著者:浅井リョウ 2012年11月に新潮社から出版
何者の主要登場人物
二宮 拓人(にのみや たくと)
御山大学に通う大学生。劇団に所属していたが今は退部している。光太郎とルームシェアをしている。昼はカフェ、夜はバーになる飲食店でアルバイトをしている。
神谷 光太郎(かみや こうたろう)
御山大学に通う大学生。バンドでボーカルを担当。就職活動に向けてバンドは引退する。
田名部 瑞月(たなべ みずき)
御山大学に通う大学生。留学から帰ってきたばかり。昔光太郎と付き合っていた。
小早川 理香(こばやかわ りか)
御山大学に通う大学生。学生インターンや学祭実行委員会に所属するなど、意識高い系女子。隆良と付き合い始めたばかり。
宮本 隆良(みやもと たかよし)
御山大学に通う大学生。理香と同棲している。就職活動に否定的。
1分でわかる「何者」のあらすじ
主人公二宮拓人はルームシェアをしている同居人・神谷光太郎の引退ライブで留学帰りの田名部瑞月と会い、三人は交流を再開します。
ひょんな事から瑞月の友人、小早川理香が拓人達の部屋の上に住んでいる事がわかります。
拓人達は就活に必要なプリンターが壊れていたので、理香の部屋の物を使わせてもらう事をきっかけに四人は理香の部屋を「就活対策本部」にします。
するとそこへ理香の恋人で同棲中の宮本隆良がやってきます。
大学生男女5人が就職活動とSNSを通して本音と建て前居人でぶつかっていきながら、自分は何者なのかを考えていく作品です。
浅井リョウ「何者」の起承転結
【起】何者 のあらすじ①
御山大に通う拓人は同居人の光太郎の引退ライブに来ていました。
するとそこに留学から帰ってきたばかりの瑞月の姿がありました。
瑞月は昔光太郎と付き合っていた事があり、拓人は二人が付き合う前から瑞月に思いを寄せていました。
拓人はライブの翌日、バイト先のカフェに行きました。
バイトが最終シフトまで入った日は劇団サークルのサワ先輩の家によく行きます。
そこで烏丸ギンジの舞台DVDを渡されます。
拓人はかつて劇団サークルで烏丸ギンジと組み舞台の脚本を書いていました。
しかし意見のすれ違いから喧嘩別れし、拓人はサークルを辞め、ギンジは大学を中退し劇団を立ち上げていました。
面倒見のいいサワ先輩はそんな二人を気にしていました。
拓人はギンジのTwitterを検索する事が習慣になっていました。
ある日、瑞月に電話をすると拓人達の部屋のすぐ上にいると言います。
なんとその部屋は瑞月の友人、小早川理香の部屋でした。
理香は留学やインターン等の経験が豊富で、就活にも積極的に取り組んでいる意識高い系女子でした。
プリンターをかしてもらう事をきっかけに同じ大学の就活生同士、仲を深めようと理香の部屋を「就活対策本部」とし、エントリーシートの書き方を相談しあっている所に理香の恋人の宮本隆良が帰ってきます。
隆良と理香はまだ付き合い始めたばかりでした。
就職活動に否定的で斜に構えたような所がある隆良に拓人はいい気がしません。
そして、現実逃避をし、自分の世界の中だけで生きているギンジと隆良を重ねてみてしまいます。
拓人はそれ以降、理香や隆良のTwitterも頻繁に見るようになっていきます。
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【承】何者 のあらすじ②
拓人は大手広告会社の筆記試験の帰りに瑞月と会います。
その会場には就活に否定的な隆良と、遅刻ギリギリで走っていく理香も来ていたので二人とも驚きます。
帰りの電車の中で拓人は瑞月から家庭の不和を知らされます。
瑞月の父親の浮気が原因で母親が精神を病んでしまい、実家を離れ瑞月と暮らすようになったのです。
瑞月は母親の面倒を見るためにも、絶対に就職しなければならないと打ち明けます。
拓人は「がんばらなきゃ」という瑞月の切実な思いを聞いて、ギンジや隆良がTwitterに書いていた言葉を思い出します。
そして彼らの「俺はもっとがんばれる」「何のために、誰かのためにがんばるなんて意味がない」という言葉に嫌悪感を持ちます。
就活対策本部では理香が名刺を作っていたり、光太郎に最終面接通過の連絡が来ていたり、拓人には不使用通知が届いたりと、それぞれがもがきながら就活を進めていました。
理香がメールアドレスからSNSアカウント検索し、直接企業側の人物に連絡を取っているという話を聞き、拓人と光太郎は引いてしまいます。
就活にも慣れが出始める4月、拓人は学内の喫煙所で隆良とばったり会います。
ギンジと「仕事」をするという隆良からギンジの名刺を見せてもらうと、そこには「Actor,Writer,Director」の文字が書かれていました。
役者一本で生きていこうとするギンジを拓人は冷めた目で見ていました。
しかし、ギンジのSNSを見る事はやめません。
そして、匿名の掲示板やギンジのTwitterに批判的な意見を書き込みます。
そこにサワ先輩が現れます。
拓人はギンジと同じように現実を見ず、芸術家気取りの隆良への批判をサワ先輩に聞いてもらいますが、サワ先輩は「ギンジと隆良は全然違う、SNSの短い言葉だけを取って一緒に束ねるな」とはっきり言います。
そして拓人に「お前はもっと想像力のある人間だと思っていた」と言われてしまい、拓人はその場に立ち尽くすのでした。
【転】何者 のあらすじ③
「就活対策本部」最初の内定者は瑞月でした。
内定先は大手通信企業です。
ある日、偶然拓人と理香は同じ企業のグループディスカッションに参加します。
拓人は自分勝手に話を進める理香に嫌悪感を抱きます。
瑞月の内定祝賀会を開催しますが未だ内定が一つも貰えない理香は言葉では祝福しているものの、焦りと羨望からキツイ言い方をします。
その時、隆良がギンジとの「仕事」がなくなったと言います。
自分と違う考えの人と物事を進める事が出来なかった事を、「会社勤めは他人と合わせてばかりで意味が無い」と就活否定をする建て前と同列に語ります。
その言葉を聞いて「たくさん考え抜いた上での考え方でないなら聞いてほしい」と前置いた上で瑞月がついに反論します。
もう誰も寄り添って努力の過程を見てくれる人はいない事、現実をみて自分で人生という線路を進んでいかなければならない事を一気にまくしたてて、瑞月は部屋を飛び出します。
拓人も「頭の中にある内は傑作だ、お前はそこから出られない」とギンジにも言ったセリフを言って瑞月を追います。
その時、サワ先輩の「二人は全然違う」という言葉がずっと拓人の心に残ります。
アパートの下にいた瑞月は拓人に、光太郎に再告白した事を伝えます。
光太郎は翻訳家希望だった高校の同級生を見つけるために出版社に就職しようとしていました。
拓人はその事を初めて知ります。
母親から何度も連絡が入っていた瑞月は家に帰ります。
その後、光太郎は中堅出版会社から内定を貰います。
拓人の内定祝いをバイト先でしているとサワ先輩がやってきます。
拓人は以前先輩から言われた事に対して弁明しようとしますが、結局何も言えませんでした。
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【結】何者 のあらすじ④
その夜二人は結局終電を逃しタクシーで帰宅します。
光太郎は内定が出たら終わると思っていた就活が、同期との懇親会を終え今後自分が何もできそうもない、と感じると言います。
自分はただ就活が得意だっただけで、何故拓人に内定が出ないか分からないと言います。
拓人は翌日の面接に備え理香のプリンターをかりにいきます。
そこで理香は拓人の携帯電話の検索画面に光太郎の内定先の出版社の検索履歴を見てしまいます。
それは匿名サイト掲示板でした。
そして拓人もまた、理香のパソコン履歴に残された検索履歴を見つけてしまいます。
そこには瑞月の内定先の検索履歴が残っていました。
拓人と理香は口論になります。
この時、実は拓人が就活浪人だということもわかります。
そして理香は拓人が実は「何者」というTwitterの裏アカウントを持っているのを知っている、と暴露します。
裏アカウントには仲間たちを否定し、見下し、馬鹿にしたような内容が綴られていました。
拓人は他人を見下す事で自分の優位性をなんとか保っていたのです。
SNS上では「何者」でもない偽りの拓人が、本物の拓人を支えていたのでした。
いたたまれなくなった拓人は理香の部屋を飛び出します。
後日、拓人は面接会場にいました。
他の就活生は面接官に良い反応をもらっているのに拓人はさっぱり興味を持ってもらえません。
そして「最近心が動かされた事は何ですか」と質問されます。
拓人はまだ観に行っていないギンジの演劇の舞台だと言いました。
最後の「自分の長所と短所」という質問では、拓人は「短所はかっこ悪い所」、長所は「自分はかっこ悪いという事を認める事ができた所」と答えました。
演劇が大好きで一生懸命だった自分も、それを否定していた自分も全て受け入れて拓人は進んでいこうとしていました。
浅井リョウ「何者」を読んだ読書感想
まるで、自分の黒歴史を暴かれているような、終始ヒリヒリとした本でした。
大学3年生の時、訳もわからぬまま12/1にスタートする新卒サイトにエントリーし、その後怒涛の自分探しが始まった事を思い出しました。
この頃は、ついに「学生」という枠を外れ、何者でもなくなる自分が怖くて、必死に「就活生」にならなければいけないような不安があったように思います。
だから、光太郎が終盤に「何者でもなくなる」と言うセリフにとても共感しました。
拓人のように、裏アカウントでこれでもかと仲間たちを見下す事で現実の自分を支えているなんて、不健全極まりないと思います。
また、理香のようにキラキラ頑張っている自分を表現し理想の自分を演出しているのも見ていて辛いです。
しかし、この見ていて辛い、引いてしまう彼らの行動も、自分にも十分当てはまると分かるのです。
ちょっとした見栄を張る、自分が満たされていない時に他人を祝福できない、人を下げる事でしか自分の優位性を保つ事が出来ない。
今まで生きてきて、多かれ少なかれこんな経験は誰にでもあると思います。
だから拓人や理香、隆良の言動に引きつつも共感してしまうし、憐れな、逃げ出したくなる気持ちになるのではないかと思いました。
SNSの付き合い方は「超適当」か、サワ先輩のように「一切やらない」のどちらかでないと心が疲れると思いました。
瑞月が内定を取り、物語はゆっくり、しかし確実に今までとは違う方向へ進み始めます。
瑞月が隆良に思いの丈をぶつけた時は気持ちよかったですし、このまま話はきれいにまとまるのだろうな、と思っていたら、まさかの大どんでん返し。
拓人が就活浪人だというのは物語冒頭からスーツを着ていたり、光太郎に「就活の先輩」と言われていたり、伏線はあるのですね。
ミステリーのようでぞくっとしました。
裏アカウントの拓人の投稿は、ひどすぎてドン引きしました。
今まで怪しい行動の答え合わせが怒涛の勢いでされていく感じがしました。
手軽な短い言葉で仲間を見下している、そのドロドロの本性をよりによって理香に暴露されるのが、読んでいて自分も息が詰まりそうになりました。
自分の隠していた支えが壊れてしまった拓人はこれからどうなってしまうのだろう、と思っていると、拓人はありのままのかっこ悪い自分を受け入れて、前に進もうとしており、彼や周りの仲間の未来が明るく健康である事を願わずにはいられませんでした。