眠れる美女 川端康成

川端康成

川端康成「眠れる美女」のあらすじを徹底解説、読んでみた感想

著者:川端康成 1961年11月に新潮社から出版

眠れる美女の主要登場人物

江口(えぐち)
六十七歳。まだいくらか男性機能のある老人。

木賀(きが)
江口に「眠れる美女」の家を紹介した老人。男性機能が枯れている。

福良(ふくら)
専務。「眠れる美女」の家の利用者。

宿の女(やどのおんな)
「眠れる美女」の家の世話役。四十台半ば。作中に名前は出てこない。

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1分でわかる「眠れる美女」のあらすじ

江口老人は知り合いの老人に紹介され、眠った美少女のそばで一夜をあかす秘密クラブへやってきます。

本当は男性機能を失ったあわれな老人が夢を求めてやってくるものらしいですが、実は江口にはまだわずかに男性機能が残っているのでした。

江口は何度か美少女のかたわらに寄りそい、そのたびに、自分のこれまでの女性経験を思いだしたりします。

秘密クラブに慣れてくるにつれ、江口はもっと悪いことをしようと考えるようになります。

秘密クラブで不幸な事故が起きたあと、江口はついに禁じられていることを実行するのでした。

川端康成「眠れる美女」の起承転結

【起】眠れる美女 のあらすじ①

初めての「眠れる美女」の家

江口老人は木賀老人から、眠った美少女のそばで一夜をあかす秘密クラブを紹介されました。

木賀老人はもはや勃起しない「安全な男」です。

彼は江口もまた「安全な男」だろうと勝手に思いこんで紹介したのです。

というのも、美少女に添い寝しても、男としてのいたずらをしてはいけない、というルールがあるのでした。

実は、江口は完全に勃起しないわけではありませんが、それを自分で抑制できるような状態です。

江口は眠れる美女に会うために、その家を訪れました。

二階の、二間しかないうちの一間で、世話係の女から、「いたずらしないように」との注意を受け、となりの寝室に入りました。

赤いビロードのカーテンが引かれた部屋のなか、美しい少女が布団で眠っています。

二十歳にもなっていないような少女が、裸で眠っているのです。

少々ゆすったぐらいでは目をさましません。

少女の身体から、ふっと乳?児の乳くさい匂いをかいだ気がしました。

少女の乳首にふれても、乳で濡れているわけではありません。

幻覚だったようです。

江口は以前、乳呑児の孫を抱いたあと、芸者に会いに行って、ひどく嫌悪されたことを思いだしました。

その他にも、さまざまな昔の女のことが思いだされてきます。

少女のとなりにもぐりこんでみると、昔駆け落ちしようとした娘があったことを思いだしました。

娘とふたりで京都へ行ったのです。

しかし、娘の家の者がやって来て、彼女は連れもどされ、嫁に出されました。

後日、上野の不忍の池で、その娘が赤ん坊をつれているのに出くわしました。

「幸せかい」と訊くと、娘は「幸せです」と答えました。

その赤ん坊が自分の子かと訊くと、娘は強く否定して、去っていきました。

その娘も、いまから十年余り前に死んだと聞きます。

眠れない江口は、用意された眠り薬を飲みました。

眠ることはできましたが、ひどくいやな夢に悩まされたのでした。

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【承】眠れる美女 のあらすじ②

二度目の「眠れる美女」の家

江口はもう二度とあの家に行くつもりはありませんでした。

しかし、半月もすると、予約の電話をいれていました。

「九時に行ける」と言うと、電話の向こうで、宿の女に拒否されました。

そんなに早くでは、少女が来ておらず、眠ってもいないので、十一時以降に来るように、と言われました。

江口は指定された時間に、うしろめたく、恥ずかしい気持ちとともに、心そそられる思いで、あの家を訪れたのでした。

行ってみると、宿の女に「今夜の娘はこのあいだの子より慣れています」と言われます。

つまり、この間とは違う少女が相手するようです。

浮気するようで気が咎める江口ですが、女に勧められ、寝室へ入りました。

眠っている少女は爪をピンクに染め、濃い口紅をつけて、濃い匂いを発散させていました。

男を誘う妖女だと江口は思いました。

少女は何度も寝がえりをうちます。

腕を広げ、江口を抱きすくめるようにします。

「起きてるの?」と訊ねますが、寝ているのです。

江口は少女の身体をまさぐります。

勃起しなくなった老人たちが何人もここで侮辱を受けた、その復讐をしよう、とよからぬことを考えました。

出入り禁止になるのを覚悟の上で、少女と性交しようとしたのです。

しかし、少女が処女であることを知り、身を離しました。

少女は夢を見ているのか、寝言を言います。

行ってしまうお母さんを呼び止めようとしているようです。

江口は少女に声をかけますが、眠っているため、会話は空回りします。

少女が寝返りを打ち、江口の顔に腕を乗せました。

江口は花のことを思いだしました。

ことに、末娘と旅した先の、椿寺の花のことを。

末娘は独身時代、男友だちが多く、そのうちのふたりを好ましく思っていました。

しかし、そのうちのひとりに無理やり処女を奪われて嫌いになり、すぐにもうひとりと婚約しました。

そして、子を産み、たまに実家に顔を出します。

そのときの末娘は、若妻の花が咲いたように美しくなっていました。

江口は眠り薬を二錠飲んで、眠りました。

夜中に少女がはげしく泣く声に目をさますと、泣き声はじきに笑い声に変わりました。

少女がなんの夢を見ているのかはわかりませんでした。

【転】眠れる美女 のあらすじ③

三度目、四度目の「眠れる美女」の家

江口が三度目にその家へ行ったのは、前回から八日後のことでした。

今度もまた、その日の予約です。

宿の女が言うには、今夜の子は見習いだとのことです。

寝室に入ると、眠っていたのは、十七歳くらいの小娘でした。

死んだように眠っています。

「死んだように眠る」という自分の言葉から、江口は三年前に出会った人妻を思いだしました。

ふたりの子供があり、外国人の夫は外国に単身赴任しているそうです。

二十台なかばのその人妻と、江口は二度、肉体関係を持ちました。

二回目の夜、女は「死んだように眠った」のでした。

そのすぐあとに夫が帰国したので、女は三人目の子を身ごもっただろうと、江口は想像しています。

また江口は、昔会った十四歳の娼婦のことも思いだしたりしました。

そうこうするうちに江口は、眠る少女に悪さしたい誘惑にかられたのでした。

さて、別の日、江口はまた「眠れる美女」の家を訪れました。

四度目です。

今度もまた、その日の予約でした。

宿の女は、「二、三日前の予約を」となじります。

江口は酒でも呑んだかのように、女に軽口をたたきます。

四人目の「眠れる美女」は、甘い匂いの濃い少女でした。

これまでの三人と同じく処女のようです。

この家に来る老人にとって、処女と添い寝するのが最高の望みなのかもしれない、と江口は思います。

ただ、彼は他の老人と違って、まだかろうじて男性機能が残っています。

江口は悪さしたいという誘惑にかられます。

そしてとうとう、少女の胸にいくつかのキスマークを残したのでした。

翌朝、江口は宿の女に、もう一度眠り薬を所望しましたが、冷たく拒否されただけでした。

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【結】眠れる美女 のあらすじ④

「眠れる美女」の家の破局

さる会社で専務をつとめる福良という男が、「眠れる美女」の家で亡くなりました。

死因は狭心症でした。

少女と添い寝していて、亡くなったのです。

宿では大あわてで、福良の死体を近くの温泉宿に運び、そこで亡くなったように取りつくろったのでした。

正月があけて、また「眠れる美女」の家に行った江口は、宿の女に、事件のことをいろいろ訊ねます。

当夜、少女は本当に目をさまさなかったのか、といったことです。

福良は死ぬとき、断末魔の苦しみで、そばで眠る少女の胸をひっかいたそうです。

少女は翌朝なにも知らずに目ざめてから、「嫌なじじい」とののしったそうです。

さて、江口の今夜の相手はふたりだと言われました。

また見習いか、と思いつつ、江口は寝室へ入りました。

入口に近いほうには、色黒の少女が寝ています。

電気毛布が暑いのか、掛け布団を跳ねのけて寝ています。

こんな元気な少女を力づくで組みしく若さは、もう自分には残っていない、と江口は思いました。

江口は少女に布団をかけてやり、電気毛布のスイッチを切りました。

もうひとりの少女は色白でした。

やさしい感じの少女です。

江口は彼女の身体に触れ、もてあそび、ついには彼女の処女を奪ってしまったのでした。

それでも少女は目をさましません。

「これが自分の最後の女」と、江口は思います。

では最初の女は、と考えて、すぐになぜか「それは母だ」と思いついたのです。

そして、十七の歳に亡くなった母の姿を思いだすのでした。

ふたりの少女にはさまれて、江口は眠りました。

嫌な夢を見て目をさましてみると、黒い少女が冷たくなっています。

息をしていません。

宿の女が入ってきました。

「どうかなさいましたか」と訊かれ、少女が亡くなっていることを伝えます。

女は「死んでいない」と言い張ります。

福良と同じように、亡くなった少女を運びだし、よそへ移して、そこで亡くなったように装うつもりのようです。

女は眠り薬を持ってきて、江口に勧めます。

これで、白い少女のとなりで朝まで眠るように、との意味です。

そのとき、江口の耳に、黒い少女の亡骸を乗せた車が、宿を出ていく音が聞こえてきたのでした。

川端康成「眠れる美女」を読んだ読書感想

眠る美少女のそばで一夜をあかす老人の話です。

なんともイヤラシイですね。

もし若い女の子に向けて、この内容を話せば、おそらく十人が十人とも「イヤラシイ」とか「エロジジイ」とののしって軽蔑することでしょう。

そんな枠組みの話ではありますが、もちろん、いやらしいばかりの小説ではありません。

主人公の江口は、美少女のかたわらに来るたびに、いろいろと自分の過去を思いだします。

駆け落ちしようとした恋人のこと、不倫した人妻のこと、十代の娼婦のこと、など、自分の性体験ばかりです。

そして彼はそれらの、言ってみれば輝かしい生きている日々を自分はいま失いつつある、という思いにかられているのではないでしょうか。

この先、彼に待っているのは「死」です。

「生」の過去を思いだせば思いだすほど、すなわち少女と添い寝すればするほど、彼はやがて来る「死」を意識せずにいられないのだと思います。

そういう意味で、この小説は「タナトス」を表現した小説だと思うのです。

さて、少し視点を変えますが、最後に死ぬ黒い肌の少女、彼女はなぜ死んだのでしょうか? 思うに、江口が電気毛布のスイッチを切ったために、体温が下がって亡くなった、つまり凍死したと考えるのが自然ではないでしょうか。

となると、江口が犯人であるわけで、小説はそこで終わっていますが、もはや江口に未来などなにも残っていない、という大変ブラックなラストなのだと思ったものです。

-川端康成

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