著者:芥川龍之介 2016年7月に青空文庫から出版
白の主要登場人物
白(しろ)
飼い犬だったが、ある事件をきっかけに体の毛が黒くなり家を追い出されてしまった主人公
黒(くろ)
白の隣の家に住んでいた、仲良しの飼い犬。犬殺しに殺されてしまう。
お嬢さん(おじょうさん)
白を可愛がっていた飼い主。体毛が黒くなった白を狂犬扱いしてしまう
春夫坊ちゃん(はるおぼっちゃん)
白の飼い主で、お嬢さんの弟
ナポレオン(なぽれおん)
子供たちにいじめられていた茶色い子犬
1分でわかる「白」のあらすじ
白という犬は、ある時、隣の飼い犬である黒が殺されようとしている所に出くわします。
白は黒を助けようと思ったものの、自分が殺されるかもしれないという恐怖から、その場を去ってしまいました。
そして、急いで自分の飼い主であるお嬢さんと坊ちゃんに、このことを伝えようとします。
ですが、その時の白は真っ黒な毛になっており、2人に狂犬扱いされ、追い出されてしまうのです。
行き場を無くした白は、その後、ある1匹の茶色い子犬を助けます。
これをきっかけに、その後も次々と人命を救い、義犬として新聞に取り上げられるようになりました。
そして、ある秋の夜中に、白は久しぶりに主人の家に帰ってきます。
そして、黒を見殺しにした懺悔を語り、自殺の決意をするのです。
しかし、翌朝目が覚めると、そこには「白が帰ってきた!」と喜ぶお嬢さんと坊ちゃんの姿があるのでした。
芥川龍之介「白」の起承転結
【起】白 のあらすじ①
白はある主人に飼われていた犬でした。
白はある時、犬殺しが黒を狙っている所を目にしてしまいます。
しかも、黒という犬はお隣さんの飼い犬で、白とも大の仲良しの犬でした。
白は思わず大声で「黒くん!危ない!」と叫ぼうとしますが、その事を犬殺しに気づかれてしまいます。
その犬殺しの目は凄まじく恐ろしく、白はそこで思わず吠えるのを忘れてしまいました。
そのうえ、自分が先に殺されてしまうと思った白は、結局、黒を見捨てて、急いで家に帰ってしまったのです。
結局、白が逃げている間に黒は犬殺しの罠にひっかかり、黒のけたたましい鳴き声だけが、白の耳に唸って聞こえていました。
そうして、命からがら逃げて帰ってきた白は、主人であるお嬢さんと春夫坊ちゃんに、この事を伝えようとします。
しかし、犬であるため、自分の言葉を理解してもらえるはずがありませんでした。
それどころか、白を見るなり「どこの犬だろう?」と2人は怪訝な表情を浮かべるのでした。
そして、2人の会話から、白は自分の身体が真っ黒になってしまっていることに気がつきます。
白は信じられないようなこの事実に、身の毛も逆立ち、一生懸命に吠えたててしまいました。
そして、その結果、お嬢さんから白は狂犬扱いをされてしまいます。
すると春夫坊ちゃんも、小道の砂利を力いっぱいに白に投げつけ、とうとう白を追い出してしまったのです。
結局、白はため息を漏らしたまま、今日から宿無し犬として暮らすことを余儀なくされてしまいました。
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【承】白 のあらすじ②
白は行くあてもなく、途方に暮れながら、東京中をうろつきました。
しかし、どこに行っても考えてしまうのは、真っ黒になってしまった自分の姿です。
理髪店の鏡の前や水たまりを見る度に、自分の真っ黒な姿に落ち込んでしまいました。
そうして白は、ある公園へと駆け込みながら休息を取ります。
その公園では、姿を映すものが池の他にはなかったので、自分が醜い黒犬になったことも忘れ、ようやく休むことが出来ました。
しかし、そのうちに、あるけたたましい犬の泣き声が聞こえてきます。
白は思わず身震いをしました。
そして、その泣き声が助けを呼ぶ声であることが、白にはすぐに分かりました。
白は目を閉じて、元来た道へ逃げ出そうとしますが、臆病ものになるなと自分を戒めます。
そうして、白は凄まじい唸り声を漏らしながら、その泣き声のする方へと向かったのです。
来てみると、そこには茶色い子犬をいじめている子供たちの姿がありました。
子供たちは「助けてくれー」という茶色い子犬の声も聞こえずに、笑ったり怒鳴ったりしながら、犬の腹を蹴って遊んでいたのです。
白はその光景を目にするなり、躊躇わずに子供たちめがけて吠えかかりました。
不意をつかれた子供たちは、白の恐ろしい剣幕に驚き、慌ててその場から逃げ出したのでした。
中には、あまりの狼狽ぶりに花壇へ飛び込んだ子供までいました。
結局その後、白は助けた茶色い子犬を、家まで送ってやることにします。
茶色い子犬も嬉しそうに白に付いてくるのでした。
【転】白 のあらすじ③
茶色い子犬を送ってやることにした白は、嬉しそうな茶色い子犬と共にひたすら歩きました。
そうして2、3時間も歩くと、白と茶色い子犬は、貧しいカフェの前で佇んでいました。
茶色い子犬は、この大正軒というカフェに住む犬だったのです。
大正軒は、昼も薄暗い雰囲気のお店で、もう赤々と明かりが灯り、中では音のかすれた蓄音機の浪花節が聞こえているお店でした。
しかし、茶色い子犬はここの家をとても気に入っているようでした。
そして、茶色い子犬は、白におじさんはどこに住んでいるのかと尋ねます。
白は、ずっと遠い町にいると寂しそうに答えるしかありませんでした。
なんとか今日のお礼をしたい茶色い子犬は、白に今日は自分の家に泊まるようお願いをします。
そして、母からも命拾いのお礼や、ご馳走を振る舞わせて欲しいことを頼むのでした。
そして、牛乳やカレーライス、ビフテキなどのご馳走も用意出来ることを白に伝えます。
しかし、白は用があるからと言って、それらを全て断りました。
そして、三日月が光り出す中、ひとりぼっちで歩き出すのでした。
その様子を見た茶色い子犬は、寂しそうに鼻を鳴らします。
そして別れ際、茶色い子犬は、せめて名前だけでも教えて下さいと白に尋ねたのでした。
しかし、自分の名前を答えた白は、胸がいっぱいになってしまいます。
なぜなら、白という名前を耳にした茶色い子犬は「白と言うのは不思議ですね。
おじさんは、どこも黒いじゃないですか。」
と悪気なく言ってしまったからです。
それでも白という名前であることを話すと、茶色い子犬も、白のことをようやく白のおじさんと呼んでくれました。
そして、茶色い子犬は、自分の名前がナポレオンであることを話し、2人はとうとう別れたのです。
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【結】白 のあらすじ④
その後、白は様々な新聞に載るようになっていました。
度々、人の命を救ったことで、勇ましい1匹の黒犬として新聞に載り、注目を集めていたのです。
また、「義犬」として活動写真にも登場するほど有名な犬になっていました。
そんなある秋の真夜中、体も心も疲れ切った白は、久しぶりに主人の家へと帰ってきました。
真夜中だったため、すでにお嬢さんと春夫坊ちゃんは眠っています。
白は昔の犬小屋の前でひっそりと、露に濡れた体を休めていました。
そして、寂しい月を相手に、自分の独り言を語り始めるのです。
その内容は、その昔、仲良しだった黒君を見殺しにしてしまった懺悔でした。
しかし、その後はお嬢さんと春夫坊ちゃんともお別れして、あらゆる危険に立ち向かってきたことも話し出します。
自分の黒い身体が心底嫌になり、何度も死ぬ気で強敵に挑んだが、結局、自分の命は強靭で1度も敗れなかったことも話しました。
そして、とうとう苦しさのあまり自殺の決心をしたことを月に告白するのです。
とはいえ、最期に会いたいのは、やはりご主人様でした。
そして、せめて夜明けにでも、お嬢さんや坊ちゃんに合わせて下さいと月に頼み込み、寝てしまったのです。
翌朝、目が覚めると、白の前には驚いた様子のお嬢さんと春夫坊ちゃんの姿がありました。
白はその驚きように、自分が戻って来たことを後悔しました。
しかし、ご主人様の反応は別の驚きでした。
白が戻ってきてくれたと泣きながら喜んでくれたのです。
なんと白は、元の真っ白な犬になり、お嬢さんに抱きかかえられながら泣いていたのでした。
芥川龍之介「白」を読んだ読書感想
ハッピーエンドで良かったと思わせてくれる内容でした。
黒を見殺しにしてしまったことで、黒い犬になってしまった白でしたが、どんどん義犬として活躍していく様子は、苦難を乗り越えたようにも見えていました。
しかし、その裏で自殺の苦悩を抱えていたという所がすごく良かったです。
月への告白シーンが、本当に素敵でした。
ただ単に、汚れて真っ黒になってしまったわけではなく、自分の心の色が体に反映されていたような気がしてなりません。
白の成長によって、白い毛並みが真っ黒になり、最後にはまた真っ白になるという展開は、誰が読んでもお見事に感じる内容だったと思います。
また、物語の中では、茶色い子犬との別れにも三日月が出ていたので、月がキーポイントとなる作品なのかなとも感じました。
さらに、主人公が犬という点も斬新で面白く、読みやすかったです。
お嬢さんと春夫坊ちゃんのやり取りや、茶色い子犬をいじめていた子供たちのやり取りなどは、昔なら容易に見られた光景でもあるので、視点によって感じ方がだいぶ変わることも面白く感じました。