著者:谷崎潤一郎 1955年11月に新潮文庫から出版
細雪の主要登場人物
雪子(ゆきこ)
蒔岡家3女、美人だが未婚
妙子(たえこ)
蒔岡家4女、自由奔放で問題児
鶴子(つるこ)
蒔岡家長女、責任感が強い
幸子(さちこ)
蒔岡家次女、夫婦仲が良い
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1分でわかる「細雪」のあらすじ
時代は昭和初期、蒔岡家は大阪では古くからある名家ですが、今は落ちぶれています。
かつての裕福な暮らしが忘れられない4人の姉妹にとって、女性の幸せは結婚とばかりに、既婚者である長女と次女は、三女の雪子の縁談に奔走します。
しかし雪子はプライドが高く、成婚に至りません。
雪子自身も年齢を重ね、容色に翳りが見えはじめています。
そんな中、自由奔放に育った四女の妙子が、大きな問題を引き起こします。
果たして雪子と妙子は幸せな結婚ができるのでしょうか。
谷崎潤一郎「細雪」の起承転結
【起】細雪 のあらすじ①
時は昭和初期、ヨーロッパでは騒乱がありましたが、日本ではまだ戦争の気配は感じられない平和な時代。
大阪の商家、蒔岡家の4人姉妹も、多少落ちぶれたとは言え優雅な生活をしていました。
三女の雪子は、容姿が大変美しく、自分でもそれを誇りに思っていました。
実家は家柄も良く大阪の旧家である蒔岡家なので、雪子は自分の家柄よりも低い家にお嫁に行く気にはさらさらなく、すべての縁談に難癖をつけて断り続けていました。
そして長女と次女も、雪子の美しさと実家の名声を頼りに、結婚相手の選り好みをしていました。
お見合いの場所も有名な料亭や、当時では大変珍しい洋食など、全てにおいて高級志向で、縁談をまとめるというよりもお食事にを楽しみにしている様子もあります。
そんな呑気な優雅な生活を続けていた姉妹でしたが、だんだんと縁談の数が少なくなってきているのに気がつきます。
あれほど降るようにあった縁談の話が、数が少なくなっているのみならず、相手のレベルが下がってきつつあるのです。
例えば、初婚ではなく再婚の男性、性格や家柄に問題のある男性など、以前は仲人役の人が絶対持ってこなかったような縁談の話を持ってくることようになったのです。
姉妹たちは屈辱感を感じます。
特に再婚男性は、亡くなった妻が忘れられず、妻の写真を家に飾ってあるのを雪子は目撃します。
自分が来るのをわかっていながら妻の写真をそのままにする男性に、プライドの高い雪子は反発します。
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【承】細雪 のあらすじ②
ある日、次女の幸子は、雪子の顔にシミができているのを発見します。
雪子自身も気にしているのか、化粧がだんだん濃くなっていきます。
雪子が年齢を重ねるほど容色が衰えていくことに、蒔岡家の長女と次女は焦ります。
結婚市場というマーケットの中で、自分の価値がどんどん低くなっていることに雪子は気がつきます。
そんな中、四女の妙子の存在が、雪子の縁談に影を落とします。
妙子はモダンガールで、自由奔放な女性です。
結婚と言う枠組みに縛られず、自由恋愛をしようと画策しています。
彼女には幼なじみの裕福な宝石店の息子がいますが、彼を自分のアッシーのように扱い、高いものをご馳走させたり買わせたり、ついには彼に自分の家の宝石を盗んで売り捌かせたり、悪女気取りです。
蒔岡家としては、宝石店の息子と妙子が一緒になれば良いと考えています。
宝石店は地元でも有名でかつ蒔岡家とも長年の付き合いで家柄が合うからです。
しかし妙子はそんな決められた恋愛に反発し、自分で相手を選ぼうとします。
そして選んだ相手がカメラマンである板倉です。
板倉はかつて宝石店で働いていたことがあり、宝石店の息子にとっては単なる使用人の1人です。
蒔岡家のお嬢様と使用人との恋に、蒔岡家は頭を悩ませます。
せっかく家柄を保っているのに、使用人と妙子のスキャンダルで雪子の縁談に悪影響が出るのではないかと心配します。
実際に新聞沙汰になり、次女の夫の力で何とか収めようとしますが、世間の注目を浴びてしまいます。
【転】細雪 のあらすじ③
妙子は最先端の女性を自負しているので、家庭ではなく職業を持とうと考えます。
宝石店の息子は、お嬢様が仕事するものではないと言いますが、妙子は聞きません。
宝石店の息子は、小さなお人形の手作り品ならお嬢様の趣味として認められるが、本格的な人形作り、そしてデザイナーへの道は女性の生き方としてよくないと考え、妙子の考えに合いません。
そして徹底的な事件が起きます。
近くで洪水が起こり、妙子は行方不明となります。
宝石店の息子はおぼっちゃまなので助けに行くの逡巡します。
そして妙子を助けたのはカメラマンの板倉でした。
妙子は心動かされ板倉と同棲するようになっていきます。
妙子はお金持ちの宝石店の息子ではなく、命をかけて自分を助けてくれた使用人のカメラマンの板倉を選んだのです。
しかしこれは蒔岡家にとって、醜聞でした。
当然雪子の縁談にも影響が出て、雪子の縁談がぱったりとなくなってしまいます。
しかし雪子はそれほど気にしていない様子で、相変わらずのんびりしています。
やきもきするのは次女の幸子です。
幸子は4姉妹の中で1番幸せで、優秀で優しい夫に愛されています。
雪子の縁談の席にはできるだけ同席しないようにするのは、幸子が孔雀が羽を広げたような美しさだから、と仲人に言われた、と幸子は夫に言って、夫も同意するという仲の良い夫婦です。
夫の力で縁談を持ってきますが、雪子はせっかく気に入ってくれた男性にもすげない態度をとり、幸子の夫面目も潰します。
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【結】細雪 のあらすじ④
幸子がせっかく夫に頼んでセッティングした縁談も失敗に終わり、その失敗を雪子が気にしていないのを見て、幸子は余計腹が立ちます。
周りがどんなに頑張っても、本人に全くやる気がないからです。
しかし実は雪子はとても焦っていたのです。
プライドの高い彼女は家柄を大変気にしていました。
そして天皇家とつながりのある男性とお見合いをした時、今までになく朗らかで美しい自分を見せようと努力していました。
そして天皇家とつながりのある男性と見事ゴールインしました。
雪子にとって結婚とは、自分と同じレベルの男性かそれ以上で、面白みのない男性でも、家柄が良ければいいというブランド志向でした。
しかし最良のブランドを手に入れた彼女はとても幸せです。
一方妙子は、夢であったデザイナーの修行も、ヨーロッパの戦争の影響でいけなくなり、板倉との生活に幸せを感じていました。
しかし幸子の目からは、妙子がレベルの低い男性と結婚したせいで、態度も下品になり、肌の色もくすんできたことに悲しんでいます。
妙子自身も貧しい生活に嫌気がさしている部分もあります。
そんな中板倉が足の病気で急死してしまうという事件が起こります。
妙子は悲しみますが、悲しみの中にもほっとした部分を感じています。
上流階級と下流階級の結婚に大反対だった姉妹たちも、板倉の死にどこか安堵している部分が感じられます。
これで板倉の属する下流階級から縁が切れた妙子は、上流階級である実家に戻ってきます。
谷崎潤一郎「細雪」を読んだ読書感想
この話は、イギリスの「高慢と偏見」とよく似ている話です。
イギリスのジェーン・オースティンも女性の視点から結婚を見て、より良い条件で結婚することが女性の幸せ、と考える上流貴族たちのドタバタをユーモラスかつロマンチックに書いていますが、日本の谷崎潤一郎は、より意地悪な視点で書いてあるのがこの作品の魅力です。
男性である谷崎潤一郎がここまで女性の深層心理を知っていることに驚きを感じます。
しかも感情をそのまま書くのではなく、顔のシミを気にする情景描写など、女性の読者にはうなずくことが多い名文です。
時代は昭和初期ですが、現代にも通じる女性心理で、幸せな結婚をしたい、より良い条件の男性と巡り会えたいという女性の心理は、時代を超えても同じなんだなと思わせます。
自由奔放な女性である妙子が結局は上流階級に戻り、ブランド志向の雪子も結局ブランドの男性と結婚したのは、それでよかったのだろうかと読者は考えさせられます。
現在の20代30代の独身の女性に読んでいただきたい一冊です。