著者:上橋菜穂子 96.7 06.11 07.3に単行本偕成社ワンダーランド軽装版偕成社ポッシュ文庫版新潮文庫から出版
精霊の守り人の主要登場人物
バルサ(ばるさ)
守り人シリーズの主人公。30代女性。用心棒を生業とする凄腕の短槍使い。
チャグム(ちゃぐむ)
旅人シリーズの主人公。10代男性。新ヨゴ皇国の第二皇子(後に皇太子)。精霊の卵を身に宿したことで運命が変わる。
タンダ(たんだ)
呪術師トロガイの弟子。バルサの幼馴染の男性。お人好しでのんびり屋。薬草を使った治療が得意。
トロガイ(とろがい)
当代一と言われる高名な呪術師。70代女性。高齢とは思えないほどの体力と気力を持ち、言動もパワフル。
帝(みかど)
新ヨゴ皇国の帝。チャグムの父。チャグムに対して冷たい態度を取る。
1分でわかる「精霊の守り人」のあらすじ
上橋菜穂子氏によるハイファンタジー小説です。
「守り人シリーズ」「旅人シリーズ」の第一作目。
バルサとチャグムの運命の出会い、交流が描かれます。
後のシリーズに続く冒険と戦いの始まりです。
物語の舞台は、人間と精霊の世界が交差しています。
主人公の女用心棒バルサはある日、事故で川に落ちてしまった新ヨゴ皇国の皇子チャグムを救出します。
チャグムは自身の体の中に「精霊の卵」を宿していました。
そのせいでチャグムは幼いながらも、父親である新ヨゴ皇国の帝に命を狙われていたのです。
チャグムの母は息子を暗殺の魔の手から救うため、バルサにチャグムと逃げて、彼を守るよう依頼するのでした。
バルサは仲間のタンダやトロガイと共にチャグムを守りながら、精霊の卵の秘密に迫っていきます。
ラジオドラマ、漫画、テレビアニメ、テレビドラマと多岐にメディア化されています。
上橋菜穂子「精霊の守り人」の起承転結
【起】精霊の守り人 のあらすじ①
凄腕の女用心棒「短槍使いのバルサ」はある日、新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムが川に落ちたところを助けました。
これがバルサの運命を変えます。
実はチャグムは、父親である新ヨゴ皇国の帝に命を狙われていました。
川に落ちたのも暗殺の一環だったのです。
チャグムの体にはなぜか精霊の卵が宿っており、それを不吉と考えた帝はチャグムを秘密裏に殺そうとしていたのです。
その精霊は、新ヨゴ皇国の伝説の中で、国に大干ばつという災害を引き起こした水の精霊だと考えられており、初代皇帝に退治されたとされています。
その伝説を信じる帝にとってチャグムは不都合な存在です。
チャグムを思う母親の二ノ妃は、バルサにチャグムを連れて王宮から逃げてほしい、チャグムを守ってほしいと頼みます。
バルサは用心棒としてチャグムを守ることになりました。
用心棒としてバルサはとても優秀です。
長年の経験や腕前を生かしてチャグムとの逃避行を続けます。
しかし、逃げた二人を、帝直属の暗殺部隊「狩人」が追ってきます。
狩人たちもそうとうな実力者ぞろいです。
バルサは彼らと戦いますが、子供を連れて大人数で戦うのは不利です。
バルサは重傷を負ってしまいます。
絶体絶命かと思ったその時、チャグムの体が青白い光に包まれ、川の水が重たくなります。
その現象に助けられるように何とか追手を足止めして逃げるバルサとチャグム。
しかしバルサは気を失ってしまいました。
チャグムは、バルサが言っていた「タンダ」に助けを求めるべく山の中を一人、歩き出します。
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【承】精霊の守り人 のあらすじ②
チャグムが山の中を一人駆け回り、タンダに助けを求めたおかげで、バルサは一命をとりとめました。
怪我の治療もあってバルサはチャグムと共に、幼馴染であるタンダの家に身を寄せます。
タンダは高名な呪術師トロガイの弟子で、薬草で怪我の治療もできるため、用心棒稼業で怪我のたえないバルサにとって心強い味方です。
また、二人は呪術師という立場から、チャグムの体にはこの世界とは別の世界「ナユグ」の精霊の卵が宿っていることに気づきます。
この精霊は、新ヨゴ皇国建国に関わったとされる水の精霊「ニュンガ・ロ・イム(水の守り手)」のものであるらしいのです。
伝説では、水の精霊は国に災いをもらたしたため、初代皇帝に退治されたとされています。
先住民ヤクーの人々の力も借りて、バルサ達は水の精霊の謎と、どうしたらチャグムから卵が離れるのかを探っていきます。
一方、新ヨゴ皇国の歴史や政務に関わる星読博士のシュガも、国の歴史の不都合に気づきます。
本当に水の精霊は、新ヨゴ皇国に災難をもたらしたのでしょうか。
実は、水の精霊は建国時に豊穣の恵みをもたらしており、そのことを祝うお祭りが今でも新ヨゴ皇国で行われているのです。
しかし人々は本来の意味を忘れてしまいました。
初代皇帝が水の精霊をやっつけたのだと、為政者の都合のいいように歴史の真相が変えられてしまったのです。
トロガイは星読博士たちに真実を伝えようと手紙を出しました。
追手の狩人たちもバルサ達を追いかけ続けており、危機は一向になくなりません。
【転】精霊の守り人 のあらすじ③
バルサとチャグムは助け合いながら、時にはぶつかり合いながら、絆を深めていきました。
チャグムはすっかり王族らしさが抜けて、庶民の生活に慣れていました。
その中で、自分の皇子という立場や生活様式に疑問を持つこともありました。
バルサの壮絶な生い立ちの話を聞き、チャグムはバルサに対して特別な思いを持つようになっていきます。
バルサやタンダ、トロガイと過ごす日々はチャグムにとって新鮮で、厳しくも楽しい日々でした。
ただ、精霊の卵を宿しているという現実からは逃げられません。
精霊の卵はチャグムごと夏至まで守らなくてはなりません。
夏至になれば卵はチャグムの体から離れるのです。
水の精霊「ニュンガ・ロ・イム」は雨を降らせて作物に恵みをもたらす存在だと判明しました。
そして、新ヨゴ皇国はその水の精霊の歴史を都合のいいように歪曲してきたのです。
悪い水の精霊を倒した初代皇帝、という威光で権力を守るために。
しかし今、チャグムは卵ごと命を狙われています。
卵を宿したチャグムを殺してしまえば、卵もなくなってしまい、新ヨゴ皇国は大干ばつの被害に遭ってしまいます。
何としてもそれを食い止めなくてはなりません。
さらに、異界から「ニュンガ・ロ・イム」の卵を狙って怪物ラルンガがやってきます。
こちらとは違う世界から攻撃してくるラルンガに対抗するのは大変です。
バルサは追手の狩人たちと共闘し、何とかチャグムを守ろうとします。
一方、チャグムはいよいよ自分の中の卵が、自分から出ていくのを感じていました。
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【結】精霊の守り人 のあらすじ④
精霊の卵を狙う怪物ラルンガは、過去何度も、チャグムと同じように卵を宿した子供を殺してきました。
宿主を殺して中の卵を食べていたのです。
そんな恐ろしい怪物からチャグムを守るために、バルサと狩人たちは必死に戦います。
どこからともなく出てくる鋭利なラルンガの爪は、バルサ達を追い詰めていきます。
そして、チャグムの体からついに精霊の卵が離れます。
その卵はどうしたらいいのか、その答えは夏至祭りにありました。
歴史が歪められてしまっても、市井の中にはしっかりと真実へのヒントがあったのです。
夏至祭りに大きな松明を燃やすのは、ラルンガが日に弱いから。
ナージという鳥について歌うのは、その鳥が卵を運んでくれるから。
先住民ヤクーの村にナージの骨を飾っておく魔除けは、その一環だったのです。
それに気づいたトロガイはタンダに夏至祭りのことについて伝え、タンダは実行に移します。
水の精霊の卵は空高く投げられ、ナージ鳥がくわえて持っていきました。
これでチャグムは、卵から解放されたのです。
長いことチャグムに宿っていた卵は、チャグムと別れました。
そして、チャグムはバルサ達とも別れなければなりません。
精霊の卵がなくなり、さらにその精霊が国に恵みを与えるものであったから、チャグムはもう暗殺されることはないのです。
チャグムは母親と父親がいる王宮に戻ります。
最初「戻りたくない、バルサ達と一緒にいる」と泣くチャグムでしたが、バルサ達を思い、自分の気持ちに整理をつけて、彼は皇子として戻っていきました。
上橋菜穂子「精霊の守り人」を読んだ読書感想
上橋菜穂子氏は民族研究をされているだけあって、生活や文化の書き方がとても上手だと思います。
児童文学として発表された今作ですが、大人が読んでも十分に楽しめるハイファンタジーです。
アニメ化のみならず、綾瀬はるかさん主演でドラマ化され、大いに注目を集めたのも納得の素晴らしい物語です。
精霊の守り人はシリーズ化されており、バルサの過去の決着や新しい戦い、成長したチャグムの波乱万丈な物語、数々の魅力的なキャラクターが多く出てきますのでぜひともシリーズを全て読んでほしいと思います。
今回取り上げた「精霊の守り人」は、民俗学や信仰、歴史、新ヨゴ皇国やヤクーの文化の混ざり合いなどの描かれ方がとても面白いです。
現代社会にも共通するこれらの事柄に関して、説教臭くなく爽やかに考えさせられるのはとても気持ち良いものです。
バルサとチャグムの身分の違いや考え方の違いも面白く、二人の掛け合いがとても微笑ましくもあり、どこか寂しさや切なさも感じさせます。
中年女性と思春期の男の子が助け合いながら成長する物語、とても面白いですよ。