著者:宮沢賢治 1951年4月に岩波文庫から出版
風の又三郎の主要登場人物
高田三郎(たかださぶろう)
主人公の謎の多い少年。風の強い日に転校してきた風変わりな小学5年生。
嘉助(かすけ)
小学5年生。明るく活発な性格で三郎を風の又三郎だと最初に言い出した少年。
一郎(いちろう)
唯一の6年生でみんなのお兄さん的存在。兄がいる。
耕助(こうすけ)
いじめっ子の少年
1分でわかる「風の又三郎」のあらすじ
風の強い新学期に突然やってきた、赤毛の風変わりな少年。
高田三郎というその少年は伝説の風の又三郎だと噂されます。
風変わりですましているけれど優しいところのあるその少年は、嘉助や一郎をはじめ教室のみんなと徐々に仲良くなっていきます。
ですが三郎の周りではいつも大きな風が吹き、不思議なできごとや三郎の見た目も相まって風の又三郎である疑念は深まっていきます。
結局謎は解けぬまま、あっという間のうちに嵐とともに去っていった三郎なのでした。
宮沢賢治「風の又三郎」の起承転結
【起】風の又三郎 のあらすじ①
”どっどど どどうど どどうど どどう青いくるみも吹きとばせすっぱいかりんも吹きとばせどっどど どどうど どどうど どどう”この印象的で有名な一つの詩から始まる物語。
快晴で風の強く吹く9月の新学期初日、谷の岸にある一つの教室しか無い小学校に転校生がやってきます。
とても風変わりなその少年は赤い髪に熟したりんごのような顔、真っ黒でまん丸な目をしていて、灰色のだぶだぶの上着に白い半ずぼん、それに赤い革の半靴を履いています。
見慣れない外国人の様な風貌で独特の空気をはりつかせたその少年は、朝一番に一人で教室に座っていて、それを見た最初に来た子供たちはびっくりして泣き出してしまうほど。
ですが次々に集まってくるクラスの子供たちは、怖がりながらも転校生に興味深々。
転校初日が強い風が吹く日であることや、なんとも不思議な雰囲気の子であることから、嘉助が転校生は風の又三郎だと言い出し、周りのみんなもそうだと思わずにはいられません。
(物語では詳しく語られることのない風の又三郎ですが、風の神の子供であり風の精であるという言い伝えの存在。
強風により作物が荒れることもあることから、どちらかといえば悪の側であるその存在は村の子どもたちみんなが認識しています。
)夏休み気分の抜けきらない子どもたちは大騒ぎですが、そこへ先生が入ってきて転校生の紹介を始めます。
北海道の小学校からやってきたという高田三郎という名の少年。
名前を聞いた嘉助や教室の子どもたちは、やはり転校生は風の又三郎だ!という思いを一層強めます。
いつしか教室の後ろには、白いだぶだぶの麻服を着て黒いハンカチをネクタイ代わりに首に巻いた大人が、白い扇子で顔をあおいでいます。
三郎の父親だというその人物はモリブデンを採掘するためにこの村へやってきたようで、放課後は三郎とともに帰って行きます。
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【承】風の又三郎 のあらすじ②
翌日からも、三郎の動向に興味深々のクラスメイト達。
ですが、すましていて村のみんなと明らかに雰囲気の違う三郎の周りでは何かにつけて強い風が吹き、みんなは少し怖いという思いもあります。
授業中、三郎の隣で鉛筆の取り合いで兄妹喧嘩が起こり、妹のかよは泣き出してしまいます。
三郎は黙って自分の小さくなった鉛筆を兄の佐太郎に差し出し、喧嘩は収まりました。
これを一郎だけが何とも言えない気持ちで見ています。
その後ノートを一切取らなかった三郎でしたが、たった一本しかない鉛筆を佐太郎に渡してしまったのかもしれないのでした。
次の日、三郎と嘉助、一郎たちは遊ぶ約束をし湧き水のところで待ち合わせをします。
今日は雨が降るかもしれないという三郎、何かを知らせるように湧き水はぐうと鳴り木々はざあっと鳴ります。
野原へ行き、馬と戯れる子共達でしたが、三郎は馬に不慣れな様子。
それを恥ずかしがった三郎は「競馬をやろう」と言い出し、みんなで馬を無理やり走らせているうちに馬が数頭柵を超えて逃げ出してしまいます。
馬を追っているうちに草むらに迷い込む嘉助。
天気はどんどん悪くなっていき、非常に強い風が吹いて雷も見えます。
必死に一郎の名を呼ぶ嘉助でしたが、歩き疲れ草の中で眠ってしまいます。
夢の中で嘉助は、ガラスのマントガラスの靴を履いた又三郎を見ます。
無表情で口をむすんだまま空を見ている又三郎はふいに空へ飛び立ちます。
嘉助がそこで目を開けると、馬が一頭のっそり立っておりその後ろには口をむすんだ三郎の姿がありました。
一郎と一郎のお兄さんがやってきて、嘉助は喜び泣き出します。
みんなで麓に降りると空は晴れ渡り、一面光で溢れます。
嘉助は一郎に「あいづやっぱり風の神だぞ。
風の神の子っ子だぞ。」
と言うのでした。
【転】風の又三郎 のあらすじ③
次の日は耕助が嘉助を誘って、放課後に葡萄蔓をとりに行くことに。
耕助はその場所をみんなに知られるのを嫌がりますが、嘉助は三郎を誘い、結局他にも数人で行くことになります。
授業が終わるのを心待ちにしてみんなで上流に向かいます。
その途中のたばこ畑で三郎はたばこの葉をむしり「なんだいこの葉は?」と言いますが、たばこの葉をむしることは固く禁じられていて専売局にしかられると一郎は慌てます。
知らなかったと焦る三郎でしたが、三郎も一緒に葡萄蔓を取りに行くことになって面白くない耕助は意地の悪い文句を言います。
その後も自分が見つけた場所だからあまり葡萄蔓を取りすぎるなと言う耕助に、三郎は自分は葡萄蔓ではなく栗を取ると言い栗の木に登ります。
たくさん葡萄蔓を食べながら収穫した耕助が栗の木の下に来たとき、上からしずくがざーっと落ちてきました。
三郎が木を揺らして耕助に仕返しをしたのでした。
耕助は激怒しますが、みんなは大笑い。
三郎は何度か同じように気を揺らしてしずくを落とし、耕助はカンカンになって「又三郎、風なんて世界中になくなればいい」と何度も言い二人は言い合いになりますが、三郎はその度面白そうにすました返しをして笑います。
言い争いの末、二人はなんだかおかしくなってきて仲直りをしました。
一郎は自分の葡萄蔓を5房ほど三郎に渡し、みんなはそれぞれ家に帰りました。
その翌日は午後には夏のように暑くなり、みんなで川へ泳ぎに行くことに。
みんなの不格好な泳ぎを笑う三郎に、一郎は決まりが悪くなって崖から飛び込む遊びを提案します。
そうして遊んでいるうちに、魚を取りに来た大人が4人発破をしかけます。
みんなは発破で流れてくる魚をこっそり取って遊びました。
三郎は取れた魚を大人たちに渡しに行きますが、気味悪がられて受け取ってもらえず、みんなはそれを見て笑います。
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【結】風の又三郎 のあらすじ④
その翌日も三郎は嘉助達と川遊びをしに行きます。
昨日の発破を真似て佐太郎が仕掛けを持ってきますが、さっぱり魚は取れません。
仕方なく鬼ごっこをして遊び出し、そのうち三郎が鬼になります。
必死でみんなを捕まえようとする三郎でしたが、赤い髪に唇は紫色になっていて、みんなは少し怖がります。
滑る土手に集まったみんなは三郎に水をかけられて、どんどん土手から落ち三郎に捕まってしまいますが、嘉助は落ちた時に水を飲んでゴボゴボとむせ、もうこんな鬼ごっこしないと怒ってしまいます。
その時には空はだいぶ暗くなっていて、雷が鳴り出し山つなみのような音がして夕立がやってきました。
風がひゅうひゅう吹き、みんなは怖くなって一斉にねむの木の下へ逃げ出しました。
一人離れた場所にいた三郎は、泳いでみんなの元へ行こうとしまうが、その時だれからともなく「雨はざっこざっこ雨三郎、 風はどっこどっこ又三郎。」
と叫びみんなも声を合わせました。
三郎は一目散にみんなのところへきてガタガタ震えながら「いま叫んだのはおまえらだちかい。」
と聞きましたが、みんなは「そでない、そでない。」
といっしょに叫びました。
色あせた唇をきっとかんで「なんだい。」
という三郎、そのままみんなで解散します。
どっどど どどうど どどうど どどう 青いくるみも吹きとばせ すっぱいかりんも吹きとばせ どっどど どどうど どどうど どどう どっどど どどうど どどうど どどう夢の中で三郎から聞いたこの歌を聞いた一郎。
跳ね起きると外は強い風が吹いていました。
母親に「又三郎は飛んでったがもしれないもや。」
という一郎。
嘉助を誘いいつもより早く学校へ向かいます。
激しい雨と風にずぶ濡れになって学校にたどり着いた二人は、先生に又三郎は今日学校に来るかと訪ねます。
先生は「高田さんはきのうおとうさんといっしょにもうほかへ行きました。
日曜なのでみなさんにご挨拶あいさつするひまがなかったのです。」
と言い、三郎のお父さんが急遽会社から電報で呼ばれたことを説明しました。
「やっぱりあいづは風の又三郎だったな。」
嘉助は高く叫びました。
宮沢賢治「風の又三郎」を読んだ読書感想
何度読んでも、透明感のある澄み切った情景が思い浮かべられる不屈の名作です。
子供の頃に読んだ時と大人になってから読んだ時では、三郎に対する印象がまるで違いました。
子供の頃に読んだ時は、嘉助や教室の仲間たちと同様に三郎は間違いなく風の又三郎であり、人知を超えた存在なのだと疑わず、あっけなく去っていってしまった三郎のことがもっともっと知りたかったと、美しくもせつない読後感でした。
でも大人になり子供を持つ親として読んで見ると、三郎はちょっと不思議な雰囲気だけれど他のこと同じ少年で、村の少年達と違うのは見た目と話し方だけなのだと、このままこの村にとどまっていれば村の子供たちともっと仲良くなって楽しい経験がいっぱいできたのに…とせつない読後感は共通でした。
子供の非常に狭い世界での視点、子供の非常に豊かな想像力での視点、そういったものが風の又三郎を作り上げ、子供達の周りの時には荒々しく美しく、幻想的で神々しいほどの自然が、その存在を確固たるものにしたのだろうなと、強く感じる素晴らしい作品です。