闇の守り人 上橋菜穂子

上橋菜穂子

上橋菜穂子「闇の守り人」のあらすじを徹底解説、読んでみた感想

著者:上橋菜穂子 1999年1月に偕成社ワンダーランドから出版

闇の守り人の主要登場人物

バルサ(ばるさ)
本作の主人公。短槍使いの女護衛士。

ジグロ(じぐろ)
バルサの育ての親。祖国から命を狙われ続け逃亡生生活の末に亡くなる。天才短槍使い。

カルナ(かるな)
バルサの父親。王の主治医をしていた。暗殺される。

カッサ(かっさ)
ムサ氏族傍系血筋の15歳。

ヨヨ(よよ)
カッサの友達。牧童。

1分でわかる「闇の守り人」のあらすじ

バルサは幼少期から命を狙われ刺客を送られてきた祖国カンバルを、自らの過去を清算するために訪れます。

カンバルへの道中、洞窟の中で助けたカッサが氏族長に女短槍使いに助けられたことを告白しますが、氏族長はバルサの正体に気づきます。

氏族からの追手に捕まり逃亡しますが、バルサは傷を負いヨヨ達牧童たちに助けられ、カッサと再会します。

バルサとカッサは牧童から、カンバルの秘宝であるルイシャを山の主から受け取る大切な儀式で、ラダール王とジグロの弟ユグロが山の王を暗殺する計画を立てていることを聞きます。

暗殺計画を阻止すると決めたカッサは、バルサと牧童とともに儀式を成功させるために洞窟へ向かいます。

儀式場で計画を阻止しようとしたカッサをユグロは殺そうとしますが、すんでのところでバルサが助け、暗殺計画を阻止します。

上橋菜穂子「闇の守り人」の起承転結

【起】闇の守り人 のあらすじ①

闇の底に眠っていたもの

バルサの父カルナはナグル王の主治医をしていましたが、バルサを殺すと王弟ログサムに脅されてナグル王を毒殺します。

自分も殺されると考えたカルナは、親友であるジグロにバルサの命を助けるよう頼み、ジグロは自分の地位や家族などのすべてを捨て、幼い6歳のバルサを連れて逃亡生活を始めます。

ログサムは秘密を知るバルサとジグロに刺客を放ち続けますが、短槍の天才ジグロはすべての刺客を打ち破ります。

カンバルを出た半年後にカルナが殺されたという噂を聞き、バルサは父親を殺したログサムへの復讐を誓い武術を学びますが、15年後にログサムは病死してしまい、復讐は果たせませんでした。

バルサは25年ぶりに祖国カンバルへ向かうため、闇の守り人【ヒョウル】がいる洞窟を通ります。

この洞窟はかつて養父ジグロがカンバルから亡命するときに使った逃げ道でした。

ヒョウルが嫌うために松明も使えない暗闇の洞窟の中で、松明を持ちヒョウルに襲われているカッサとジナを助けます。

自らの身分を償い行者と偽り、自分の話は誰にもしないように言い含めてから2人を家に帰します。

施療院を営む叔母のユーカを訪れて話を聞くと、ジグロやバルサについて情報操作がされていることを知ります。

バルサは井戸に落ちて死んだことになっており、ジグロは氏族最悪の裏切り者として扱われ、ジグロを討ち取ったジグロの弟ユグロは英雄となっていました。

バルサはユグロにとって都合の良すぎる情報操作に疑問を抱きます。

[ad]

【承】闇の守り人 のあらすじ②

動き出した闇

カッサとジナは家に帰ると洞窟から青光石【ルイシャ】を持ち帰っていることに気が付きます。

ルイシャは美しく大変価値があるものですが、王の宝石であるために父トンノにバルサのことを打ち明けます。

トンノがユグロやムサ氏族長に報告すると、2人は償い行者がジグロとともに逃亡したバルサであることに気づきます。

ユグロは氏族長の長男カームと警備長に密かにバルサを殺すようにと指示を出します。

バルサはユーカの施療院で25年間の出来事を話しながら穏やかな日々を過ごしていました。

追手が迫るとユーカに迷惑をかけないようわざと追手に捕まり連行されるバルサですが、殺すつもりで捕まえられたことに気が付き、追手を倒し逃亡します。

戦いの中で毒を盛られたバルサは逃げている途中に岩山で気を失ってしまいます。

目を覚ますと、オコジョを駆る狩人【ティティ・ラン】がフクロウに狙われており、とっさに石を投げて助けます。

毒による発熱のせいで幼いころに母に聞いたむかし話の幻でも見たのかと、うとうとしていると目の前にティティ・ランが現れ、命のお礼には命をと牧童にバルサを助けるよう頼みます。

バルサは朦朧とする意識の中でジグロを看取った時のことを思い出します。

自分の為に多大な犠牲を払ってくれたジグロが病に侵され、精気を吸い取られてやつれている姿。

ジグロとの会話を思い出し、バルサは自分の気持ちに正直になる事、自分が受けた痛みをユグロに仕返ししてやろうと心に決めます。

【転】闇の守り人 のあらすじ③

山の王の民

カームと警備長がひどい怪我をして帰ってきたことが郷中に広まり、ムサ氏族長は武人を集めて事の顛末を説明することにしました。

ユグロが武人たちに語った話は事実とは異なり、カッサはユグロへの疑念が芽生えます。

会合のさなか、カンバル王からの使者が訪れこの冬に【ルイシャ贈りの儀式】が行われることを通達に来ました。

ルイシャ贈りの儀式は20年に一度行われる秘儀で、カンバル王がルイシャを得ればカンバルは豊かになるため武人たちは喜びました。

カームは長年ユグロの計画に携わってきた自分を、殺すつもりなのではないかと予感し、カッサに遺言のような言葉を遺します。

カッサが、疑念を晴らすためにもう一度バルサに会いたいという話をジナとしていると、ヨヨが現れ療養しているバルサの元へ連れて行ってくれます。

牧童の長トトが牧童の集会でカッサとバルサに大変なことを打ち明けました。

ルイシャ贈りの儀式では最も優れた短槍の使い手がヒョウルと命がけで槍舞いを舞うこと、前回のルイシャ贈りの儀式に参加した武人たちは全員刺客として送り出され、ジグロに殺されてしまっていることです。

ルイシャ贈りの儀式の恐ろしさを知る者がいないためにラダール王とユグロが、今後ルイシャを自由に掘り出せるように山の王を殺す計画を立てているというのです。

トトはバルサに計画の阻止を頼みますが、カンバルに今まで苦しめられてきたバルサは激怒します。

カッサがみんなが死ぬのは見たくないから一人でも行く、と決めた時にバルサはカッサを武人たちから守るために同行することを決めます。

[ad]

【結】闇の守り人 のあらすじ④

ルイシャ贈りの儀式

唯一ルイシャ贈りの儀式を体験しているヨンサ氏族長ラルーグの元に牧童が訪れ、事の顛末を説明します。

ユーカからも同様の話を聞いていたラルーグは、バルサとともにムサ氏族長を訪れユグロの陰謀を暴きます。

陰謀を信じたムサ氏族長は計画を阻止するために動くカッサが山から帰ってきた後、必ず守ることを約束します。

カッサはラルーグの手紙を携えてバルサと牧童の案内の元に儀式場を目指します。

洞窟の中の大きな川を水流の狩人【スーティ・ラン】の背中に乗せてもらい、すばらしい速さで目的地へと近づいて行きました。

儀式場の隣の洞窟でカッサとバルサが儀式が始まるのを待っていると、足音が聞こえて人々が儀式場へ入り、儀式が始まりました。

最も優れた短槍使いがユグロに決まると、カッサは儀式場へと入り武人たちの制止を振り払いラルーグの手紙を読み始めました。

その時、ユグロがカッサを殺そうとするのをバルサがすんでのところで止め、ユグロとバルサの戦いが始まりました。

僅差でバルサが勝つと、洞窟に暗闇が訪れバルサとヒョウルと向かい合った瞬間にヒョウルの正体がジグロであることに気が付きます。

舞いからバルサとジグロはお互いの感情を感じ、理解し抱き合いました。

その瞬間、地面が水面に変わり、儀式場にいたヒョウル達が青く輝き、周囲の岩へと溶けて行きました。

深い水底から巨大で透明な水蛇が登ってくると脱皮をして水底へと帰って行きました。

水中に漂っている美しい皮を王と武人たちが受け取ると水面は消え地面にはひと山のルイシャが輝いていました。

全員が無事に儀式場から戻りましたが、ユグロだけは心を闇の中に残したまま戻ってきませんでした。

春にるまでバルサは儀式場での傷をゆっくりと癒して過ごしました。

心を込めて磨いたカッサの短槍の輪と使い込んで血が染みついたバルサの短槍の輪を交換して、バルサは新ヨゴ皇国へと発ちました。

上橋菜穂子「闇の守り人」を読んだ読書感想

上橋菜穂子の守り人シリーズは是非全作読んでほしいです。

緻密な世界観から繰り広げられる物語で、美しい情景が想像できますし、その場にいるような気にもなれます。

バルサやタンダ、チャグム達に会いたいときはどの作品からでも入り込めます。

守り人シリーズの中でもバルサが主人公であるのは闇の守り人のみです。

3作目以降にもバルサは登場しますが、バルサの内面をここまで描写している個所はありません。

幼少期からつらい思いをしてきたバルサがどのように育ってきたのか、養父ジグロがどのような思いで旅を続けていたのか、バルサはそんなジグロを見て何を感じていたのか。

色々と想像をめくらせながら読むと止まらなくなります。

思想も大切にするものもそれぞれバラバラなはずの人たちが、どす黒い陰謀やドロドロとした描写が進みつつ、最終的には一つの流れに沿って動いていく様が素晴らしいです。

話の流れに全く違和感も感じません。

何度でも読み返せる作品です。

-上橋菜穂子

© 2024 文豪に学べ Powered by AFFINGER5