火縄銃 江戸川乱歩

江戸川乱歩

江戸川乱歩「火縄銃」のあらすじを徹底解説、読んでみた感想

著者:江戸川乱歩 1932年に平凡社(青空文庫)から出版

火縄銃の主要登場人物

私(わたし)
本作の語り部で、林一郎に招かれて橘とともにA山麓Sホテルに向かいます

橘(たちばな)
「私」の友人で、A山麓Sホテルで起こった事件の謎を探ります

林一郎(はやしいちろう)
「私」の友人A山麓Sホテル滞在中に「私」を誘いますが、「私」と橘の訪問時に寝室で死亡しているのが発見されます。

林二郎(はやしじろう)
林一郎の義理の弟で、普段からの不仲や一郎死亡時の足取りを話さないことで一郎殺害の容疑者として取り調べを受けます。

1分でわかる「火縄銃」のあらすじ

語り部の「私」と友人の橘は、「私」の友人の林一郎の誘いを受けてA山麓Sホテルに行きますが、そこで一郎は胸を撃たれて死亡していました。

一郎の義弟の二郎は、普段から一郎と不仲であったこと、一郎の死体の側に遭った猟銃の持ち主であったこと、一郎の死亡推定時国前後の足取りを話さないことから容疑者として警察の取り調べを受けます。

しかし、橘はこの事件が火縄銃の暴発による事故であると見抜き、実際に水の入った玻璃瓶によって太陽光が集められ、火縄銃が発射させられる様子を刑事たちに見せて事件の真相を明らかにしました。

江戸川乱歩「火縄銃」の起承転結

【起】火縄銃 のあらすじ①

林一郎の死

ある年の冬休み、「私」は友人の林一郎から手紙を受け取ります。

「弟の二郎と1週間ほど前から狩猟に来ているが、二人だけでは面白くないから暇があれば遊びに来ないか」というのです。

丁度、退屈な冬休みの日々を過ごしていた私は、一郎と日頃仲の悪い義弟の二郎もいることが少し気がかりではあったものの、渡りに船とばかりに友人の橘を誘って封筒に記されていたA山麓Sホテルに向かいます。

十二月の小春日和の暖かい日、私と橘は身一つで電車に乗って目的地に向かいますが、橘は詩を口ずさみながら窓の外の景色を見ていました。

およそ三時間後、二人を乗せた電車は停車場に着きますが、急に思い立って来たためホテルから出迎えはなく、二人は車でホテルに向かいます。

ホテルに着くとボーイが二人を出迎え、弟の二郎はどこかへ出かけてしまいましたが、一郎はいつもこの時間は裏の離れで昼寝をしているというので案内してもらいます。

一郎の昼寝中、離れのドアは内から施錠されていたためボーイは軽くドアをノックしますが、返事はありません。

二人は一郎に起きるよう呼びかけ、遂にはドアを強く叩き怒鳴りますが、どんなに大声で呼んでも返事がありません。

不審に思った二人はボーイに頼んで合鍵を母屋から持ってこさせてドアを開けてもらいますが、そこではベッドの上でチョッキ一枚の一郎が死んでいました。

左胸に銃で撃たれたような痕があり、血液はシーツにしみこんでまだ濡れていました。

私は放心状態に陥り、何もすることが出来ず橘の動きを見守っていました。

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【承】火縄銃 のあらすじ②

警察の捜査

橘は林の死体をじっと見つめていましたが、狼狽するボーイに警察を呼ぶよう伝えると、部屋の内部をじっくり見まわし始めました。

東側と北側は壁でその隅にベッドと洋箪笥があります。

出入口は西側で、この部屋の出入り口はここしかありません。

南側の窓は二つで片方の窓の近くにはテーブルがあり、本立てと洋書、水の入った玻璃瓶、ペンとインキ、手紙一通が置かれ、その前には旧式の猟銃が無造作に投げ出されていました。

更に、テーブルの前の窓が半開きになっていましたが、橘はその窓から首を出して外を眺めたり、猟銃を見つめたりしていましたが、やがて廊下から慌ただしい足音が聞こえてきました。

すると、橘は急いで鉛筆を取り出し机の上の猟銃と玻璃便の位置に印を付け、窓にも開き加減が分かるよう印を付けました。

ほどなくしてボーイの通報で駆け付けた警察官の一行が離れの部屋に入ってきました。

警察官たちは部屋や遺留品を調べ、死体の胸辺りから鎖付きの懐中時計を取り出し、時計の針が一時半で止まっていたことから死亡推定時刻を一時半と割り出しました。

同時刻に大きな音を聞いた者もいましたが、裏山では日常的に狩猟が行われているため、誰も気に留めていませんでした。

続いて、猟銃の持ち主を聞くとホテルの支配人から猟銃が一郎の義弟の二郎のものであること、二郎は現在留守にしていることを伝えられますが、一郎は別に最新式の連発銃を持っていました。

更に、窓の下には下駄の跡が残されていたのも見つかります。

そこに二郎が部屋に入ってきますが、警察官たちは二郎に疑いの目を向け、今までどこにいたのか問い詰めますが、二郎は答えません。

そして、二郎は警察官たちに拘留されてしまいます。

【転】火縄銃 のあらすじ③

橘と刑事

二郎が拘留された後も、私と橘はホテルに残っていました。

私は橘にどこへ行っていたのか聞きますが、橘は突然笑い始めます。

そして、橘は一郎の死を「単純過ぎる位単純な事件」と断言します。

そこにボーイに案内されて刑事がやってきますが、二郎は自白したかという橘の問いには答えず、死体発見当時の様子を改めて詳しく聞きたいとのことでした。

しかし、橘は皮肉そうな笑みを浮かべて刑事に「詳しく調べる必要はない」と言います。

怒る刑事に「この事件は犯罪ではない。

従って犯人もおらず、犯行を調べる必要もない」と返します。

私も刑事も驚きますが、刑事の問いかけに対し橘は「自殺でも過失死でもない」と答えます。

橘の言葉を信じず、侮蔑の色さえ浮かべる刑事ですが、橘は「犯罪ではないが、他殺でないとまでは言わない」と説明します。

なおも揶揄するような態度を崩さない刑事に対し、橘は「明日その証拠をお見せする」と言い放ちます。

そんな珍しい証拠があるなら見てみたいと挑発的な態度を取る刑事ですが、橘は「明日にならなければお見せすることができない。

ともかく明日一時にここへ来てください」と伝えます。

ただし、「雨天か、少しでも曇っていたら駄目だと思ってください」とも付け加えます。

刑事は疑問に思いますが、橘は詳しくは答えず「必ずあの火縄銃を持って来てください」とだけ依頼します。

結局、刑事は「明日を楽しみにして、今日はこれで失礼しよう」と出ていきますが、刑事の態度に立腹する橘に対し、私もその真意を測りかねていました。

私は証拠とは何かと橘に問いますが、「風変わりな花瓶が証拠だ」とだけ言われても私にはやはりその意味がさっぱり分かりません。

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【結】火縄銃 のあらすじ④

事件の真相

翌日、良く晴れた日の下で昨日の刑事は二人の巡査と共に一時丁度にやってきました。

もちろん、あの火縄銃も持って来ています。

刑事や巡査、ホテルのボーイに支配人も離れに集まる中、橘は部屋の西南隅のテーブルの上に昨日と同じように物を並べます。

火縄銃には火薬と弾丸を装填し、玻璃瓶は特に注意して置かれ、テーブル前の窓も印を付けてあったところまで開かれています。

更に、橘はボーイに耳打ちをしてチョッキを着せた等身大の藁人形を持ってこさせ、部屋の隅のベッドの上に死体と同じように藁人形を寝かせます。

そして、橘は、昨日林がどのようにして胸に銃弾を受けたのかをお目に懸けると宣言します。

橘はまず改めてこの事件に犯人はいないと言います。

二郎への嫌疑も、「どれだけ迂闊な人間でも自分の銃で人を殺し、現場に置いて逃げるような馬鹿な真似はしない」「窓の外の足跡は往復共に同じ歩幅で非常に狭く、殺人を犯した人間がこんなに落ち着いて帰られるわけがない」「ボーイから二郎が外出すると直ぐに二階に滞在中の老紳士の令嬢が外出し、令嬢と二郎が同じくらいの時間に戻ったと聞いた」「二郎が一郎に殺意を抱いていたとしても、毎日狩猟に行く裏山でやればよく、また万一現場を見られても狩猟の際の誤射だと言い逃れできるので、わざわざ人の多いホテルを犯行場所に選ぶ筈はない」と次々に否定していきます。

一同が固唾を飲む中、一時半になると、水の入った玻璃瓶が虫眼鏡のレンズのように太陽光を収束し、太陽の移動と共に猟銃の点火孔へと近づき遂には火縄銃が発射されました。

銃声を聞いた一同がベッドを見ると、藁人形の胸にははっきりと撃たれた跡が残っていました。

江戸川乱歩「火縄銃」を読んだ読書感想

江戸川乱歩の短編推理小説ですが、明智小五郎といったの他作品の人物は出てこず独立した物語です。

一つの事件に発端、事件、疑惑、刑事や相方(助手)とのやり取り、ミスリードを含む疑惑の否定、探偵による真相の開示と探偵ものの王道をしっかり描いており、短いながらも見事にまとめられています。

また、「犯人がいない事件(今回の場合は事故死)」という結末を描いており、探偵小説自体が黎明期だった時代にこうした挑戦的な内容を書くのは乱歩らしいと思います。

犯人と疑われても令嬢との逢瀬を直ぐには話さなかった二郎には若干ツッコミを入れたいですが、彼らのことも掘り下げられていればもっと面白くなったかもしれないとも思ってしまいます。

この作品が世に出たのは1935年ですが、構想自体は早稲田大学在学中に作っていたようでそこからも乱歩の創作への思いの強さがうかがえます。

反面、今作の橘は今作限りの登場のようで、ある意味明智小五郎のプロトタイプのような存在だと思うと、これも興味深い点ではあります。

-江戸川乱歩

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