山の音 川端康成

川端康成

川端康成「山の音」のあらすじを徹底解説、読んでみた感想

著者:川端康成 1954年4月に筑摩書房から出版

山の音の主要登場人物

尾形信吾(おがたしんご)
62歳。鎌倉に妻と息子夫婦と住んでいる。会社勤めをしており、会社では重役クラス。息子の嫁の菊子に仄かに想いを寄せる。

尾形保子(おがたやすこ)
信吾の妻。信吾より一つ年上。若くして死んだ美しい姉を持ち、かつては、その姉が嫁いだ美男の義兄に想いを寄せていた過去を持つ。

尾形修一(おがたしゅういち)
信吾の息子。戦争から復員してきた。今は、信吾と同じ会社で働いている。妻の菊子がいながら、他の女性、絹子と付き合っている。

尾形菊子(おがたきくこ)
修一の妻。年齢は、二十を少しばかり過ぎた頃。嫁いで来たばかりの頃は、まだ幾分子供っぽさが残っていたが、修一の浮気が皮肉にも彼女に色気を添えさせた。

相原房子(あいはらふさこ)
信吾の娘。修一の姉。結婚していたが、二人の子供里子、国子を連れて、実家に出戻って来た。

1分でわかる「山の音」のあらすじ

昭和二十年代の鎌倉。

戦争の傷跡は、目には見えねど、まだ人々の心に強い影を落としていた時代の話です。

主人公、尾形信吾は、62歳。

妻と、息子夫婦と共に暮らしています。

そんな信吾に近頃届くのは、友人の訃報ばかり。

信吾も自分の死が近付いているのではないかと考えてしまいます。

更には、妻の菊子がありながら外に女を作っている息子の修一の堕落ぶりや、出戻りの房子とその連れ子たちの存在が、信吾の心を重たくします。

そんな信吾は、密かに菊子に想いを寄せ、それを支えに生きているのでした。

川端康成「山の音」の起承転結

【起】山の音 のあらすじ①

山の音に恐怖を覚える信吾

終戦から数年が経ち、物不足も解消していましたが、未だに派手な格好の娼婦(パンパン)もいる、そんな昭和二十年代の鎌倉。

信吾は、ある夜、妻保子のいびきで目が覚めました。

いびきを止める為、妻の鼻や咽に触れますが、それ以外では妻の体に触れることも無くなったことに気付いて、哀しくなります。

涼むため、雨戸を開けて、外を見ていると、信吾はふと山が鳴る音を聴きます。

数日後、それを家族に話すと、息子修一の嫁の菊子が、以前、お母さま(保子のこと)の姉が亡くなる前に山が鳴る音を聞いたという話をお母さまから聞いたことがあると言うではありませんか。

山の音は、死の前兆なのでしょうか。

信吾は、恐怖を覚えます。

修一と菊子は、結婚して二年経ちますが、菊子が懐妊する気配はなく、修一は外に女がいる様子。

信吾は、そんな菊子を気遣いつつ、仄かな想いを寄せます。

かつての同窓の友たちも、次々と亡くなって、その葬式の知らせばかりが届くようになり、死というものに思いを馳せずにはいられない年齢。

そして、思い通りにならない家族たち。

信吾は、そんな重苦しい現実を生きる中で、菊子とのささやかな交流が救いだったのです。

また、その頃から、信吾は不思議な夢を見ることが多くなりました。

ある夢の中では、死者に会い、ある夢の中では見知らぬ若い女性と抱擁したりするのですが、いずれの夢も妙に生々しいのです。

そんな中、信吾は時折、若い頃に密かに想いを寄せていた保子の美しい姉のことを思い出します。

保子は保子で、姉が嫁いだ美男の義兄に想いを寄せ、姉が嫁ぎ先で亡くなった後、その後妻になりたいと願っていた時期がありました。

菊子への想いは、そんな若かりし頃の保子への姉への思慕が影響しているのではないかと信吾は考えます。

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【承】山の音 のあらすじ②

出戻って来た娘房子と二人の連れ子

ある日、信吾の娘の房子が子供二人を連れて、帰って来ました。

ただ実家に顔を出したというよりは、出戻って来た感じです。

房子は夫相原と上手くいってない様子なのですが、それを殊更、話題にはしません。

どうも房子は、両親に相原との離婚話を進めさせようとの魂胆らしいのです。

しかし、実家には修一の嫁の菊子がいて、その菊子は父に優しくされています。

それが面白くなかったのか、二度、房子は子供たちを連れて、相原の家に戻ります。

しかし、やり直しは出来なかったと見え、二度とも房子は子供たちを連れて実家に帰ってきてしまうのです。

一方、修一が囲っている女についての情報を、信吾は会社の女事務員の谷崎英子から聞き出します。

そして、英子がその女が住んでいる家に行ったことがあるというのを聞くと、信吾は案内をしてくれるよう頼みました。

しかし、実際、案内された家の前に来ても、中に立ち入れず通り過ぎただけでした。

年が明けて、元旦の日、英子が新年の挨拶に信吾の家を訪れました。

そして、帰り際に、修一の妻である菊子とも顔を合わせます。

その菊子を見て彼女を気に入った英子はある決心をします。

それから、しばらくして英子は、池田という一人の女性を信吾の会社に連れてきました。

池田は、修一の妾である絹子の同居人でした。

絹子と池田は、共に戦争未亡人で、二人が住む家に修一が来ると、酒に酔って荒れた修一は、絹子に歌を歌わせようとするらしいのです。

しかし、絹子が歌えないので、代わりに池田が歌うのですが、そうしていると、二人は非常に惨めな思いになるといいます。

池田が言うには、そういう行為を修一は戦地での女遊びで覚えたのではないか、そうなると自分たちの夫もそうやって同じように戦地で女遊びをしていたように思われて悲しくなると言うのです。

また、池田は、信吾が嫁の菊子を可愛がっていることも知っていて、そのような修一の悪趣味な女遊びを辞めさせるには、息子夫婦と別居するのが一番だと言います。

そこまで他人に自分の家の事情に足を踏み入れて欲しくないと思う一方で、妙に納得して、その方がいいと思ってしまう信吾なのでした。

【転】山の音 のあらすじ③

子供たちの別居話も離婚話も進まない中、菊子が中絶する

しかし、息子夫婦の別居の話を家ですると、房子が怒り出します。

彼女いわく、夫は、お前の性質が悪いのは父親に可愛がられなかったからだと言われたと言います。

だから、房子は、実の娘である自分よりも可愛がられている菊子の存在が気に入らないのです。

そんな房子の夫婦仲の悪さは、房子の第一子里子の性格の歪みにも現れていました。

一方、菊子に別居の話をすると、菊子は涙を浮かべて嫌がります。

自分は信吾の優しさに甘えさせてもらってきた、もし修一とだけで暮らしたら、一人で修一の帰りを待たなくちゃいけなくなる、それは辛い、と。

そして、自分は8人兄弟の末っ子として育ったので、甘えて育ってきた、そんな自分だから優しい信吾のそばにいるのが案外好きなのだ、とも。

複雑に入り乱れる家族たちの感情。

房子の離婚話も、修一たち夫婦の別居話も進められないまま、信吾はだらだらと決定を先延ばしにしてしまいます。

そんなある日、東京に出掛けて帰って来た菊子が具合悪そうにしているのを見て心配した信吾は、修一に訳を問いただします。

修一は、父親に詰問されて、渋々、実は菊子が昨日、病院に行って中絶して来たと話します。

その理由は、今は夫婦仲が良くない状態だから、そんな時期に子供を産みたくないと潔癖な菊子が頑なに言ったからだそうです。

信吾は、菊子を気遣います。

菊子の調子は悪く、翌日、医者の診察を受けに行った後、実家に帰り、しばらく養生することになりました。

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【結】山の音 のあらすじ④

雨降って地固まる尾形家

菊子が不在の尾形家。

菊子の代わりに房子が作った料理を信吾が下を向いて食べているのを見て、自分が作ったのは菊子のものと違ってまずいからなのだと房子が泣いて言います。

そんな房子に、信吾はこの際、心の内の全てを話してごらんと促します。

更に、房子にも保子にも隠れて、実は相原の実家にいる年老いた母親に見舞金を毎月届けていたこと、会社の人を使って調べさせたところによると相原が現在行っている仕事は麻薬の販売のようなことで、相原自身が既に麻薬中毒になっているらしいことまで知っていたことを話します。

房子は、自分の知らないところで父親がそこまで自分のために動いていたことを知り、急に大人しくなりました。

 数日後、菊子は実家から尾形家へ戻って来ました。

菊子の中絶の一件の後、修一は会社から早く帰宅するようになりましたし、日曜も出掛けなくなりました。

どうやら夫婦仲が改善したようです。

ある朝、新聞で相原が心中をしたことが書かれていました。

相手の女性は死に、相原の方は、助かりそうだとも。

実は、その数日前に相原から離婚届が房子のところに送られて来ていたのです。

これで、房子の離婚は決定的になりました。

また、英子が信吾に告げるには、絹子が妊娠しているとのこと。

信吾は、絹子の家を訪れ、絹子に子供を産まないよう頼みますが、修一とは別れることは了承するものの、子供を堕胎することは頑なに断られます。

そんな絹子に対し、信吾は手切れ金としての小切手を渡すことしか出来ないのでした。

思いがけず房子の問題も、修一の問題も片付きました。

一家は7人に増えましたが、何とかやっていけそうです。

房子は、信吾に小さな店を持たせてくれないか頼みます。

それを私も手伝うと菊子。

完全に家族間のわだかまりが解けた訳ではないですが、尾形家に新しい生活が始まろうとしていました。

川端康成「山の音」を読んだ読書感想

私は、川端康成の作品を読んだのは、この作品が初めてです。

近代文学の小説は、何となく敷居が高い気がして、学校の国語の授業で扱われたもの以外は、一部の作家のものしか読んだことが無かったのです。

しかし、この作品を読んで、川端康成の観察眼の鋭さと繊細さに衝撃を受けました。

そして、もっと彼の作品に触れたいと思うようになりました。

以前、テレビ番組で谷崎潤一郎のことが取り上げられていて、彼が作品で描く老いと性の問題について、現代の小説家が述べていました。

医学が進歩して、高齢化に伴い、そういった作品がこれから増えていくのではないか、その系統を作り出したのが谷崎ではないかと、その作家は解説していました。

それに関して言えば、この「山の音」もその系統に属するのではないかと思います。

ただ、川端康成のそれは、品が良く、抑えた感じで書かれているのが好印象を与えます。

一方で、家族の複雑な心情も信吾の目を通してこの作品では描かれています。

一筋縄ではいかない家族という人間関係の重さが、ひしひしと伝わってきて、それは現代にも通じることなので、考えさせられる部分があります。

-川端康成

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