著者:宮沢賢治 1937年4月に児童文学から出版
グスコーブドリの伝記の主要登場人物
グスコーブドリ(ぐすこーぶどり)
本作の主人公。苦難の中で勉強し、火山局の技師となる。
クーボー大博士(くーぼーだいはかせ)
作中での高名な学者で、グスコーブドリの師。グスコーブドリの才能を認め火山局の仕事を斡旋する。
赤ひげ(あかひげ)
仕事を失ったグスコーブドリを雇った農家。独自の工夫をするが失敗が続き、グスコーブドリに本を与えて農業の勉強をさせる。
ペンネンナーム(ぺんねんなーむ)
火山局の老技師でグスコーブドリの先輩。クーボー大博士をクーボー君と呼ぶほどのベテランだが威張ることなくグスコーブドリに丁寧に仕事を教え導く。
ネリ(ねり)
グスコーブドリの妹。人さらいにさらわれ生き別れとなる。人さらいに捨てられたところ牧場に拾われてその家の息子と結婚する。
1分でわかる「グスコーブドリの伝記」のあらすじ
イーハトーブの森できこりの家に生まれたグスコーブドリは、冷害による飢饉のために両親を失い、妹とも生き別れます。
天涯孤独となったグスコーブドリは、てぐす工場や農家で働きながらも本を読んで勉強し、独学で得た知識が著名な学者のクーボー大博士に認められて、イーハトーブの火山を管理する火山局で働くことになります。
火山局では自ら考案した肥料散布システムなどで生産性を高めて感謝されるようになり、また妹とも再会できました。
しかしまた冷害の気配が見られた時、グスコーブドリは火山を噴火させることで冷害を救済する策を考案。
その仕事のために自ら犠牲になり、イーハトーブを冷害から救うのでした。
宮沢賢治「グスコーブドリの伝記」の起承転結
【起】グスコーブドリの伝記 のあらすじ①
イーハトーブの森できこりの子として生まれたグスコーブドリ。
妹のネリとともに家族で幸せに暮らしていました。
しかしグスコーブドリが7歳のとき、イーハトーブは冷夏にみまわれます。
冷夏は数年続いてグスコーブドリの家は困窮。
両親は相次いでグスコーブドリとネリをおいて森の中に失踪してしまいました。
さらにネリまでが人さらいにさらわれて、グスコーブドリは森の中に一人残されてしまいます。
森の中で倒れたグスコーブドリは、てぐす工場の男に拾われ、仕事を手伝うこととなりました。
てぐす工場とは養蚕と製糸を行う工場のこと。
グスコーブドリが生まれ育った森はその男に買われ、家もてぐす工場とされてしまったため、幼いグスコーブドリにはそれを受け入れるしかできません。
秋になって養蚕が終わると、グスコーブドリは番人として工場に残されます。
工場には本が残されており、グスコーブドリは冬の間字を覚えたり本の内容を学ぶなどして過ごすのでした。
しかし翌年、再び養蚕が始まると火山の噴火のために森は火山灰で覆われ、養蚕ができなくなってしまいます。
てぐす工場の男は養蚕をあきらめ、グスコーブドリを置き去りにして行ってしまいました。
再び一人になったグスコーブドリは、森を出て町を目指します。
その途中、田園地帯に至ると、2人の農家が言い争いをしているところにぶつかります。
2人は沼ばたけ(この作中での田んぼのこと)に大量の肥料を入れるか否かで争っている様子。
大量の肥料を入れて3年分の収穫を得ると豪語する赤ひげの男が人手を欲しているようなので、グスコーブドリはその手伝いを申し出ました。
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【承】グスコーブドリの伝記 のあらすじ②
グスコーブドリは、人手がほしい赤ひげの手伝いをすることになり、無事に住処を得ました。
グスコーブドリは赤ひげや近隣の農家などを手伝って農作業に励みます。
しかし、グスコーブドリを雇った赤ひげは、農業に思いつきの博打を持ち込む傾向がある男でした。
3年分の収穫を得ると意気込み、大量の肥料を入れた沼ばたけでは、当初は他の農家を大きく上回る勢いで稲が育ったものの、病気が発生。
赤ひげは病気を治すと称して沼ばたけに石油をまいてみたものの、その策も失敗して収穫を得られませんでした。
赤ひげは所有していた沼ばたけの三分の一を失い、その年は失敗した沼ばたけで育てたそばで飢えをしのぐのでした。
赤ひげはさすがに危機感を持ったのか、グスコーブドリに死んだ息子の本を与えて勉強をさせます。
その翌年、またしても稲に病気ができかかりました。
しかし、グスコーブドリは冬の間の勉強の成果を見せ、見事稲の病気を治してその年は豊作を得ることができました。
ところがその翌年、さらにその翌年も干ばつに見舞われ、ほとんど収穫を得られなくなってしまいます。
日照りは数年続き、赤ひげの沼ばたけはそれまでの三分の一にまで減ってしまっていました。
肥料を買う資金も失った赤ひげは、グスコーブドリを養う余裕がなくなり、わずかなお金と服、靴を与えてグスコーブドリに暇を出すしかありませんでした。
そこでグスコーブドリは、赤ひげに与えられた本の中でも特に興味を引いた著作の著者であるクーボーに合うため、電車に乗って町を目指しました。
【転】グスコーブドリの伝記 のあらすじ③
町に着いたグスコーブドリは、クーボー大博士が開いている学校を目指します。
そこでは一ヶ月間無料で授業を受けられるのです。
グスコーブドリはようやくクーボー大博士の学校を見つけ、授業を受けます。
その授業は、6年続けて受講している生徒でもなかなか理解できない高度なものでした。
しかし、あらかじめクーボー大博士の著書で予習をしていたグスコーブドリは、その授業を理解することができました。
授業が終わり、クーボー大博士は生徒たちにノートを見せるように求めます。
それまでは流れ作業でノートを見ていたクーボー大博士。
グスコーブドリのノートを見ると非常に正しいと認め、グスコーブドリにいくつかの質問をしました。
それによどみなく答えたグスコーブドリは、一枚の名刺を与えそこに書いてある住所をたずねるように言いました。
グスコーブドリがそれに従って行った先には大きな建物。
招き入れられた内部には、イーハトーブの立体地図や様々な機械が置いてあります。
そこはイーハトーブ火山局。
昨年始まったばかりの、火山の計測などをする施設でした。
グスコーブドリは火山局に就職し、先輩技師のペンネンナームのもと仕事を覚えるとともに火山のことを学んでいきました。
噴火する火山の調整などをしながら過ごすこと数年、グスコーブドリは技師心得にまでなっていました。
そして、自ら考案した窒素肥料散布システムを実行します。
これは、肥料を買えない農家でも生産性を上げられるよになるというシステムで、イーハトーブの農家たちはこれにより収穫量を高めることができました。
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【結】グスコーブドリの伝記 のあらすじ④
肥料散布システムにより農家に感謝されるようになったグスコーブドリ。
しかし、ある農村を訪れたおり、地元の農民たちから暴行を受けて入院するはめになりました。
それは、散布される肥料を計算に入れて調整すべきだった肥料の量を間違えた地元の技師が、その失敗をグスコーブドリのせいにしたためでした。
この事件は新聞で報じられることになり、記事を見た生き別れの妹ネリが、病院を訪ねてきました。
ネリは人さらいにあったものの牧場に捨てられ、牧場の夫婦に拾われて働き、そして成長してからその家の息子のお嫁さんとなっていたのです。
それ以来グスコーブドリはネリの家族と交流したり、何度も赤ひげをたずねるなど穏やかな生活を過ごしました。
グスコーブドリ27歳のとき、冷夏の予報が出されます。
幼いころ体験した冷夏と、それに伴う飢饉、それが再来することを恐れたグスコーブドリは、寝食を忘れて対策を考え、ある方法を考え出してクーボー大博士を訪ねます。
それはカルボナード火山島を噴火させ、噴出した炭酸ガスで空を覆い、気候を高めるというものでした。
実はその方法はクーボー大博士も考えついていたものの、人工的に噴火させようとすると最後の一人はどうしても逃げられないために実行できないでいたのです。
グスコーブドリはその最後の一人になると申し出ました。
クーボー大博士は反対し、ペンネンナーム技師はその仕事は老いた自分がかわると言います。
しかし、グスコーブドリはもしこれが失敗したときに次の策を行う人がいなければならないと、自らの決意を覆そうとしません。
そしてグスコーブドリは一人火山島に残り、火山を噴火させます。
噴火によって吹き出た炭酸ガスはイーハトーブの空を覆い、冷夏はまぬがれました。
飢饉は訪れず、幼いころのグスコーブドリのような不幸に見舞われる子供たちが出ないで済んだのです。
宮沢賢治「グスコーブドリの伝記」を読んだ読書感想
グスコーブドリの伝記は宮沢賢治の作品の中で最も好きな話です。
今では日本の夏もすっかり猛暑が普通になりました。
しかし、宮沢賢治の時代には夏でも気温が上がらない冷夏があり、そのせいで農家が困窮することもままありました。
特に、宮沢賢治が愛した岩手県など東北地方では顕著だったのです。
同じ賢治作の雨ニモマケズにある「サムサノナツハオロオロアルキ」とはまさに冷夏のことを指しています。
この作品は、そんな冷夏で苦しむ農家の人達をなんとかしたいという賢治の気持ちがこもっています。
そして、それを実現させるため、作中では火山の噴火を調節するなどというオーバーテクノロジーが用いられています。
グスコーブドリは冷夏回避の方法として、火山噴火による炭酸ガスを利用します。
要するに温室効果ガスによる温暖化を意図的に起こすというもの。
この作品の時代には、大気への二酸化炭素の蓄積が温暖化を起こすという知識はあっても、それが現実の現代のように地球環境を変えて人の生活に害を及ぼすということまでは想定されていなかったのですね。
現代の常識から見るとアウトな方法ですが、賢治にとってはこれが東北の冷害を防ぐためのとっておきの方法だったのかもしれません。
そして、グスコーブドリはどうしても一人出なければならない犠牲に自らを選びます。
それは美談などではなく、自分と同じ不幸を味わう子供を出したくないという未来への希望をつなぐためにできた最善の策だったのでしょう。