著者:宮沢賢治 1989年6月に新潮社から出版
黄いろのトマトの主要登場人物
「私」(わたし)
本作の語り手。幼かったころに博物館で、蜂雀からとある話を聞く。
蜂雀(はちすずめ)
博物館に居る美しい?製の蜂雀。ある日「私」に昔見た兄妹の話を語り聞かせる。
ペムペル(ぺむぺる)
蜂雀の話に登場する、妹想いのやさしい兄。
ネリ(ねり)
蜂雀の話に登場する、幼くかわいらしい妹。
1分でわかる「黄いろのトマト」のあらすじ
幼いころの「私」は、学校へ向かう途中に寄った博物館で、とあるかわいそうな兄妹の話を剥製の蜂雀から聞かされます。
蜂雀がまだ剥製ではなく生きて空を飛んでいたときに見た兄妹の話です。
ペムぺルとネリは仲の良い兄妹で、たった二人だけで楽しく暮らしていましたが、幼さゆえににとてもかわいそうな目に遭ったのでした。
最後まで話し終わった蜂雀はじっとだまってもう話さなくなり、「私」は泣きながら博物館の部屋を後にするのでした。
宮沢賢治「黄いろのトマト」の起承転結
【起】黄いろのトマト のあらすじ①
「私」の街の博物館の、大きなガラスの戸棚には、蜂雀という鳥の剥製が4匹飾られていて、幼いころの「私」はそのうちの1匹が特に美しくて好きだったのでした。
「私」がある日の朝、学校へ行く前にこっそりと博物館へ立ち寄って蜂雀の剥製を眺めていたところ、きれいな声で蜂雀が話しかけてきます。
蜂雀は、かわいそうなことだと頻りに繰り返しながら、「私」にとある兄妹のお話を語り始めました。
気になった「私」はかばんを床におろし、座って話を聞くことにしました。
ペムペルとネリは仲の良い兄妹で、たった二人きりで楽しく暮らしていました。
二人が小麦を粉にしたりキャベツを植えたり収穫したりする様子を、蜂雀はいつも見に行っていました。
彼らは畑にトマトも植えていて、たくさんの赤い実をいっぱいつけていました。
そのうちの一本だけ、眩しいくらい黄色い実が成るのがあってとても立派に見えるのでした。
蜂雀はまた、彼らが家の中で一緒に歌ったりするのを眺めるのも好きで、いつも庭の木から彼らの家を眺めていました。
二人は青いガラスの家に住んでいて、それは窓をすっかり閉めると海の底にいるように見えるのでした。
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【承】黄いろのトマト のあらすじ②
ある日の夕方に、二人が果樹園で水やりをしていると、不思議ないい音がずっと遠くの野原の方から聞こえてきました。
二人は水やりをやめて音のする方へ手を繋いで走ってゆきました。
音はとても遠く、小山を二つ越えて小川を三つ超えても、なかなか近くなりません。
しかしそれでもしばらく駆けてゆくと、ラッパや笛の音がだんだんはっきりと聞こえてきました。
二人が息をこらして音の方を見ると、それは赤いシャツを着て羽やひらひらしたものをつけた帽子をかぶった馬乗りたちと、白い箱のようなものを担いだ黒人たちでした。
二人は恐がりながらも、珍しさと面白さに彼らの後をついていくことにしました。
そして日がだんだん傾いて薄暗くなってきたころ、大きなテントのかけられた平らな草地にたどりついたのでした。
にぎやかな一団は、サーカスの楽隊でした。
大きなテントには色とりどりのカンテラや綺麗な絵看板がたくさんかけてあり、周りにはたくさんの大人や子供が集まって看板を見上げていました。
楽隊たちはいっそう大きく音を鳴らして、テントの中へ入っていきます。
辺りの人もだんだんと増えてきては、みんな吸い込まれるように数人ずつテントの中へと入っていくのでした。
ペムペルとネリはそれをじっと見て、胸をどきどきさせながら自分たちも中へ入っていこうとします。
【転】黄いろのトマト のあらすじ③
しかし、サーカス小屋へ入ってゆく人々は入り口で何かを番人に渡しているのにペムペルとネリは気づきました。
それはよく見れば、どうやら黄金や銀のかけらのようですが、二人のポケットに黄金はありません。
そこで彼はネリに、「お前はここに待っといで。」
と言い、家の方へと一生懸命走ってゆきました。
蜂雀もペムペルについて飛んでゆきました。
彼は家の果樹園へ入り、黄色いトマトを四つ手に取りました。
二人はその黄色いトマトを、きっと黄金だと思って非常に大事に育てていたのでした。
そして彼はトマトを持って、また汗をかき動悸をさせながら風のようにテントの方へ引き返しました。
ペムペルはさあ入ろうと言ってネリの手を引き、サーカス小屋の入り口まで来ました。
ネリは大喜びでした。
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【結】黄いろのトマト のあらすじ④
ペムペルは持ってきたトマトを番人に差しだしますが、番人はしばらくそれを見つめたのち、怒ってトマトを投げつけます。
その一つはネリの耳に当たって、彼女はわっと泣き出し、それを見てみんなは笑いました。
ペムペルはネリをさらうように抱いてそこを逃げ出し、途中まで来たところでペムペルも泣き出しました。
それから二人は、たまにしゃくりあげながら黙って昼に来た道を引き返したのでした。
蜂雀は一通り話し終えると、かわいそうだと繰り返したのちに、もう話せないと言ってじっと黙ってしまいました。
「私」もとても悲しい気持ちになって、蜂雀に礼を言うと静かにその場を去りました。
そして博物館の部屋を出たところの明るさと、あの兄妹のかわいそうなことに、涙をぼろぼろ流したのでした。
宮沢賢治「黄いろのトマト」を読んだ読書感想
宮沢賢治にもトシという妹がおり、その兄妹愛は彼の多くの作品に表れていますが、この『黄いろのトマト』もそのような美しい作品の一つです。
ペムペルはネリのためにずっと遠い家まで一生懸命走って引き返しますが、しかし妹を想う兄のひたむきさは報われず、笑われてしまうのがこの物語の切ないところです。
また、剥製の蜂雀が喋りだすことや、黄色いトマトを黄金だと思う子供の無邪気さにも、賢治作品特有のファンタジーとノスタルジーが漂っています。
「私」の幼いころの回想として描かれていることもあり、読む人は誰もが子供時代を思い出して切ない気持ちになるのではないでしょうか。