五重塔 幸田露伴

幸田露伴

幸田露伴「五重塔」のあらすじを徹底解説、読んでみた感想

著者:幸田露伴 1970年1月に中央公論社から出版

五重塔の主要登場人物

<十兵衛>(じゅうべえ)
丁寧な仕事をする宮大工で、周りからはのっそりと呼ばれている主人公です。<源太>(げんた)
感応寺の本堂や庫裡を建てた宮大工の親方です。男気があり面倒見の良い性分です。<和尚さま>(おしょうさま)
谷中の感応寺の和尚です。人々に尊敬されています。<お吉>(おきち)
源太の女房。<清吉>(せいきち)
源太の下にいる大工

1分でわかる「五重塔」のあらすじ

 感応寺の朗円和尚は、誰からも慕われていました。

自然と学徒が増えて寺が手狭になり寄付を集めて寺の建設が決まります。

その寄付は本堂を建ててもまだ余分にありました。

そこで和尚の一言で五重塔を建てることになります。

すでに本堂や庫裡を手掛けた源太親方が仕事を始めようという時になり、源太より格下の十兵衛が名乗り出たのでした。

普段の十兵衛はのっそりと呼ばれ目立たない存在でしたが、十兵衛の思いは強く熱心に和尚に談判します。

恩義ある親方を差し置くことになり、周りの者も冷ややかに見守ります。

それでも十兵衛は信念に駆られ引き下がりません。

五重塔は源太親方にとっても譲れない仕事です。

二人は和尚に呼ばれ話し合う事になりました。

幸田露伴「五重塔」の起承転結

【起】五重塔 のあらすじ①

塔を造る者

感応寺での話し合いは源太の女房のお吉や十兵衛の女房のお浪にとっても一世一代の事です。

その結果を不安に思いながら待っていました。

大工の清吉などは世話になっている源太に代わって十兵衛に冷たく当たります。

十兵衛にしてみれば真面目に築き上げて来た自分の腕を後世に残る塔のために注ぎ込みたい、その他には何もいらないという思いしかありません。

感応寺では和尚から二人で話し合うよう告げられます。

同時に譲り合いの気持ちの大切さを諭されて二人は深く考え抜きます。

源太は、よくよく考えて自分一人で手掛けるはずだった仕事を半分づつにしようと十兵衛に持ちかけます。

二人で一緒に塔を完成させようと伝えます。

ところが、十兵衛はにべもなく断ってしまいます。

十兵衛の五重塔の構想は完璧に出来上がっていて、源太の意見など入れようもないのです。

もしこの仕事ができないならば死んだほうがましだと言ってしまいます。

怒った源太は十兵衛の融通の効かなさに苛立ちをぶつけて帰ってしまいました。

十兵衛は後から名乗り出た自分の非をよく理解していましたが、どうしても信念を曲げることができませんでした。

後日、申し出を取り下げるつもりで寺を訪れた十兵衛は源太が仕事を譲ってくれた事を聞かされます。

源太は少し前に寺を訪れて和尚に仕事を降りる事を告げていました。

十兵衛の仕事への思いや彼の家族の生活を思い遣ると致し方ないと思い至ったのです。

源太の男としての気概が決意させたのでした。

和尚もさりげなく二人を見守ります。

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【承】五重塔 のあらすじ②

清吉の思い

源太は十兵衛を酒の席に誘ってこれまでのように付き合いを続ける提案をします。

十兵衛も快く承諾して、わだかまりも解けました。

しかし塔の建設に源太の考えを入れ込むように話しが進むと、十兵衛は頑として断り源太との仲は決裂してしまいます。

やがて塔の建設が始まり十兵衛は生き生きと現場を仕切ります。

一方で源太の家は静まり返ってひっそりしています。

そんな時に源太と十兵衛の酒の席の経緯が、お吉や清吉の耳に入ります。

清吉にしてみれば十兵衛の態度は、世話になった源太に対してあまりに理不尽です。

十兵衛への憎悪が頂点となった清吉は、建設の始まった塔の現場に乗り込み、十兵衛へ大工道具で切りかかります。

十兵衛は耳を削がれる大怪我を負いましたが命は助かります。

清吉はすぐに鋭次親分に捕らえられ番屋に連れて行かれました。

驚いたのは源太の方です。

今までの苦い思いを飲み込んで十兵衛の家まで謝りに行きます。

お浪は言葉こそ丁寧に応じていますが、源太の指図があったのではないかといぶかるようすです。

源太にしてみれば、目にかけて来た清吉がとんでもない事をしでかした腹立たしさと、清吉の年老いた母のことが頭に浮かび複雑な思いです。

一方で、鋭次親分の番屋へは、お吉が気を回して清吉の身の振り方を考えて訪れます。

自身の言葉が清吉を犯行に走らせてしまったからです。

清吉へのお金を自分の一番良い着物を売り払って工面してやりました。

清吉は源太夫婦から受けた恩をありがたく思い別の土地へ移って行きました。

【転】五重塔 のあらすじ③

塔の棟梁

翌日、ケガをした十兵衛はいつも通り仕事に出かけようとします。

女房のお浪は驚いて、どうにか休ませようとあれこれと手を尽くして引き止めます。

そんなお浪に、仕事場での十兵衛の立場は、ケガをしたくらいで休めるほど軽いものではないことを話して聞かせます。

元がのっそりと呼ばれて見下されている十兵衛が、棟梁となって働くには1日も休む訳にはいきません。

なぜなら、職人たちは細かく指図する十兵衛の仕事のやり方に陰口を言って反発しているのです。

棟梁が休んでしまっては、職人たちも理由を付けて休む者も出て来てしまいます。

何かと手を抜こうとする職人たちをなだめたり、頭を下げたりして仕切って行かなければならないのです。

つらいと思っても自分の胸ひとつにおさめて仕事をやり切らなければなりません。

それもこれも、仕事を譲ってくれた源太や信頼して任せてくれた和尚さまを思うと、仕損じた塔などでは申し訳がたちません。

粗末な塔ができようものなら死んだ方がいいくらいです。

そこまでの言い分を聞くと、お浪は返す言葉もありません。

仕方なく十兵衛を送り出します。

一方で感応寺の現場では、棟梁は来ないだろうと思っていた職人たちは仕事場に来ると、大ケガを負ったはずの棟梁がすでにいるでわありませんか。

一人一人声をかけて出迎えています。

職人たちは肝を抜かれたように驚きます。

それ以来、職人たちはガラリと変わって仕事に励み、十兵衛のケガの影響が出ないようにそれぞれに手を尽くして、今までより何倍もの働きをするのでした。

十兵衛の傷が癒える頃になり、ようやく塔は完成しました。

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【結】五重塔 のあらすじ④

暴風の後に

感応寺の塔が見事に完成しました。

徐々に足場が取り払われその姿が現れて行きます。

立派にそびえる五重塔は細かいところまで手の込んだつくりに施されています。

どこから見ても人々を感嘆させました。

十兵衛をのっそりと蔑んでいた人も、後世に名を残す棟梁だと褒め称えます。

塔の落成式も盛大に開かれることになりました。

ところが、準備の進む中、普段にはない悪天候に見舞われます。

雨戸を閉めてもなお激しく猛威を振るう暴風雨となりました。

五重塔も矢のような雨に大きく揺れています。

不安に駆られる寺の僧たちは十兵衛を呼びます。

しかし、和尚さまがこの程度の天候で塔がどうにかなると思われるはずがないと思います。

塔はどんな風雨にも耐える造りだから大丈夫だと言って動こうとしません。

あまりの頑固に僧たちは和尚さまの仰せだと偽りの言葉を告げます。

和尚さまの信頼を失ったと愕然とする十兵衛は深く落胆します。

温かく見守ってくれた和尚さまは信じてくれていたはずです。

それだけに、命がけで完成させた五重塔がそんなに脆いと思われるのは耐えがたく、正気を失って狂ったように怒ります。

いっその事、自分の持つ技術を全て注いで見事と言われる塔であっても、今の気持ちをわからせるためなら何でもしてやりたいとさえ思います。

この暴風雨で塔が倒れてしまえばいい、その塔で棟梁である自分が死んでしまえば、その誉れを地に落としてやれるとまで思い込みます。

そう思うと暴風の中に飛び出して行きました。

誰も止められません。

使いの者も置き去りにして、塔の五層めの欄干につかまって今にも飛び降りようとします。

ところが塔の周りには思いもよらず源太親方の姿がありました。

そして暴風雨の去った後には様々な話しが語られました。

中でも棟梁の師匠は暴風雨の中、怒りに駆られた棟梁を叱り飛ばして諭した逸話が噂になりました。

その後は落成式も無事に済んだある日、和尚さまは源太と十兵衛を五重塔に呼ばれました。

二人の前で十兵衛これを造り、川越源太これを成すと記されました。

そして、それより百年語り継がれました。

幸田露伴「五重塔」を読んだ読書感想

江戸時代の五重塔を建てた職人の魂を感じる作品です。

一棟の塔の建設を手掛ける職人の生き様は、人生を賭けて挑んでいるのを見せつけられます。

主人公の十兵衛はのっそりと呼ばれる不器用なキャラです。

けれども、塔を建てる気持ちは人一倍い強く、世話になった親方でさえ押し退けます。

最初は意固地さに呆れますが、これが職人気質なのだろうと納得していってしまいます。

ふと、自分にもこんなに強い執着心があればもっと人生が好転するのではないかと思わされます。

そんな十兵衛をめぐって事件が起こります。

関わる人の心情の描写が秀逸で、それぞれの人に感情を重ねずにはいられません。

他人への思いやりがあり、とても温かく責任感を持って接しています。

十兵衛に対しても最初は驚いていましたが、心配したり腹を立てたりしながらも彼を温かく見守っているのを最後まで感じ取れます。

今まで何となく見ていた日本の建造物は、十兵衛のような人たちによって、真面目に丁寧に造られて来たと思うと現地に行ってじっくりと見てみたいと思いました。

-幸田露伴

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