山椒魚の主要登場人物
山椒魚(山椒魚)
体が大きくなって岩屋から出られなくなった哀れな魚
小魚達(こざかなたち)
谷川で急流や藻の流れに翻弄されて集団で泳ぐ魚達
小蝦(こえび)
産卵期で卵を抱えていて山椒魚の住む岩屋に紛れ込んだ
水すまし(みずすまし)
岩屋の外の水面で自由に遊んでいる<蛙>(かえる)
水の中で自由に動き回っていたが、山椒魚に岩屋に閉じ込められる
1分でわかる「山椒魚」のあらすじ
山椒魚は悲しんでいました。
彼は岩屋を棲家にしていたのですが、その岩屋の出入り口は非常に狭かったので、二年の間に大きく成長してしまった山椒魚は外に出られなくなってしまっていたのです。
彼は、なんとか岩屋から出ようとするのですが無理でした。
彼は、「自分には相応な考えがある。」
と強がりますが、実は何も良い策を思いついていませんでした。
山椒魚は、外の世界で自由に動き回る小魚や蛙たちを羨んで見ています。
山椒魚は、悲嘆にくれているうちに、良くない性質になってしまいました。
岩屋に偶然紛れ込んだ蛙を自分の体で閉じ込めたのです。
自分と同じ境遇になった蛙も、2年経つと、山椒魚と同じく何も考えられないようになっていました。
井伏鱒二「山椒魚」の起承転結
【起】山椒魚 のあらすじ①
山椒魚は悲しみました。
二年の間、狭い岩屋から出ずに過ごしているうちに、彼の体は大きく成長して、狭い岩屋の出入り口を抜けることができなくなってしまっていたのです。
「なんたる失策をおかしたのか。」
彼は後悔し、岩屋の中をなるべく広く泳ぎ回ろうとしましたが、体を前後左右に動かすことしかできませんでした。
いよいよ出られないと悟った山椒魚はつぶやきました。
「出られないなら自分にも相応の考えがある。」
と。
しかし、彼は何も良い考えを思いつくことができませんでした。
岩屋の水面には、苔が花を咲かせ、花粉を落とします。
山椒魚は、岩屋の水が花粉で汚れることを嫌いました。
岩屋の天井の窪みにはカビが生えました。
山椒魚は、岩屋の出入り口に顔をつけて、岩屋の外の光景を眺めることが好きでした。
谷川の急流や、水底にはえた藻の間で翻弄されている、小魚の集団を見て、決して一匹では行動できない魚たちを見て、なんと不自由な奴らであろうと嘲笑しました。
ある夜、一匹の小蝦が岩屋の中に紛れ込みました。
小蝦は産卵期で、卵を腹に抱えていました。
ほとんど動くことのできない山椒魚を見て、小蝦は岩だと思って卵を産み付けようとしたのです。
山椒魚は小蝦が産卵しようとしているのか、物思いにふけっているのかどちらかだと考えました。
「物思いにふけるやつはバカだ。」
と悟った山椒魚は、絶対自分は、いつまでも物思いにふけっていないで岩屋の外に出ないと行けないと決心しました。
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【承】山椒魚 のあらすじ②
山椒魚は、何度も全身の力をこめて、岩屋の出口に突進しました。
けれど、彼の頭は出口に仕えてしまい、どうしてもでることができません。
この騒ぎで、岩屋の中の水は汚れ、紛れ込んでいた小蝦は狼狽してしまいましたが、自分が岩だと信じて卵を産もうとしていたものが、生き物の山椒魚だったと気づいて、失笑してしまいました。
小蝦にも笑われて山椒魚は傷つきます。
何度も何度も、出入り口に突進します。
でも、それは全て徒労に終わりました。
どうしても外にでることはかなわなかったのです。
山椒魚は涙をながしました。
「神様、たった二年間ほど私がうっかりしていたのに、その罰として、一生涯この穴蔵に私を閉じ込めてしまうというのは、あまりにも横暴すぎます。
私は今にも気が狂いそうです。」
と叫びます。
ここで作者は、読者に呼びかけます。
たとえ、精神病患者でも、閉じ込められている病室から外に出たいと常に願っているではないか、と。
水面では、水すましが活発に泳いで遊んでいます。
その活発な姿をみて、山椒魚は感動の目を向けていましたが、むしろ、今は自分を感動させるものからは目をそむけた方が良いと、考えるようになりました。
誰しも、自分自身を愚かな言葉で例えたくはありません。
山椒魚にはまぶたを開け閉めすることしかできませんでした。
山椒魚は叫びます。
「ああ、寒いほど独りぼっちだ、」と。
山椒魚は独りすすり泣きました。
彼を慰めてくれるものは何もなく、彼は孤独でした。
【転】山椒魚 のあらすじ③
どれほど頑張っても岩屋から出ることができない山椒魚でしたが、年月が経つ間に山椒魚は良くない性質になってしまいました。
ある日、岩屋の窓から一匹の蛙が岩屋の中に紛れ込みました。
山椒魚は頭を窓で塞いで、蛙が岩屋から外に出られないように閉じ込めました。
この蛙は、水底から水面に、自由に泳ぎ回って山椒魚をうらやましがらせていた蛙でした。
謝って偶然岩屋に滑り落ちてしまったところ、そこには悪党の山椒魚がいたのでした。
山椒魚は蛙を自分と同じ境遇におくことが痛快でした。
「一生涯ここに閉じ込めてやる」と言う山椒魚に、蛙は凹みの部分に身を寄せました。
蛙は自分の身は大丈夫と信じたので、「俺は平気だ。」
と言い切りました。
山椒魚は蛙に「出てこい。」
と叫び、2人は激しい口論を始めました。
彼らはお互いをバカだとののしり合いました。
翌日もその翌日も、同じ激しい口論を繰り返し続けたのです。
一年が経ちました。
初夏になり、水の温度が上がり、岩屋の囚人、山椒魚と蛙も、鉱物状態から生き物によみがえりました。
そこで、山椒魚と蛙は、夏の間いっぱいも同じようにお互いを罵り合う口論を続けたのです。
山椒魚が、実は頭がつかえて、岩屋の外に出られなくなってしまっていることは、すでに蛙に見抜かれていました。
蛙は、山椒魚をバカにして言います。
「お前こそ、頭がつかえて出られないだろう。」
山椒魚も「お前もそこから出てこれまい。」
といい返します。
二人はお互いを罵り合い、同じやり取りを繰り返しているだけなのでした。
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【結】山椒魚 のあらすじ④
さらにもう一年の月日が過ぎました。
冬の間は冬眠しているだろう山椒魚と蛙、再び初夏がやってきました。
昨年の夏はお互い罵り合って同じような会話を繰り返していた山椒魚と蛙でしたが、今年の夏は、お互いに黙り込んでいました。
お互いに自分のため息が相手に聞こえないようにと注意していたのです。
ところが、山椒魚よりも先に、岩屋の岩の凹みに隠れている蛙の方が、深いため息をもらしてしまいました。
それは最も小さい風の音のようでした。
昨年と同じく、杉苔の花が咲き、花粉が舞い落ちる風景をみて、また季節が巡ってきたこと、岩屋に閉じ込められて一年が経ってしまったことに気づいてしまったのです。
山椒魚はこの蛙のため息を聞き漏らしませんでした。
山椒魚は上の方を見上げて、蛙に友情の気持ちを瞳に込めて声をかけました。
「お前はさっき大きな息をしただろう?」と。
蛙、は自分を鞭撻して「それがどうした?」と答えました。
山椒魚は穏やかな気持ちになっていました。
そして優しく蛙に話しかけます。
「そんな返事をするな、もうその凹みから降りてきてもよろしい。」
と。
蛙は「もう空腹で動けない。」
と答えました。
山椒魚は「では、もう駄目なようか?」と蛙に声をかけます。
蛙は「もう駄目なようだ。」
と答えました。
山椒魚はしばらく考えてから蛙に尋ねました。
「お前は今何を考えているようなのだろうか?」と。
死の間際にいる蛙は、山椒魚に遠慮しながら答えました。
「今は別に岩屋に閉じ込めたお前のことを起こってはいないんだ。」
と。
井伏鱒二「山椒魚」を読んだ読書感想
山椒魚は、井伏鱒二の有名な短編です。
中学校の教科書にも載っていたので、読んだことがある人も多いのではないでしょうか。
短い話ですし、登場人物も非常に少ないです。
山椒魚が、自分がきづかないうちに狭い岩屋に閉じ込められて出られなくなった話です。
閉じ込められている間の、山椒魚の気持ちの変化が一番のテーマです。
二年もの間、山椒魚は、安全な岩屋の中で怠惰に過ごしていました。
ここでいれば、餌も手に入り、外敵に襲われる危険もないので、楽だったのでしょう。
その間に、自分の体が成長して岩屋の出口を抜けられなくなるとは理解できていませんでいた。
どうしても外に出られないことに気づいた山椒魚、最初は「なんとかなる」と強がります。
次は、小さな窓から外を眺めて、外で自由に動き回る生き物を羨望します。
そして、どうしても外に出たいと思うのですが、非情なことに出られません。
そして、外の世界を見ることが自分を追い詰めることだと気づき、外の世界を見ないようにするようになりました。
そして、年数が経つ上に、良くない性質を持つようになります。
偶然紛れ込んできた蛙を、岩屋に閉じ込めます。
同じ境遇の仲間を得たのですが、二人はお互いを罵り合うだけです。
また月日が流れ、蛙は瀕死の状態になりました。
蛙も、年月が経つ中で、山椒魚と同じように、もう恨みや悲しみの気持ちもなく、無の境地に陥って死を迎えるのでした。