蒲団の主要登場人物
時雄(ときお)
本作の主人公、妻と3人の子供を持つ36歳の作家。生活の為にしたくもない茫洋な毎日を送っている。
芳子(よしこ)
うら若い時雄の女弟子、秀夫は恋人。
秀夫(ひでお)
芳子の恋人、同支社の学生で芳子を追うように上京してくる。
芳子の父(よしこのちち)
厳格なる基督教信者(クリスチャン)、町でも権威のある家の主。
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1分でわかる「蒲団」のあらすじ
竹中時雄は妻と子を持つ中年の文学者です、しかし彼は生活の為に地理書の編集に従事する退屈な毎日を送っています。
そこへ若く美しい横山芳子から弟子にして欲しいと手紙が届きます。
時雄と芳子は濃厚な師弟関係を築きますが、芳子を追うように恋人の田中秀夫が京都より上京してきます。
芳子を奪われ気持になり煩悶する時雄、時雄は秀夫と言葉を交わしますが秀夫が厭な人物のように映り、ついに二人の関係を芳子の父に報告します。
時雄からの報告を受けた芳子の父は交際に反対し、秀夫と議論を交わしますが話はまとまりません。
時雄は清い交際であったのか芳子に問いかけますが、その答えは時雄にとって失望するもので、芳子へ国へ帰るよう勧めます。
翌朝、芳子は父と共に国へ帰り、その後時雄は芳子から他人行儀な手紙を受け取ります。
芳子との膣月が終わったことを察し、時雄は芳子の使っていた布団と夜着を部屋から出し、芳子の匂いを嗅いで泣くのでした。
田山花袋「蒲団」の起承転結
【起】蒲団 のあらすじ①
竹中時雄は作家でありながら日々の暮らしの為にやりたくもない仕事をする毎日に退屈していました。
妻との関係も冷めたものであると感じており、美人の女教師と恋仲になったらどうしよう。
などと刺激的な空想をしながら日々を送っています。
そんな時雄の元に時雄のファンであるという女性から手紙が届きます。
時雄の元には以前にも何通かそういった手紙が届いていましたので最初の内はその手紙を無視していた時雄ですが、やがて熱意に負けて手紙に酷い言葉で返信をします。
もう手紙が返ってこないだろうと思っているとなんと時雄の元にぶ厚い封筒で返信が返ってきました。
その熱量に打たれた時雄は彼女、横山芳子を弟子にすることを決め、芳子との対面を果たします。
「文学をやるぐらいだから不細工に違いない…。」
時雄は芳子の事を勝手にそう思っていましたが、実際に会ってみると芳子が美しく聡明な女性であることに驚きます。
芳子の家は近所でも有数のお金持ちで彼女の両親は厳格な基督教信者(クリスチャン)で、芳子はこうした両親のもとで先進的な教育を学んで来ていたのでした。
自らを妻がいながらも孤独である思っていた時雄は、自分の事を「先生、先生」と呼び慕ってくれる芳子に心を動かされずにはいられません。
最初の内は芳子を自宅に置いていた時雄でしたが、1月もすると妻の身内から不満が出ていることに気付き、今は未亡人である姉の家に芳子を住まわせることに決めたのでした。
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【承】蒲団 のあらすじ②
時雄の弟子となった芳子は時雄の姉の元へと身を寄せ、女学校に通うようになります。
先進的でハイカラな芳子は男友達も多く彼らからの手紙も沢山届きます、家に男友達が来たり、遅くまで遊んでいることも多かったため、周囲の人物からは顰蹙を買いますが、時雄は「これからの女性は自分の行動に責任を持てないようではいかん」と芳子の肩を持つのでした。
芳子はその言葉を聞いて時雄への信仰をますます深めていきます。
時雄と芳子は怪しい関係に二度ほど溺れそうになりました。
一度は芳子が自分の才能に自信を失い、時雄に涙交じりの手紙を送った時。
芳子はこの手紙で農夫の妻にでもなってしまおうか、と悩みを打ち明けています。
このいじらしい芳子からの手紙に時雄の心も揺れますが、妻のやすらかな寝顔を見ている内に自責の念にかられ、師としての態度を崩さずに手紙へと返信しました。
二度目は時雄の姉がいないときに時雄と芳子が二人きりになった時です。
じっと時雄の顔を見つめる芳子の眼は輝き、時雄は芳子から艶めかしさを感じます。
15分も話せばどうにかなってしまいそうだと感じた時雄はわざと軽口を叩き、雰囲気をなかったことにしようとします。
そしてすぐ帰る事を決めました。
帰るという時雄を芳子は引き留めますが結果的には何事もなく時雄は名残惜しそうに芳子に見送られながら帰宅します。
二人はなにか起こりそうで何も起こらない。
そんな関係がしばらく続いていたのでした。
【転】蒲団 のあらすじ③
時雄にとって大きな事件が起こりました。
なんと一時的に帰省していた芳子が京都で同志社大学に通う恋人と遊んでいたことがわかったのです。
しかも2日間もでした。
時雄は芳子に問い詰めますが「清い交際だ。
二人の間にやましいことはないが、将来何としてもこの恋を添い遂げたい。」
と言われ時雄は芳子の師匠としてこの恋の証人となることになってしまったのです。
時雄の心には嵐が吹き荒れます。
いつもいつもそうだ、社会でも、恋でも俺は主役にはなれない。
ただ黙って成り行きを傍観しているだけの哀れな人間なのだ。
時雄はそうやって自分の意気地がなかったことを悲しみ、酒におぼれ妻からも心配をされます。
時雄は芳子を監督する責任があるとして、芳子を自宅の二階に住まわせるようになりました。
そうしてひと月が経つ頃時雄の元にさらに悪い知らせがやってきます。
なんと芳子の恋人の田中秀夫が学校も今まで学んだ宗教をも捨て、小説家になるため上京しにやってくると芳子から聞かされます。
芳子のいい人であるなら、と時雄は秀夫と言葉を交わしますが時雄には秀夫が鼻持ちならない厭な人物に思えて仕方がないのです。
なんの仕事の当てもなく上京してきた秀夫ですが、仕事が簡単に見つかるわけもなく、ついに芳子が働きに出る事を決意せざるをえないほどにまで状況は悪化します。
時雄はそれを見て、この恋の保護者としての責任を感じ、芳子の将来のためにも芳子の両親へと手紙を送るのでした。
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【結】蒲団 のあらすじ④
子の父から、秀夫と芳子の交際は認められませんでした。
父は芳子と時雄の話を聞くために上京してきます。
芳子の父は秀夫のためにお金を工面してほしいと芳子から要望されていましたので、芳子は悪い男に騙されているのではないかとさえ思っていました。
父親と田中、そして時雄は3人で話し合いをします。
芳子の父親はとにかく今は芳子との交際は認められないと言いますが、秀夫はとにかく芳子から離れがたいのか話は平行線をたどるばかりで要領を得ません。
秀夫の反骨的な態度に芳子の父はますます疑念を深めますが、その日のうちに決着はつかず、1,2日のうちに親友と相談して答えを出すと言って秀夫は引き下がります。
芳子の父と時雄は、京都に遊びに行った頃の秀夫と芳子の手紙に芳子が純潔である証拠があるのではないかと推測し、芳子にその手紙の提出を求めますが、芳子は大きく動揺し「手紙は捨ててしまった。」
といいます。
欺かれているように察した時雄は煩悶します。
その次の日、芳子が誰かへ宛てた手紙を書いていることに気付いた時雄は激高し、芳子に詰め寄ります。
芳子は「後生ですから」といい手紙を時雄に渡します。
この手紙は時雄へ宛てた告解の手紙だったのです。
手紙の内容は芳子の不貞を現したものでした。
手紙を読んだ時雄は内容を他言しないことを固く誓い、芳子をすぐに父親の元へと連れていきます。
次の日、芳子は父に連れられ、故郷に帰って行きました。
その少し後時雄は芳子から他人行儀な手紙を受け取り、芳子との蜜月は完全に終わったことを察します。
時雄は芳子が使っていた部屋から芳子の蒲団と夜着(寝間着)を見つけ、芳子の居た頃のなつかしく甘い記憶に浸りながら、蒲団に埋もれて泣くのでした。
田山花袋「蒲団」を読んだ読書感想
田山花袋の『蒲団』です。
この話は中年男性の悲哀を描いた小説とも言えるのではないでしょうか、短い話の中にも時雄の苦悩や葛藤がぎっしり濃縮された読み応えのある文章となっています。
この小説は田山花袋自身をモチーフにした作品でもあり、実在した人物がモデルにもなっています。
この作品が発表されたことにより彼らの人生も大きく変化したようです。
今から100年前に描かれた小説ですが、今読んでも通用する面白さがあります。
毎日同じことをして安定したに日常を送っている時雄は、刺激を求めて美人の教師と恋を育めたらと空想するような人物でした。
ですが実際に芳子という時雄の人生における異物が紛れ込み、美しい姿で時雄を2度も煩悶させる瞬間があるのですが時雄は結局芳子とは清い関係のままでした。
結局時雄は普段の暮らしと同じ安定を求めたということです。
最後には去って行った芳子を偲び蒲団に埋もれて泣く姿には共感する人と呆れてしまう人で評価が分かれそうですね。
読む人の年代や性別によってかなり感想が分かれる作品です。