著者:宮沢賢治 1934年頃に偕成社、筑摩書房など複数から出版から出版
よだかの星の主要登場人物
よだか(よだか)
本作品の主人公。醜い鳥と言われ、嫌われている。
鷹(たか)
よだかと名前が似ていることを嫌っている。改名しなければ殺す、とよだかを脅す。
かわせみ(かわせみ)
よだかの弟。よだかのことを慕っている。
お日さま(お日さま)
よだかに同情し、星に頼むよう助言してくれる。
1分でわかる「よだかの星」のあらすじ
よだかは醜い鳥と言われ、他の鳥たちから嫌われていました。
嫌われながらも羽虫を食べ、細々と生きていましたが、ある日鷹から改名しなければ殺して食べてやる!と言われます。
自分が他の命(羽虫など)を食べてきたように、今度は鷹に食べられるのか、とよだかは絶望します。
死に場所を求めたよだかは、最初に太陽に相談しに行きますが、星に頼むよう言われます。
よだかは星に頼みに行きましたが、どの星からも断られてしまいました。
力尽きたよだかは空高くまで舞い上がり、やがて命つきてしまいます。
そして、よだかはそのまま星となり、今でも地上を照らしているのでした。
宮沢賢治「よだかの星」の起承転結
【起】よだかの星 のあらすじ①
よだかはとてもみにくい鳥だったため、他の鳥からは大層嫌われていました。
中でも鷹は、一際よだかを嫌っていました。
醜く嫌われものであるよだかの鳴き声や暗闇で見える姿が、鷹に似ていたからです。
ある日、鷹はついによだかのもとを訪れ、「明後日の朝までに市蔵と名を変えて、鳥の仲間の元へあいさつをしなければ、お前をつかみ殺す」と、言いました。
よだかは無理だ、と訴えましたが鷹は聞く耳を持たず、そのままどこかへ飛んでいってしまいました。
鷹に理不尽な要求を突きつけられたよだかは、なぜ自分がこれほどまでに嫌われなくてはいけないのか深く悲しみながら、暮れてきた空へと飛びました。
低い雲が立ちこめ、雷が光だした空と地上の間を飛び回りました。
そしてにわかに、よだかは口を大きく開いて、羽を広げて、まるで矢のように空を横切りました。
小さな羽虫がいくつも喉に入ります。
胸がつかえたように感じながらもう一度飛び上がったよだかの口に、今度は一匹の甲虫が入り込み、喉の奥でひどくもがきました。
よだかはそれをぐっと飲み込みましたが、その時急に胸が苦しくなって大声で泣きだしました。
急に、悲しくなったのです。
カブトムシやたくさんの羽虫が、毎晩よだかに殺される(食べられる)ように、今度はよだかが鷹に殺される(食べられる)ことを思うと、とても辛くなりました。
よだかは、遠くの空の向こうに行ってしまおう(自ら死んでしまおう)と考えるのでした。
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【承】よだかの星 のあらすじ②
遠くに行くことを決意したよだかは、次の朝早くに弟のかわせみのところへ行きました。
かわせみはもう起きていました。
「僕は遠い所へ行くからね、その前にちょっとお前のところに会いに来たよ」かわせみはたいそうびっくりして、よだかを止めようとしました。
けれども、よだかの決意は変わりません。
「どうしてもとらなければならない時のほかはいたずらにお魚をとったりしないようにしてくれ。
さよなら。
もう会わないよ。
さよなら」かわせみに別れの言葉を告げて、よだかは泣きながら自分のお家に帰りました。
そして早朝、よだかは巣の中をきちんとかたづけ、綺麗に体中のはねや毛を整えて、また巣から飛び出しました。
霧が晴れてお日さまがちょうど東の空から上ってきたので、よだかは眩しいのをこらえて巣から飛び出しました。
そして、矢のようにお日さまのもとへ飛んでいって言いました。
「お日さん、お日さん。
どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。
灼やけて死んでもかまいません。
私のようなみにくいからだでも灼けるときには小さなひかりを出すでしょう。
どうか私を連れてって下さい。」
近づこうとしても、お日さまはかえって小さくなるばかりです。
小さく遠くなりながら、お日さまがよだかに言いました。
「お前はよだかだな。
なるほど、ずいぶんつらかろう。
今度そらを飛んで、星にそうたのんでごらん。
お前はひるの鳥ではないのだからな。」
よだかはおじぎをひとつしたと思ったら、急に疲れてを感じて草の上に落ちてしまいました。
そして夢を見ているような感覚を味わったのです。
【転】よだかの星 のあらすじ③
冷たいものが顔に触れ、目を覚ましたよだかは、それが若いすすきの葉から落ちた露だと気づきます。
もうすっかり夜になって、青黒い空には一面の星が瞬いていました。
よだかは空へと飛びあがり、冷たい星明りの中をとびめぐりました。
それからもう一度飛び上がり、西の空に輝く美しいオリオンの星の方にまっすくに飛びながら叫びました。
「お星さん。
西の青じろいお星さん。
どうか私をあなたのところへ連れてって下さい。
灼けて死んでもかまいません。」
オリオンはよだかをてんで相手にせず、そのまま勇ましい歌を歌い続けていたので、相手にされないよだかは悲しくなりよろよろと落ちていきました。
けれどもやっとふみとどまって、今度は南の大犬座に向かって飛びながら叫びました。
「お星さん。
南の青いお星さん。
どうか私をあなたの所へつれてって下さい。
やけて死んでもかまいません。」
大犬は美しい光を放ちながら、言いました。
「馬鹿を云うな。
おまえなんか一体どんなものだい。
たかが鳥じゃないか。
おまえのはねでここまで来るには、億年兆年億兆年だ。」
そして、大犬座はまた別の方向を向いてしまいました。
よだかはがっかりして、よろよろ落ちていきましたが、なんとか堪えるともう一度北の大熊星にむかってまっすぐ飛びながら叫びました。
「北の青いお星さま、あなたの所へどうか私を連れてって下さい。」
大熊星はしずかに云いました。
「余計なことを考えるものではない。
少し頭をひやして来なさい。
そう云うときは、氷山の浮ういている海の中へ飛び込こむか、近くに海がなかったら、氷をうかべたコップの水の中へ飛び込むのが一等だ。」
よだかはがっかりして、よろよろ落ちて、今度は東からのぼった天の川の向こう岸の鷲の星に叫びました。
「東の白いお星さま、どうか私をあなたの所へ連れてって下さい。
やけて死んでもかまいません。」
鷲は大風おおふうに云いました。
「いいや、とてもとても、話にも何にもならん。
星になるには、それ相応の身分でなくちゃいかん。
又よほど金もいるのだ。」
がっかりしたよだかは力を落としてしまい、地に落ちていきました。
もうすぐ地面に打ち付けられそうになった瞬間、よだかは急にのろしのように飛び上がり、身体を震わせて鳴きました。
その声はまるで鷹のようでした。
眠っていた動物たちは、何事が起きたのかとぶるぶる震えて空を見ました。
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【結】よだかの星 のあらすじ④
よだかは、どこまでも、どこまでも、ずっとずっとまっすぐに空へのぼって行きました。
もう山焼けの火はたばこの吸殻すいがらのくらいにしか見えません。
よだかはのぼってのぼって行きました。
空のあまりの寒さに、胸が白く凍りました。
空気がうすくなった為に、羽をそれはそれはせわしく動かさなければなりませんでした。
それなのに、星の大きさは、さっきと少しも変りません。
つく息はふいごのようです。
寒さや霜がまるで剣のようによだかを刺さしました。
よだかは羽がすっかりしびれてしまいました。
とても疲れて、羽も動く動かすことが出来ません。
そして涙ぐんだ目をあげてもう一ぺん空を見ました。
そうです。
これがよだかの最後でした。
もうよだかは落ちているのか、のぼっているのか、逆さになっているのか、上を向いているのかも、わかりませんでした。
ただこころもちはやすらかに、その血のついた大きなくちばしは、横にまがっては居ましたが、たしかに少し笑っておりました。
それからしばらくたってよだかははっきりまなこをひらきました。
そして自分の身体が、今、燐の火のような青い美しい光になって、しずかに燃えているのを見ました。
すぐ隣に、カシオピア座があるのが見えました。
天の川の青じろいひかりが、すぐ後ろで美しい光を放っています。
そしてよだかの星は燃えつづけました。
いつまでもいつまでも燃えつづけました。
星になったよだかは、今でも暗い夜空の上で、まだ燃えています。
宮沢賢治「よだかの星」を読んだ読書感想
よだかの星は教科書にも載っている、宮沢賢治の代表作の一つです。
読書感想文の題材に取り上げた方も、きっと多いのではないかと思います。
童話のひとつとして書かれていますが、内容は大人が読んでも奥が深く、考えさせられるものとなっています。
全体を通して物悲しい雰囲気が漂っており、すべての鳥から嫌われるよだかに悲しい気分にさせられます。
お日さまは助言してくれましたが、お星さまは相手にしてくれず、よだかが哀れです。
物語を通してずっと哀れなよだかは星になり、今もずっと燃え続けている…という最後を迎えますが、ハッピーエンドと言えるのか、これは読み手それぞれが感じるところでしょう。
私としては、よだかがこのまま嫌われ続ける生涯よりも、輝く星となり地上を見下ろす存在になったことで、少し救われる思いがします。
宮沢賢治の作品は命のテーマが取り上げられることが多いですが、この作品もその中の一つです。
自分が命を得るために、ほかの動植物を殺すことの是非は、現在でも取り上げられるテーマです。
もう一度、命とは何か、振り返る機会を与えてくれる作品です。