著者:芥川龍之介 2012年9月に青空文庫から出版
アグニの神の主要登場人物
インド人の婆さん(いんどじんのばあさん)
上海に住んでいて、占いを仕事にしている魔法使い。
恵蓮(妙子)(えれん(たえこ))
婆さんの下で働かされている少女、その少女は誘拐された日本領事館の娘・妙子でもあった。
遠藤(えんどう)
主人でもある日本領事館の娘を探している1人の若い書生。
アグニの神(あぐにのかみ)
インドの神様で、恵蓮の口を使ってインド人の婆さんにお告げをする神。
1分でわかる「アグニの神」のあらすじ
上海のある家の2階に、人相の悪いインド人の婆さんが住んでいました。
その婆さんは恵蓮という少女にアグニの神を乗り移らせて、神のお告げを告げている占い師でした。
しかし、恵蓮という少女は、実は婆さんに誘拐された日本領事館の娘なのでした。
娘を探している遠藤が来てくれたことで、恵蓮はある計画を思いつきます。
それは、アグニの神が乗り移る前に、魔法にかかったフリをして、家に帰らせるお告げを言うというものでした。
しかし、その計画は失敗し、恵蓮はアグニの神に身体を乗っ取られてしまいます。
そして、目を覚ますとそこには死んでいる婆さんの姿があったのです。
なんとアグニの神は、悪事を働き反省を見せない婆さんの命を奪ったのでした。
芥川龍之介「アグニの神」の起承転結
【起】アグニの神 のあらすじ①
上海のある家の2階に、人相の悪いインド人の婆さんが住んでいました。
その婆さんの家に、あるアメリカ人が占いの依頼に来ます。
初めは断る婆さんでしたが、そのアメリカ人が大金の小切手を支払うと豹変し、明日までに占う約束をするのでした。
そして、アメリカ人が帰ると恵蓮という美しい少女を呼び出しました。
そして、今夜の12時にアグニの神を呼び寄せることを少女に伝えます。
その言葉に悲しい顔をした恵蓮は、婆さんに脅されてしまいます。
そして、窓の外に目をやる恵蓮に対し、婆さんは顔をしかめながら暴力を奮おうとするのでした。
しかし、ちょうどその時、家のドアを叩く者がいました。
書生の遠藤という若い日本人です。
遠藤は、この婆さんの噂を聞きつけていました。
そして、 占いだけでなく、魔法も使えるという情報まで仕入れていました。
そんな婆さんの家で、婆さんの罵る声と少女の泣き声を聞きつけたのです。
慌てて家の戸を開けた遠藤でしたが、そこには婆さんがいるだけで、少女の姿はありませんでした。
そのため、婆さんに行方不明になった日本領事館の娘・妙子を探していることを伝えます。
さらに、その妙子の姿を先ほど、婆さんの家の窓から見つけたことも伝えたのでした。
しかし、婆さんは自分の貰い子だと言い張り、遠藤の言うことには聞く耳を持ちません。
苛立つ遠藤は、ピストルを出すと婆さんの前に向けました。
ですが、その途端に婆さんはカラスの鳴くような声を出し、魔法で遠藤のピストルを手から落としたのでした。
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【承】アグニの神 のあらすじ②
魔法で家から追い出された遠藤は、婆さんの家の前で悔しそうに佇んでいました。
警察に伝えることも考えましたが、警察の手ぬるさも知っているため信用が出来ません。
まして、あの魔法使いには、ピストルさえ通用しないので厄介です。
そんなことを考えながら、夜の12時が近付いた頃、突然家の2階の窓からヒラヒラと紙が舞い落ちてきました。
その紙切れは、恵蓮という別名で、婆さんに仕える妙子からの手紙でした。
妙子からの手紙には、婆さんが恐ろしい魔法使いであることが書かれていました。
そして、時々真夜中になると、婆さんが自分の体にアグニの神というインドの神様を乗り移らせることを告げていました。
アグニの神は、妙子の口を使っていろんな予言をするらしく、その間の妙子は気を失っているようでした。
しかし、今夜の妙子はこれを逆手にとって、魔法にかかったフリをするというのです。
そして、アグニの神の予言を真似て、お父様の所に自分を返すよう婆さんに伝えるというのでした。
また、アグニの神を恐れている婆さんには、この方法しか自分が逃げられる術はないということも書かれていました。
遠藤が妙子からの手紙を読み終えると、もう時刻は夜中の12時になる5分前となっています。
相手は魔法使いだし、妙子はまだ子供です。
この計画が本当に上手くいくのかと遠藤が不安に思っているうちに、明るかった婆さんの家が突然、真っ暗になりました。
いよいよ、アグニの神を呼び出す魔法が始まるようです。
【転】アグニの神 のあらすじ③
婆さんがアグニの神を呼び寄せる呪文を唱えると、妙子はしだいに不安になってきました。
自分の手紙がちゃんと遠藤の所に渡ったのか心配になってきたのです。
しかし、そんな心配が婆さんにバレてしまったら、計画は水の泡です。
妙子は震える両手を組み合わせて、アグニの神になりきるタイミングを見計らっていました。
そのうちに、妙子の体にはいつものような眠気が襲ってきました。
しかし、ここで眠ってしまっては計画が実行出来ません。
妙子は目を閉じながらも祈るような気持ちで、日本の神々に自分を守ってくれるよう頼みました。
ところが、気持ちとは裏腹に妙子はどんどん眠くなってきます。
そうして、気づくとアグニの神に妙子の体は乗っ取られてしまっていました。
妙子も婆さんも、この光景は誰にも見られていないと思っていましたが、実は家の鍵穴から遠藤が覗き込んでいました。
とはいえ、鍵穴なので全てを見ることは出来ません。
それでも婆さんがアグニの神に頼みを乞う声は、ハッキリと聞こえていたのです。
すると次の瞬間、妙子の口から荒々しい男の声が聞こえだしました。
そして、お前の願いは聞かない、少女を父親の元に返すよう婆さんに命令したのです。
しかし、婆さんはその言葉を信じることはありませんでした。
そして、あろうことか妙子に向かってナイフを向け、声色を使っていることを白状しろと脅すのでした。
そして、婆さんはアグニの神の忠告を無視し、妙子にナイフを振り上げたのです。
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【結】アグニの神 のあらすじ④
遠藤には、誰かの「わっ」と叫ぶ音だけが聞こえました。
なかなか開かなかった戸を、やっとの思いでこじ開けた遠藤は、シーンと静まり返った部屋の中に、急いで入っていきます。
そして、死人のように椅子に腰掛けている妙子のことを、必死に呼びかけました。
すると妙子はようやく目を覚まし、遠藤に計画が失敗してしまったことを話します。
しかし、遠藤は計画が失敗したのは妙子のせいではないということ、妙子はちゃんとアグニの神の真似をしていたということを伝えます。
そして、そんなことよりも一刻も早く、ここから逃げ出すことを伝えるのでした。
しかし、妙子には遠藤の話している意味が分かりませんでした。
なぜなら、妙子は本当に寝てしまっていて、どんな予言をしたのかも覚えていなかったからです。
そのため、自分は婆さんから逃げられないと諦めていました。
そして、妙子は遠藤に婆さんの場所を聞きます。
そこで初めて、遠藤も部屋の中を見廻しました。
そこには、机の上に魔法の書物が開いていました。
そして、その下に血だらけになって仰向けになっている婆さんがいたのです。
なんと婆さんは、自分のナイフで自分の胸を突き刺して死んでいました。
この姿に、妙子は遠藤が婆さんを殺したのかと問い詰めますが、遠藤はもちろん否定します。
そして、妙子が自分で計画を失敗したという本当の意味を、ここで初めて知ったのです。
つまり、婆さんを殺したのは、今夜ここに来たアグニの神だったのです。
芥川龍之介「アグニの神」を読んだ読書感想
結末が見事にスカッとする作品でした。
意地悪なインド人の婆さんに、最後に天罰が下る所が、実に爽快です。
占いや神のお告げなど、現実離れしたファンタジー要素も多少ありますが、現代でも違和感なく読み切ることが出来ます。
個人的には、主人のために必死に立ち向かう遠藤のキャラクターが大好きでした。
1番、普通の世界にいそうな人だったからこそ、現実味もあって感情移入がしやすかったです。
また、遠藤が好青年だった分、インド人の占いの婆さんが、とことん嫌な役だったのも対照的で楽しめるポイントでした。
さらに、冒頭でやって来たアメリカ人の占いの依頼内容も興味深かったです。
日米戦争がいつ起こるかという予言を頼む内容なのですが、この作品が発表されたのが大正時代なので、当時の時代背景が少し分かるような気もしました。
その後に本当に戦争が起こるわけですが、作品でのアメリカ人の書き方に、芥川龍之介の個人的な見方が入っているようにも読めて、面白く感じました。