼業に身を入れた蝶子は2年間かけて300円を貯金しますが、そのうちの100円を柳吉は飛田の遊郭で使い果たしてしまいました。

飛田大門前通りの小さなおでん屋が売りに出ていたのを見た柳吉は、蝶子の貯金の残りと妹から借りてきたお金を合わせて店舗ごと買い取ります。

人通りの多い角店で夜の10時から日付けが変わる0時まで目の回るほど大忙しでしたが、疲れると売り物のお酒に手を出すのは柳吉の悪い癖です。

酔っぱらうと気が大きくなり売上金を持ったままフラリとお店を抜け出してしまい、2〜3日のあいだは帰ってきません。

おでんが駄目なら銭湯客を当てにした小道具屋、小道具が駄目ならフルーツのたたき売り、フルーツが駄目ならカフェの経営。

もうけも多ければ損も勘定に入れなければならないのが商売で、タイミングが悪く辰子が子宮がんで寝込んでしまいます。

金光教に凝っている辰子はやたらと水を飲んではお祈りをしているばかりで、手術も入院もかたくなに断って死を待つだけです。

苦痛を一時的に緩和させるためのモルヒネは1本5円と高額でしたが、さんざんに心配をかけてきた娘からのせめてもの親孝行と考えれば安いものでしょう。

種吉の身内に葬儀屋がいて無料で式の準備を引き受けてくれた上に、辰子は郵便局の簡易養老保険に入っていたために葬儀代の心配もありません。

種吉から保険料のうちの100円を受け取った蝶子は、下寺町の電停前にサロンをオープンしました。

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【結】夫婦善哉 のあらすじ④

おいしいものは1人より2人で

接客を担当する蝶子はマダム、小鉢物やおつまみを作る柳吉はマスター、それぞれの名前から1字ずつ取って付けた屋号は「サロン蝶柳。」

店内に設置された蓄音機から三味線歌曲や新内節などの粋な音楽が流れていて、店員は若くてハイカラな女性ばかりです。

場所柄もあってお客は新聞記者や文筆家が多く、家族的な雰囲気が漂ういこいの場として成功しました。

柳吉も人が変わったように精を出して蝶子の気分も良かったある日、セーラー服を着た12〜13歳くらいの女の子が来店します。

彼女は今年の4月から女学校に進学した柳吉の娘で、梅田新道の父が危篤だそうです。

自分たちを正式な夫婦として認めてもらうラストチャンスですが、柳吉は「都合が悪い」と言って本家に連れていってもくれません。

そのひと言がショックだった蝶子は店の2階を閉めきってガス栓をひねり、突発的に自殺をしようとします。

紋付きの羽織りはかまを取りにきた柳吉が異臭に気が付いて医者を呼んだために、命には別条はありません。

すぐに回復してサロンを再開しますが、柳吉は置き手紙を残して失踪してしまいます。

腎臓結核を患っていて長くは生きられないこと、九州にでも移り住んで職人として自活すること、娘を引き取って余生を過ごすこと。

手紙を燃やしてひとりで店を切り盛りしていた蝶子のもとに、柳吉がひょっこり現れたのは10日後のことです。

悪びれもせずに「うまいもん食いに行こか」という柳吉に誘われて、蝶子は法善寺の境内にある甘味処「めおとぜんざい」へと向かうのでした。

織田作之助「夫婦善哉」を読んだ読書感想

愛想がよく人情もたっぷりで人気ナンバーワンの芸者・蝶子と、お気楽な跡取り息子の維康柳吉との組み合わせがユーモラスです。

10歳以上年下ながらしっかり者の蝶子が柳吉に鋭いツッコミを入れるかと思えば、柳吉が蝶子に「おばはん」などと激しくやり返す。

ふたりの掛け合いがどつき漫才のように楽しくて、関西弁がテンポがよく飛び交う会話の流れも生き生きと描かれていました。

もうける時には1円でももうけるのが蝶子とおきんの女性陣で、柳吉や種吉など金銭感覚がルーズな男性たちとのコントラストも絶妙ですね。

信じては裏切られてを繰り返しながらも、柳吉のことを見捨てられないのはやはり蝶子の惜しみない愛情なのでしょうか。

物語の序盤では大阪・ミナミの食べ歩きのシーンが興味深く、舞台を黒門市場の商店街周辺に移した後半では自営業に悪戦苦闘する様子に引き込まれます。

締めくくりはタイトル通りのぜんざいですが、夫婦にとってはちょっぴりほろ苦い味わいなのかもしれません。

-織田作之助

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