人間腸詰 夢野久作

夢野久作

夢野久作「人間腸詰」のあらすじを徹底解説、読んでみた感想

人間腸詰の主要登場人物

治吉(はるきち)
作中で〈あっし〉となっている語り手。大工。事件当時27歳。

フイフイ(ふいふい)
17、8歳。カント・デックの情婦。本名は中田フジ子。

チイチイ(ちいちい)
22、3歳。カント・デックの情婦。中国人とイタリア人の混血。

カント・デック(かんとでっく)
セントルイスのギャングの親分。

藤村(ふじむら)
建築士。

1分でわかる「人間腸詰」のあらすじ

明治三十七年(1904年)、大工の治吉は、セントルイス万博に出店する台湾館を施行するために渡米しました。

無事に建物を造り終わると、庭園を造成した庭師とともに、館の前に立って、呼び込みまでします。

そのうち、コンパニオンの応援でやってきたチイチイという美人に色目を使われ、鼻の下をのばしているうちに、ギャングの親分のカント・デックのところにつれていかれます。

カント・デックとしては、宝石の隠し場所にカラクリ箱のようなしかけを施すのに、治吉の腕が必要なのでした。

デックは、金と色気で治吉をたらしこもうとします。

さらには、大きな腸詰の機械を見せて、治吉を脅すのでした。

そして、見せるばかりではなく、実際に人間をその機械に放りこむのでした……。

夢野久作「人間腸詰」の起承転結

【起】人間腸詰 のあらすじ①

治吉、渡米する

明治三十七年(1904年)正月、台湾の総督府で仕事をしていた大工の〈あっし〉は、民生長官の後藤新平から、「セントルイス万博に台湾館を出店して、ウーロン茶の宣伝をするように」との指示を受け、十四、五人の仲間とともに渡米しました。

船の上では精神的に弱ったものでしたが、現地に着くとすぐに、藤村という工学士の引いた図面通りに台湾式の御殿を建てました。

いっしょに行った庭師も、立派な庭を造りました。

〈あっし〉が手慰みで作ったカラクリ箱は、博覧会前に予約済みになるほどの人気です。

博覧会が始まると、〈あっし〉と植木屋の六が館の前に立ち、教わった通りの、呼び込みの言葉を大声でしゃべります。

「じゃぱん、がばめん、ふおるもさ、ううろんち、わんかぷ、てんせんす。

かみんかみん」と。

その意味が「日本専売局台湾烏龍茶一杯十銭、いらっしゃい、いらっしゃい」であると知ったのはあとのことです。

さて、台湾館のなかでは、六人の台湾娘がコンパニオンをやっていましたが、いっさい手をだすな、と厳命されています。

おまけに外出も禁止です。

若い〈あっし〉たちは、精力のはけ口がなくて、いまにも破裂しそう。

そんなとき、コンパニオンのふたりが急病になり、代わりに、セントルイスの中国料理店から、チイチイとフイフイというふたりの若い女性が応援で入ってきました。

チイチイは十七、八歳、フイフイは二十二、三歳。

ふたりは〈あっし〉に色目を使い始めるじゃありませんか。

最初に色目を使い始めたのは、初々しいフイフイほうでしたが、それに感づいたチイチイが横やりを入れて、〈あっし〉の取り合いが始まったのです。

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【承】人間腸詰 のあらすじ②

チイチイの誘惑

チイチイは中国人とイタリア人の混血で、自信家で、派手な女でした。

そのチイチイに色目を使われた〈あっし〉は、たちまちメロメロ。

その〈あっし〉に手をふって、何事かを伝えようとするフイフイ。

チイチイは、そんなフイフイを恐ろしい目でにらみつけるのでした。

その夜、〈あっし〉はチイチイに連れられ、馬車に乗りました。

馬車はすごい勢いで、どこかへ走ります。

警官が止めようとしますが、馭者が合図すると、たちまち引っ込みます。

あとで知ったのですが、この馭者は、ギャングの大親分のカント・デックで、ここいらの警官は彼の子分のようなものだったのです。

レコード店の前で止まった馬車を降り、チイチイに導かれて、店内を通って地下へ入ったところで、〈あっし〉は置き去りにされました。

廊下を進むと、鏡だらけの大きな部屋に出ました。

そこにやってきたのが、カント・デック。

片言の日本語で話しかけてきます。

彼は〈あっし〉を部屋の隅へ連れて行き、板壁の鍵穴に鍵を入れてまわし、壁板を開きました。

そこには棚がありました。

彼は〈あっし〉に仕事を頼むのです。

この秘密の棚を、鍵を使わず、カラクリ箱方式で開くように変えてもらいたい、と。

アメリカ人は不器用で、カラクリ細工はできないため、〈あっし〉に頼んでいるようです。

しかし、〈あっし〉はなんだか嫌な予感がして、「何に使う棚かわからないと、協力できない」と返事します。

するとカント・デックは、「これは私が道楽で集めている宝石を隠しておくための棚だ」と答え、作ってくれたら、〈あっし〉が一生食うに困らない代金を支払おうと持ちかけてきます。

【転】人間腸詰 のあらすじ③

脅迫と幽閉

〈あっし〉はテックの話を聞いているうちに、今回の話の裏が見えてきました。

テックは、盗んだ宝石を隠すために、〈あっし〉をさらってきて、カラクリを作らせようと考えた、そのためにチイチイを使って〈あっし〉を誘惑した、ということでしょう。

〈あっし〉は柔道二段の腕を使って、テックを投げ飛ばそうとしますが、強固に抱えこまれてしまいました。

テックは〈あっし〉を別の部屋に連れて行き、ガラスの窓からその隣の部屋を覗かせました。

隣の部屋では、裸になった男女が多数いて、乱交パーティーのまっ最中でした。

「あちら側へ行きたければ、カラクリを作れ」とテックは脅します。

それでも従わないでいると、また別の部屋に連れていかれました。

水銀灯が灯って、人が死人に見えます。

部屋には大きな臼のようなものが置かれ、天井から下がった鉄の棒が、臼のなかでガリガリと回転しています。

モーター仕掛です。

それは、ソーセージを作るための巨大な肉挽き機械なのでした。

テックに首根っこをつかまれ、機械のなかを覗きこまされました。

巨大なギザギザの渦巻きが回転しているのがわかります。

こんななかへ落ちたら、ひとたまりもありません。

「ここに入れられたくなかったら、カラクリを作れ」とテックは言います。

ゾッとするばかりで、返事できないでいる〈あっし〉を脅すためでしょうか、テックは人間を連れてこさせました。

トロッコに乗せられたフイフイです。

丸裸で、死んだように動きません。

テックは〈あっし〉に手紙を見せました。

それは、フイフイ、本名は中田フジ子が、〈あっし〉に向けて、「チイチイに近づいては危険」と報せる手紙でした。

テックが合図して、手下がフイフイの身体を肉挽き機械に投げ込むと、この世のものとは思えない悲鳴が聞こえてきました。

フイフイは死んではおらず、気絶していただけだったのです。

〈あっし〉は失神しました。

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【結】人間腸詰 のあらすじ④

救出

意識を取りもどしてみると、〈あっし〉はコンクリート造りの狭い馬小屋のような部屋に閉じこめられていました。

水と食料が置いてありますから、テックはまだ〈あっし〉を殺さず、あくまでカラクリ細工を作らせるつもりなのでしょう。

〈あっし〉はすっかり頭が混乱して、うわごとのように、台湾館での呼び込みの言葉を唱え続けます。

「じゃぱん、がばめん、ふおるもさ、ううろんち、わんかぷ、てんせんす。

かみんかみん」と。

その頃、博覧会のほうでは、〈あっし〉が行方不明になって大騒ぎだったそうです。

そのうち、「セントルイスのホテルの屋上に、夜、行方不明になった台湾館の男の幽霊が出る」という噂が立ちました。

藤村さんは噂を聞きつけて、ホテルの屋上庭園に来ました。

すると、夜中の二時ごろ、「じゃぱん、がばめん、ふおるもさ……」という〈あっし〉のうなり声が聞こえます。

藤村さんはすぐに状況を理解し、警察を呼んできてくれました。

おかげで〈あっし〉は無事に助け出されたのでした。

その後、〈あっし〉はアメリカでしばらく静養し、博覧会が終わったあと、日本に帰国することになりました。

サンフランシスコの領事館の人が、土産にソーセージの缶詰をくれました。

船の上でビールを飲みつつ、缶を開けると、なかにはソーセージのほかに、女の黒い髪の毛と、小さな紙切れが入っていました。

あのときのフイフイの手紙の切れ端のようです。

〈あっし〉に惚れたフイフイが、身代わりにソーセージになって、ここまでついてきたのではないか、と〈あっし〉はふるえるのでした。

夢野久作「人間腸詰」を読んだ読書感想

ひとりの男のユーモラスな告白体で、奇妙で恐ろしい事件が語られています。

というか、ひとことで言えば、ブラックな落語のようなお話です。

ほとんどこのまま、たとえば立川志らくあたりが演じても、さほど違和感がないような気がします。

実際、冗談抜きで、落語が盛んないま、だれか演じる人はいないものでしょうか。

さて、物語の舞台となっているのは、明治三十七年(1904年)にアメリカで開かれたセントルイス万博です。

調べてみると、日本館の敷地に「台湾館」なるものも実際にあったようです。

建設主体は茶商山口鐵之助他五名となっています。

こういう歴史的な事実をベースに、夢野久作が、破天荒で、奇怪なフィクションを作り上げたのが本作というわけです。

主人公がわけもわからず唱える「じゃぱん、がばめん、ふおるもさ……」という言葉や、その他もろもろの英語を日本語で発音するおもしろさも、この作品の魅力です。

そういったおもしろおかしさに、人間腸詰機械の残酷さがミックスされ、なんともユニークな味わいの小説になっていると感じられたのでした。

-夢野久作

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