聖女の救済の主要登場人物
湯川学(ゆかわまなぶ)
帝都大学理工学部物理学科第十三研究室所属の准教授。捜査一課からガリレオと言われる程の天才。しかし本人はそのあだ名を嫌がっている。趣味はバトミントン。
真柴義孝(ましばよしたか)
IT関連会社の社長、子どもを作ることに異様なまでのこだわりがある。
真柴綾音(ましばあやね)
義孝の妻で有名なパッチワーク作家であると共に教室の経営者。子供が出来なかったことから義孝より離婚を言い渡される。
草薙俊平(くさなぎしゅんぺい)
警視庁捜査一課の刑事。湯川と同じ帝都大学社会学部出身でバトミントン部の同期。理系オンチ。
内海薫(うつみかおる)
警視庁捜査一課の刑事で草薙の後輩。
1分でわかる「聖女の救済」のあらすじ
真柴夫妻は自宅の二階で離婚について話し合いをしていました。
子供に恵まれなかったからです。
綾音自身も仕事をしながら妻としての役割は十分に果たしていました。
ただ一つのこと“子供”が出来なかった。
ただそれだけでした。
そしてそれは彼女が一年間の“救済”を終えることを意味しました。
その翌日義孝は毒殺死体となって発見されます。
捜査一課の草薙は刑事として綾音に違和感を感じていましたが彼女に惹かれていきます。
しかし後輩の内海は状況、動機からしても綾音を疑いますが毒の混入経路が特定できません。
内海は今まで数々の不可解な事件の謎を解いてきたガリレオこと湯川学に相談に行きます。
湯川は事件解決に乗り出しますが、彼の答えは「これは完全犯罪だ。
我々の敗北だ。」
と宣言します。
真柴綾音は夫義孝をどのようなトリックで殺害したのでしょうか。
湯川は“完全犯罪”のほころびを見極め、真柴綾音を追い込みます。
東野圭吾「聖女の救済」の起承転結
【起】聖女の救済 のあらすじ①
二階のベランダのプランターにパンジーが美しく咲き乱れています。
しかし室内では一組の夫婦生活が閉じようとしていました。
真柴義孝は妻綾音に離婚を言い渡していました。
一年前の子供が出来なかったら離婚するという約束を果たすためでした。
綾音は妻として一年間尽くしてきました。
ただ子供が出来なかったそれだけでした。
綾音は夫に対する救済を終えることを決意し、ホームパーティの客を出迎えるため、共に一階へ降りて行きました。
手伝いに来ていた綾音の愛弟子の若山宏美(わかやまひろみ)は真柴夫妻の笑顔の作り物めいた雰囲気に疑問を持ちながらも、支度を続けます。
招き入れた猪飼夫妻(いかいふさい)とのパーティは、二ヶ月前に誕生した猪飼夫妻の長男の話題を中心に滞りなく終了しました。
翌日綾音は体調不良の父親の様子を見るために実家がある北海道へ立ちます。
その直前宏美に家の鍵を預けました。
その夜宏美は義孝に呼び出されます。
二人は深い関係でした。
一泊した次の日の夜、仕事を終えた宏美によって義孝は死体で発見され近くにはコーヒーがこぼれていました。
捜査に乗り出した内海は義孝と宏美の関係に気づきさらに現場の状況から妻である綾音を疑います。
一方草薙は急遽北海道から戻った綾音を羽田で迎えます。
草薙は綾音を見て感情か高ぶるも共に自宅へ行きます。
綾音はしおれた花たちが気になり、自身の大作であるタペストリーが飾ってある寝室の部屋のベランダで花に缶で作った手製の如雨露で水を撒きました。
宏美が到着し二人は声をあげて泣くのでした。
その後取り調べで宏美は内海たちに義孝の関係を認め綾音が北海道に立った夜と翌日の朝、一緒にコーヒーを飲んだと告白します。
さらに綾音にも自身の裏切りを暴露するのでした。
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【承】聖女の救済 のあらすじ②
内海と草薙は綾音のアリバイ確認のため北海道へ飛びます。
彼女のアリバイは立証されましたが内海は友人に対しての態度や、携帯電話の電源を不自然に切っていたことに疑問を感じ益々綾音への疑惑を膨らませます。
しかし毒の混入経路が分からない以上彼女への追及は出来ません。
内海は独断でガリレオこと湯川学に捜査を依頼します。
内海は草薙の容疑者である綾音への好意を述べ、事件の概要を説明しました。
湯川は草薙の恋慕に動揺します。
そんな中、ケトルから毒が検出されたと草薙から連絡が入り、若山宏美への疑いが浮上するも第一発見者である彼女がケトルを洗わなかったことを湯川が指摘し疑いは霧散します。
そして湯川は内海より捜査資料を受け取るのでした。
若山宏美は警察に呼ばれますがすぐ釈放されます。
ケトルの洗浄の件と、綾音の義孝はペットボトルの水しか使わなかったとの進言があったからでした。
さらに綾音は若山宏美が義孝の子を妊娠していること、この殺人の動機はむしろ自分にあると言い、若山宏美を庇うのでした。
草薙は猪飼に義孝の水の習慣について確認するとともに義孝の前の恋人についての話を聞きます。
新たに容疑者らしき人物が浮上しましたが綾音に確認をするも分からないとのことでした。
そこへ綾音に内海から自宅の再調査の承諾を得るための連絡が入ります。
草薙が花に水を撒くための如雨露を買い、綾音の家に行くと、そこには湯川が台所で混入経路を調べていました。
しかし水道管や浄水器に細工の痕跡は見られず、ペットボトルからも何も検出されなかったとの連絡が入りました。
ケトルにも細工された形跡はありませんでした。
一方草薙は、義孝の告別式の後、若山宏美を捕まえて義孝の過去の恋人のヒントを得ます。
義孝が元恋人と通っていた店を突き止め、元恋人が画家ではないかとの手がかりを得たところで湯川から連絡が入ります。
湯川は草薙に真柴邸をもう一度見たいと頼まれます。
綾音の許可を得て湯川は再び台所を調べます。
草薙が如雨露で花に水を撒き、一階に戻ると湯川はペットボトルに目を向けさせたのはトラップで毒は別の方法で、と説明し始めるとそこに綾音が現れました。
【転】聖女の救済 のあらすじ③
湯川は綾音に一年前から変えていない浄水器のフィルターの交換を勧め鑑識にフィルターとホースを回収させます。
さらに若山宏美や綾音自身がコーヒーを入れる際には経済的な面もあり、水道水と使っていたことを確認するのでした。
草薙は綾音に義孝に画家の知り合いがいないか確認しますが解答はもらえませんでした。
やがてフィルターとホースには毒は検出されませんでした。
外側からはもちろん蛇口側からの細工も状況的に難しいことが分かりました。
草薙は義孝の元恋人の調査を続けていました。
義孝の会社で遺品を調べていくうちに女性従業員からその女性は絵本作家の津久井潤子(つくいじゅんこ)であることが判明しさらに義孝とも関係があったとの情報を得ますが、彼女は二年ほど前に自殺していました。
湯川は毒の混入経路について答えを出そうとしていました。
内海に若山宏美に対しての調査を依頼します。
内海は湯川に調査の真意を聞きますが、これは完全犯罪だ。
君たちも僕も勝てないと断言するのでした。
内海が若山宏美への調査を終え報告すると湯川はさらに思考の海に沈んだようでした。
草薙は義孝の元恋人の津久井潤子を調べていくうちに彼女が義孝殺害に使われたのと同じ毒で自殺したことを知ります。
入手経路は不明でした。
捜査本部に戻ると湯川が例の浄水器をスプリング8へ分析を依頼したことを知ります。
その後湯川と草薙で事件について意見交換をしました。
湯川は浄水器への毒混入、草薙は津久井潤子の自殺における第三者の復讐説をそれぞれ推します。
湯川は草薙に「君は感情によって刑事としての信念を曲げるような弱い人間ではないと信じている」と草薙への信頼を告白するのでした。
そして草薙は綾音に津久井潤子のことを尋ねますがやはり知らないとのことでした。
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【結】聖女の救済 のあらすじ④
内海は津久井潤子に実家がある広島へと向い、彼女の母親から娘の自殺で使用した毒は自宅で保管していたものであったこと、そして留学先で綾音と出会い親しくなった可能性があることを掴みます。
内海が捜査本部に報告すると草薙は否定的でしたがその夜、草薙は津久井潤子を捜査した時に手に入れた彼女の絵本に綾音が寝室に飾ってあったタペストリーが描かれているのを見つけます。
それは綾音のオリジナルで作品集にも載っていないものでした。
翌日スプリング8から浄水器から毒が検出されたとの連絡が入りました。
内海と草薙は湯川のもとで事件の真相を聞きます。
湯川は綾音と義孝は津久井潤子を通して出会い、二人は義孝と津久井潤子が付き合っていた当初から関係があり、津久井潤子は恋人と友人に裏切られて自殺したと言います。
義孝が津久井潤子を捨てた理由もやはり子供でした。
そして綾音は自身が不妊症であり、一年後子供が出来ないのも分かっていましたが義孝がそれを反故してくれるかもしれないと信じて尽くします。
その一方で綾音は浄水器に毒を仕込み、浄水器を使わせないように常に見張り誰も近づけさせないように一年間神経を尖らせていました。
恐るべき決意、なんという執念でしょうか。
義孝を殺そうとすればいつでも出来たのです。
綾音はペットボトルの水を減らし家を出る、ただそれだけでいいのです。
健康志向の義孝は浄水器を使います。
綾音は一年間夫を救済していました。
しかし確実な証拠がありません。
湯川は真柴綾音は北海道からの帰宅時、証拠隠滅のため大量の水を使用したはずだと指摘します。
そこで草薙は大切に取っておいた綾音の手製の缶の如雨露を分析のため湯川に提供します。
毒が検出され綾音は逮捕されました。
全てが終わり湯川、内海、草薙の三人はバーで打ち上げをしていました。
湯川は草薙が缶の如雨露を保管していたことや若山宏美が綾音の勧めで子供を産むこと決意したことを不思議に思いながらも、恋に破れた親友草薙を労るのでした。
東野圭吾「聖女の救済」を読んだ読書感想
東野圭吾著のガリレオシリーズ第五弾です。
今回は美しい人妻の完全犯罪に挑みます。
通常殺人者は相手をどうやって殺すかを考え試行錯誤するものですが、彼女は夫を救い続けていました。
同時に憎み愛し続けていました。
毎日夫を処刑台に立たせながら救い続ける。
理解出来ないというのが率直な感想ですが、子供が出来ないことに苦しみ、捨てられるかもしれないと思っても妻でありたいという気持ちは少しだけ分かる気がします。
この作品には三つの愛が描かれています。
一つは綾音の義孝への愛、これは憎しみと隣り合わせです。
もう一つは草薙の綾音への愛、これは疑惑と隣り合わせです。
そして最後は湯川の草薙への友愛です。
信頼とも言えます。
この三つの愛が殺人事件を通してそれぞれの立場で進み、謎が解明されるのです。
謎が解かれていく爽快感と愛の行方、読んでいくうちにその世界観に引き込まれていきます。
ガリレオシリーズはこの他に映画化されたものもあり、この聖女の救済はさほどメジャーではありませんが、私はこの作品がシリーズの中ではかなり好きです。