著者:森見登美彦 2008年12月に角川文庫から出版
夜は短し歩けよ乙女の主要登場人物
私(わたし)
本作の主人公。男性。大学生。
かのじょ(かのじょ)
本作のヒロイン。私の後輩。酒好き。
羽貫さん(はぬきさん)
飲み屋で彼女が知り合った女性。酒飲み。歯科衛生士。
樋口さん(ひぐちさん)
飲み屋で知り合った男性。羽貫さんの相棒。天狗。
1分でわかる「夜は短し歩けよ乙女」のあらすじ
ストーリーの概要や、話題になった点、キャッチコピー等の映画の簡単な紹介。
200-400これは主人公「私」の京都青春期です。
四条河原や糺の森、先斗町、木屋町といった京都の町を舞台に、幻惑と現実の入り混じった甘酸っぱい恋の話が展開されます。
他にない不可思議な構成のストーリーは引き込まれること間違いありませんが、何よりも特筆すべきはその特異な文体です。
大正〜昭和期の文学を彷彿させる軽妙な語り口と、詭弁論部、閨房調査団、偽電気ブラン、ごはん原理主義者、韋駄天コタツなどの不可思議な単語の数々が、和製SFともいえる森見ワールドへと読者を誘ってくれます。
森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」の起承転結
【起】夜は短し歩けよ乙女 のあらすじ①
五月、私は大学の赤川先輩の結婚式に出席します。
そこで「彼女」と出会います。
彼女は結婚式の二次会にはいかず、自分の飲みたい酒を飲むために夜の木屋町へと繰り出します。
私は彼女とどうにかして話したかったので、その後ろ姿をこっそりつけます。
彼女は酒を探す道すがら、赤川先輩の結婚相手の東堂奈緒子の父親である東堂(父)と知り合います。
飲み屋で酒を飲みながら、彼女は東堂(父)から錦鯉センターの鯉が竜巻に吸い込まれて行方不明になり借金を負うことになった話を聞きます。
そのうちに、東堂(父)は彼女に対してセクハラをし始めます。
嫌がる彼女を助けてくれたのが、すぐそばで飲んでいた羽貫さんでした。
東堂(父)は羽貫さんによって店から放りだされ、そして私と出会います。
私は東堂(父)のセクハラの事は知らず、そのまま意気投合して先斗町のバーへ連れ立ちます。
彼女は羽貫さんの酒の飲みっぷりに感心し、意気投合しました。
彼女はその後羽貫さんとその相棒の樋口さんと共に再び夜の木屋町を彷徨します。
三人でいろいろな宴会に紛れ込みます。
樋口さんが空中浮遊を見せてくれます。
樋口さんは他にも天狗の技(一発芸?)を紛れ込んだ宴会の先々で披露します。
店から店へ移動するたびに同行する輩が増えて行きます。
途中、赤坂先輩のお父さんや、赤坂先輩夫婦も連れ立ちます。
彼女はひたすら偽電気ブランを飲みたいと思いながら他の酒を飲み続けます。
一同が同じ場所に会した時、果たして上から春画が舞い落ちてきます。
その春画は東堂(父)が事業で失敗した借金で自棄になってビルの上階からばら撒いたものでした。
呆然とした全員の前に現れたのが町の重鎮、李白翁。
満艦飾の三階建て電車に乗ってやってきます。
李白は東堂(父)が借金をしている相手です。
彼女は東堂(父)の借金を賭けて李白と飲み比べをすることになります。
偽電気ブランで飲み比べをし、最終的に彼女が勝ちます。
すべてが終わった後、飲み比べをした宴会場の前にある池に、竜巻で攫われたはずの鯉たちが降ってきます。
彼女のすぐ隣でそれを見ていた私は、この時ようやく彼女とひとこと会話ができ、そして酔いつぶれました。
[ad]
【承】夜は短し歩けよ乙女 のあらすじ②
私は、彼女が行くと言っていた下鴨神社の古本市に行くことにしました。
古本市で、同じ本を見つけて手に取ろうとした二人が偶然にも出会うというシチュエーションを妄想したからです。
けれど実際にはなかなか彼女を見つけることができず、代わりに出会ったのは一人の少年でした。
その少年は10歳というわりにはジジむさい口調で話す子で、丁々発止にやりあいながら二人で古書店を巡ることになりました。
少年は自身のことを古本市の神だと述べ、悪しき蒐集家の手から古書を介抱するために来たと言いました。
一方、彼女はジェラルドダレルの本を探しつつ、他の本にも目移りしつつ、本の海を徘徊します。
そのなかで、樋口さんに出会います。
樋口さんと彼女は行動を共にすることになります。
樋口さんと話をするうちに、彼女は幼い頃夢中で読んだ絵本「ラ・タ・タ・タム」の事を思い出します。
どうしてもまたその絵本を読みたくなったので、絵本コーナーへと向かいますが、見つかりません。
彼女は古書店の主人たちと話す中で、その日に李白が借金のかたに取り上げた古書の売り立て会が開催されることを知ります。
樋口さんは正義感に駆られ、売り立て買いに参加することで不合理な蒐集が行われるのを阻止する決意をします。
私はそのころ閨房調査団の千歳屋さんに遭遇し、売り立て買いに参加する助っ人になることを頼まれます。
そして開催された売り立て買い。
その内容はといえば、綿入れを着て湯たんぽを抱えて炬燵に入って火鍋を食べ続け、最後まで耐えられた者が勝者となり、李白が所有の古書を手に入れられるというものでした。
古書の中には彼女が欲しがっていた「ラ・タ・タ・タム」がありました。
勝利したのは私でしたが、買ったと思った瞬間にヘビに変化した少年が現れ、李白を懲らしめた後に古書をすべて「解放」しました。
解放された古書はふたたび古本市に散らばり、私は探索の末、無事「ラ・タ・タ・タム」を発見して彼女に渡し、少しばかり会話することができました。
【転】夜は短し歩けよ乙女 のあらすじ③
私が彼女とはじめて出会ってから、半年の月日が流れました。
半年の間、私はなんとか彼女とコミュニケーションを取ろうと「偶然」を装って街中で遭遇することを繰り返しました。
けれどなかなか私の想いは彼女に伝わりません。
そんななか開催された学園祭です。
学内を見て回った後、私は友人の学園祭事務局長の男を訪ねました。
その時に、学園祭テロリストについて相談されます。
演劇「偏屈王」と韋駄天コタツです。
それらはゲリラ的に学内の至る所に出没し、場を掻き回し、時にはけが人も出るので手を焼いているということでした。
事務局長は両者を捕らえ、何としても辞めさせたいと息巻いています。
そんな事務局長の思いをよそに、韋駄天コタツは学内のあちこちを回り、それを「偏屈王」が追いかけながら新たな演目を上演していきます。
韋駄天コタツは羽貫さんと樋口さんとパンツ総番長を抱えひた走ります。
パンツ総番長は偏屈王の脚本を書き、演出をしている人で、いわばこの騒動の張本人です。
私は彼女を探して学内を歩きます。
一方の彼女はといえば、大きい緋鯉のぬいぐるみを背負ってゲリラ演劇「偏屈王」に遭遇した縁からプリンセスを演じることになっていました。
偏屈王と韋駄天コタツを追いかける事務局長、プリンセスを演じる彼女、彼女を探して校内を歩き回る(しかし一向に出会えない)私。
事態も人物も錯綜するなか、「偏屈王」はついにフィナーレを迎えます。
最後の演目がある学内にある建物の屋上で行われるという情報を入手した私はそこへ向かい、パンツ総番長から偏屈王の役をもぎ取りました。
演目の中でプリンセスと偏屈王として抱き合う私と彼女。
彼女はようやく、私と頻々に遭遇する「運命の御都合主義」にすこし気付いたようでした。
[ad]
【結】夜は短し歩けよ乙女 のあらすじ④
季節は師走に移りました。
師走は風邪の季節。
登場人物も風邪を引きます。
学園祭での騒動で私に対して恋心のような気持ちを持つ自分に気付き始めた彼女の心情が吐露された後、場面は羽貫さんの家へと転じます。
大学の食堂で樋口さんに遭遇し、羽貫さんが風邪を引き寝込んでいるという話を聞いた彼女は、羽貫さんの家にお見舞いに行くことになったのです。
そのお見舞を皮切りに、彼女の周囲の人物が次々と風邪に倒れて行きます。
それらは全員、物語の冒頭から登場してきた人物たちです。
彼女はその全員のもとを訪問してお見舞をします。
ただし、それは主人公である私を除いて、です。
私も例にもれず風邪を引きますが、彼女には見舞われずに一人寂しく症状と格闘します。
その結果、何故か東堂(父)の錦鯉を再度吸い上げに来た竜巻に巻き込まれてしまいます。
さて、「風邪の神様に嫌われている」という彼女は全く風邪を引きません。
やがて世の中の人間すべてが風邪を引き、テレビ局のレポーターまでもが風邪を引き、出歩く人の居なくなった街中はがらんどうになってしまいます。
それでも風邪を引かない彼女は馴染みの古書店に入り、そこで古本市の神様である少年に会います。
店主の代わりに店番をしていた少年は、彼女に「風邪薬を飲んでも効かない風邪を、たちどころに治す薬」をくれました。
やがて樋口さんも風邪にかかり、彼女は樋口さんのお見舞にも行きました。
その時に、流行している風邪の大もとの原因は李白さんを患わす李白風邪で、さらに彼女が少年からもらった薬でなら治るという話を聞きます。
彼女は糺の森に住む李白さんのお見舞へ行き、薬を飲ませます。
李白さんの体のなかから追い出された風邪の神様は、暴風となって外に飛び出し、竜巻へと変じて彼女を巻き込みます。
彼女を抱える竜巻と、私を抱える竜巻とが藍色の朝露に沈む街で出会います。
私が目を開けた時には私の部屋で彼女と手を握り合っていました。
そうしてお互いの気持ちを確認した二人は、無事交際することに相成ります。
最後は喫茶店で初デートをする場面で幕引きです。
森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」を読んだ読書感想
最初に読んだ時は、特徴的な文体について行くのがやっとでした。
ストーリーも荒唐無稽の奇想天外で、「なになに、何がどうなっているの?!」と戸惑うこともしばしば。
けれど半分も読むころには文章にも慣れ、物語の中で登場人物たちが錯綜して、最終的に一堂に会して物語を回収するという、文章の構成の素晴らしさに感服しました。
森見登美彦さんは「有頂天家族」で知りましたが、いずれも京都の町を舞台にしています。
観光で赴いたことのある風景を思い出しながらの読書となり、いわば一種の旅行でもあり、ただ読書をしただけにしては心の持って行かれ方が大きく、なんというスバラシイ本なのだと驚きました。
また、作中でしばしば登場する不思議ワードにも心を奪われます。
韋駄天コタツ。
まるで想像ができません。
偽電気ブラン。
偽ってナニ?! 実際にあるものなら見てみたい、飲んでみたいと思ってしまうものばかりです。
私たちをたちどころに異世界へと連れて行ってくれる森見ワールド。
ファンにならずにいられません。