著者:宮沢賢治 1989年6月に新潮社から出版
銀河鉄道の夜の主要登場人物
ジョバンニ(じょばんに)
本作品の主人公。家が貧しく、日中に学校へ行っている以外は朝も夜も働いている。病気がちの母親と暮らしており、父親は長期不在中。
カムパネルラ(かむぱねるら)
ジョバンニの幼馴染で親友。幼いころはジョバンニとよく遊んでいたが、ジョバンニが働き始めてからは一緒に過ごす時間は減っていた。星祭の夜、ジョバンニと共に銀河鉄道に乗り込み旅をする。
ザネリ(ざねり)
ジョバンニとカムパネルラの同級生で、ジョバンニを冷やかして笑ういじめっ子の一人。夜の川に落ちたところをカムパネルラに助けられる。
かおる子(かおるこ)
十二歳ほどの女の子。ジョバンニとカムパネルラに蠍の火の物語を話す。
1分でわかる「銀河鉄道の夜」のあらすじ
星祭の夜、いつの間にか銀河鉄道に乗り込んでいたジョバンニですが、そこには親友のカンパネルラの姿がありました。
二人は列車に乗って銀河を旅をする道中で、様々な人と出会い、話をしていくうちに、「ほんとうの幸い」とはなんだろう、と意識し、考えるようになります。
ジョバンニとカムパネルラは他の人のほんとうの幸いのために生きよう、誓います。
しかしその直後にジョバンニは姿を消してしまうのです。
泣いて叫ぶジョバンニでしたが、ふと目を開けるとそこは丘の上で、ジョバンイニは銀河鉄道に乗っていたことは夢だったのだと思いました。
そうして家で待っている母親のことを思い出し、牛乳をもらって帰り道へと向かいます。
しかし川まで戻ったところで「こどもが水へ落ちた」と聞き、カムパネルラが川へ落ちたザネリを助けた後、そのまま彼が行方不明になってしまった事を知るのでした。
宮沢賢治「銀河鉄道の夜」の起承転結
【起】銀河鉄道の夜 のあらすじ①
物語は星祭の日、主人公のジョバンニが学校の授業で天の川について尋ねられる場面から始まります。
いつか親友のカムパレルラの家で読んだ雑誌に書いてあった銀河の話をジョバンニはよく覚えていましたが、朝も午後も働いて意識がふらつく彼には、先生の問いに答えることができません。
次に指名されたのはカムパネルラでしたが、ジョバンニを気遣った彼もまた答えを口にしませんでした。
先生は天の川の説明をした後皆に、その日催される銀河のお祭りで空をよく見てご覧なさい、と言うのでした。
放課後になるとジョバンニは活版所へと赴き、活字拾いの仕事をこなします。
仕事の報酬でパンと角砂糖一袋を買うと走って家へと帰りました。
家では病気のお母さんが休んでおり、ジョバンニとお母さんは家になかなか帰ってこれない父親の話や、クラスメイトがジョバンニを父親のことでからかってくること、けれどカムパネルラは決して一緒になって悪口を言ってきたりしないことを話しました。
そうして話をした後、ジョバンニは牛乳を取りに行くついでに星祭に流す明かりを見に行くことにするのですが、道中でザネリが現れ、またジョバンニのことをからかってきます。
その上、もらいに行った牛乳は用意ができておらず後で来てくれと言われる始末です。
ジョバンニがしかたなく牧場を出て町の角を曲がると、再びザネリの姿が見えました。
他の同級生も一緒で、その中にはカムパネルラもいます。
ザネリや同級生たちはいつもと同じように、ジョバンニに「ラッコの上着がくるよ」と叫びました。
カムパネルラはきのどくそうにジョバンニの方を見ています。
なんとも言えずにさびしくなったジョバンニは丘の上まで逃げ走り、ひとりで野原にある天気輪の下に寝ころびました。
やがて、野原から汽車の音がしたかと思うと突然、「銀河ステーション」というアナウンスが聞こえました。
ぱっと目の前が明るくなり、ジョバンニはいつの間にか銀河鉄道に乗車していました。
そしてそこにはなぜか親友のカムパネルラも一緒にいたのです。
カムパネルラは、みんなは遅れてしまい、ザネリも父親が迎えに来たから帰ったのだと言いました。
カムパネルラの顔色は少し青ざめて見えましたが、ジョバンニは窓の外を眺めて二人で話をしているうちに段々と愉快な気持ちになってくるのでした。
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【承】銀河鉄道の夜 のあらすじ②
カムパネルラは突然「おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだろうか」と心配そうに言いました。
「ぼくはおっかさんが、ほんとうに幸いになるなら、どんなことでもする。
けれども、いったいどんなことが、おっかさんのいちばんの幸なのだろう」、そう言うカムパネルラを見て、ジョバンニはびっくりしていました。
泣き出したいのを懸命にこらえている様子のカムパネルラでしたが、なにかを決意しているように見えました。
汽車はきらびやかな銀河の川床の真ん中にある島へとさしかかります。
車内の人々にならって島の十字架へ祈りを捧げたジョバンニとカムパネルラは、やがて白鳥の停留所に着くと二人で駅に降り立ちました。
停留所の近くには河原があり、川上の方にはプリシオン海岸と標札が立っています。
河原の礫はみんな透き通り、水晶やトパーズや青白い光を出す鋼玉でした。
ジョバンニ達が川上へ向かうと、そこにはボスという牛の祖先の骨を掘り起こす大学士と、三人の助手がいました。
二人は大学士の話を聞くと電車に遅れないようにかけ戻り、間もなくもとの座席へと座りました。
汽車に戻ると、赤ひげの男が二人に声をかけてきました。
男は自分を鳥捕りだと言い、ジョバンニとカムパネルラに雁を分けて食べさせてくれました。
雁はまるでお菓子のような味がします。
ジョバンニは鳥捕りのことをやはり菓子屋なのだと思いましたが、このひとを馬鹿にしながらこのお菓子を食べるのは大変気の毒だとも思いました。
ところが鳥捕りは燈台守にも雁を分けるとにわかに汽車を降りていき、あっという間に鷺を捕まえて戻って来るのでした。
【転】銀河鉄道の夜 のあらすじ③
白鳥区を過ぎた頃、三人の席まで赤い帽子を被った車掌が切符を拝見しにやってきました。
わけもないという風に切符を差し出すカムパネルラに対して慌てたジョバンニでしたが、彼の上着のポケットにはどこまででも行ける特別な切符が入っていました。
三人でその切符をまじまじと見ているうち、汽車は「鷲の停車場」に着き、いつの間にか鳥捕りはいなくなっています。
そうして今度は黒い服を着た背の高い青年と、十二ばかりの茶色い目をした女の子と、六つばかりのつやつやとした黒髪の男の子が列車に乗ってきました。
女の子はかおる子、男の子はタダシという名前です。
背の高い青年は二人の家庭教師で、三人は乗っていた船が氷山にぶつかって沈んだのだと言いました。
汽車はがたごとと揺れながら、天の川の分流点を超えて、崖の上を通ります。
その間五人は窓の外に様々な不思議なものを見ました。
美しい孔雀、何万という小さな鳥たち、その鳥に旗で合図を送って星の川を渡らせる旗振り、そらの野原の地平線まで植えられたとうもろこしの木々に踊るインディアンに空の工兵大隊までいます。
途中で真っ赤に燃える美しい蠍が見が見えると、かおる子はその蠍の話をジョバンニとカムパネルラに聞かせました。
蠍は井戸に落ちて溺れた際に、どうかこの命をまことのみんなの幸いのために使ってくださいと祈ったことで、真っ赤な美しい火になってよるの闇を照らすようになったのだと言いました。
五人が話をしているうちに、汽車はサウザンクロス駅に到着しました。
青年とかおる子とタダシは天上に行くために、そこで降りて行ってしまいました。
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【結】銀河鉄道の夜 のあらすじ④
サウザンクロス駅を出ると、ジョバンニとカムパネルラはまた二人きりになりました。
ジョバンニはああと深く息をして「カムパネルラ、また僕たちふたりきりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。
僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸いのためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない」と言いました。
その言葉にカムパネルラも頷きます。
けれども二人はほんとうのさいわいというものが何かわからない、とも思いました。
みんなのほんとうのさいわいを探しにいこうと約束をしたとき、空の野原にカムパネルラが母親がいるのを見つけます。
けれどジョバンニにはその姿は見えませんでした。
もう一度、ジョバンニが「カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねえ。」
と言ってカムパネルラのほうを見ると、そこにはもう誰もおらず、空席になったびろうどの座席があるだけでした。
ジョバンニは叫び、泣き出しました。
そうしてあたりが真っ暗になり、次に眼をひらくとジョバンニは丘の上に一人でいました。
たった今までのことは夢だったのだと思ったジョバンニは家で待っているであろう母親のことを思い出し、牛乳をもらいに牧場へと向かいます。
今度は準備されていた牛乳の瓶をすぐに受け取って、さっきカムパネルラと会った川へと戻りました。
しかし、川の近くに人が集まってひそひそ話をしています。
ジョバンニは不安になって、何があったのかを訪ねると「こどもが水へ落ちた」というのです。
そうしてジョバンニはカムパネルラが川へ落ちたザネリを助けた後、そのまま行方不明になってしまった事を知りました。
川べりには知らせを受けたカムパネルラの父親も来ていましたが、息子が川へ落ちてから時間が経っていたため、助けることを諦めているようでした。
ジョバンニはカムパネルラの父親に駆け寄るものの、何も言うことが出来ません。
代わりに自分の父親がもうすぐ帰ってくるという知らせを聞き、もう色んなことで胸がいっぱいになったジョバンニは、牛乳を持って母の待つ家へ走りました。
宮沢賢治「銀河鉄道の夜」を読んだ読書感想
一度読むと忘れられない、まさに不屈の名作と呼ばれるにふさわしい作品です。
物語は「ほんとうの幸いとは何か」という哲学的なテーマについて、主人公のジョバンニと共に旅を通して少しずつ意識して考えさせるように進められていきます。
はっきりとした答えを提示するようなことはなく、読み手に問いかけてくる本作品は、人によって解釈の仕方が大きく変わる物語でもあるために、それがいっそう魅力的に感じます。
ジョバンニと共に銀河鉄道に乗っている親友のカムパネルラや途中で出会う沈没船に乗っていた三人は、自己犠牲により他人を助けたほどに他人の幸せを考えた人間ですが、決意をしたカムパネルラ自身も「ほんとうのさいわいは一体なんだろう」と呟くところが印象的でした。
この作品の素晴らしいところは、幻想的な銀河の描かれ方にもあります。
お話の中には、白鳥の停留所に着く少し前に見えた「白十字」は白鳥座の北十字、「真っ赤に燃える蠍の火」は有名なさそり座の心臓部あたるアンタレス、「サザンクロス」は一等星を二つももつ天の川の中にある中でも特に目立つ星座というように、実在する星の名前がいくつも登場します。
それらに沿って銀河鉄道は順も正しく線路を走り、輝く河原やらボスの発掘されるプリオシン海岸やら、やれお菓子のような味に変わる雁の群れやら旗振りやらも絡んでくることで独特の世界観を見事に作りあげています。
また、作品をとおして銀河の星々に「満天の星」というような表現は一切使われず、それらはページいっぱいの白い点々であったり、白い空の帯であったり、星屑ですら中で小さな火の燃える水晶であったり、美しい燐光であったりします。
これほど多彩な表現方法で銀河を表現しているのは流石は文豪としか言いようがありません。
この宮沢賢治の非凡なる表現方法はよりリアルに、そして鮮明に、読み手を銀河の旅へと連れて行ってくれます。
読み終えたその日の夜、眠ろうと目を閉じれば想い起こされるのは数億もの星々が輝く美しい空、そんな不思議な体験のできる作品です。