著者:森鴎外 1890年に国民之友から出版
舞姫の主要登場人物
太田豊太郎(おおたとよたろう)
本作品の主人公。若くしてベルリン留学した、エリート官僚。
エリス(えりす)
ヴィクトリア座の踊り子。16歳(17歳)。
相沢謙吉(あいざわけんきち)
豊太郎の友人。伯爵の秘書官。
天方伯爵(あまがたはくしゃく)
相沢の勤め先の大臣
1分でわかる「舞姫」のあらすじ
物語は、豊太郎が日本へ帰国する船の中場面から始まります。
薄暗い船内にて、ひときわ沈んだ様子の豊太郎。
彼は、ベルリンに若くして留学したエリート官僚でした。
大学の法学部を卒業後、ドイツへの留学を命じられ、五年後にベルリンへと赴いたのです。
寒い冬のある日、豊太郎は下宿先に戻る途中の道中で美しい少女・エリスに出会います。
困っていた彼女を助ける豊太郎。
そこから豊太郎とエリスの物語が始まるのです。
森鴎外「舞姫」の起承転結
【起】舞姫 のあらすじ①
石炭の燃える音だけが静かな船内に響く中、じっと身を縮ませている男・太田豊太郎。
その表情は暗く、物憂げです。
彼は将来を嘱望されたエリート官僚でベルリンに留学していましたが、今は日本に帰国する船の中です。
豊太郎は、ベルリンでの出来事を回想します。
豊太郎は父を早くに亡くしましたが、厳しく教育され、また彼自身も優秀だったので、東京大学の法学部を主席で卒業しました。
大学卒業後は母と共に東京にて暮らしていましたが、ある日ドイツ留学への道が開きました。
出世する良い機会だと思った豊太郎は承諾し、単身ベルリンへ留学します。
留学を斡旋された豊太郎は、エリート官僚です。
ドイツにて職務をこなしつつ、休日には大学に通うという勤勉な毎日を繰り返していました。
そんな毎日を繰り返していた豊太郎は、ふと、自分のことを振り返ります。
エリート官僚として周りから期待され、それに応えてきた自分をよしとしてきたが、これはただ機械的にこなしてきただけなのでなはいだろうかと気づいたのです。
人の期待を裏切ることがただ怖く、他人の期待通りの道を歩いてきただけだと気づいた豊太郎は自分の人生に疑問を持ち始めます。
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【承】舞姫 のあらすじ②
ドイツ留学を命じられた豊太郎は、ベルリンの下宿先にて生活していました。
自分の人生に疑問を持った豊太郎は、日々自問自答を繰り返します。
ある日、彼が下宿へ戻る途中で、教会の前で涙を流すひとりの美しい少女と出会います。
彼女の名前はエリス。
ヴィクトリア座で踊る、踊り子のひとりでした。
彼女は父の葬儀代が工面できず、泣いていたのです。
憐れに思った豊太郎がエリスに葬儀代を工面してあげたことをきっかけに、二人の交際がスタートします。
当時は、外国人との交際はありえないものでしたが、貧しい踊り子である美しいエリスと恋に落ちるまで、さほど時間はかかりませんでした。
けれども、そんな豊太郎を面白く思わない人間がいました。
省の長官です。
一介の踊り子に熱をあげている豊太郎を快く思っていなかった長官の讒言により、豊太郎は免職されることになりました。
さらに、日本から、母の訃報が届きます。
母の死と、大事な職務を免職された豊太郎は途方にくれました。
国からの援助で留学していた豊太郎は、ベルリンにて恋に溺れ職を失いました。
そんな彼が日本に帰ったところで、立身出世は望めません。
けれども、ドイツに残ったとしても、免職された豊太郎には、生活費を捻出できるつてもありませんでした。
【転】舞姫 のあらすじ③
貧しいエリスと、仕事を失った豊太郎はお金がありません。
生活費すらままならない彼らを救ったのは、友人の健吉でした。
相沢の紹介で、豊太郎は新聞社でドイツ在住の通信員としての仕事を得ることができました。
貧しいながらも、エリスと暮らす日々は、つつましいながらも楽しいものでした。
そんなある日、エリスが豊太郎の子を身ごもっていることが判明します。
嬉しいけれど複雑な心境になる豊太郎ですが、そんなある日、彼は友人・相沢健吉の紹介で伯爵(大臣)のロシア訪問に随行出来ることになりました。
はじめ、大臣は豊太郎の悪い噂を知っており、一緒に仕事をすることに乗り気ではありませんでしたが、元々優秀な豊太郎の仕事ぶりをみて、少しずつ信頼を寄せるようになりました。
大臣からの信頼を勝ち取ることができた豊太郎に、ようやく復職できる希望が見えてきましたが、そんな友人の姿をみて、健吉は豊太郎に日本への帰国を勧めます。
大臣の信頼も得て将来に光が差してきたところなのに、女にうつつを抜かしている場合か(エリスと別れろ)、と諭されるのです。
悩む豊太郎は、決断を下します。
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【結】舞姫 のあらすじ④
エリス、発狂。
すっかり大臣の信頼を勝ち得た豊太郎は、大臣が帰国する際、共に日本に来てくれないかと相談されます。
日本に帰国する際、エリスは連れていけません。
エリスとの別れを促された豊太郎は、エリスと自身の出世と、天秤にかけ悩みます。
エリスとの生活は楽しいものでしたが、先行きは不安でした。
日本に帰り、出世することを望んだ豊太郎はエリスとの別れを決意します。
早くエリスに別れを告げなければならないと思いつつも、豊太郎はなかなか口にすることが出来ません。
そんな彼の様子から自身が捨てられることをおぼろげながら疑いだしたエリスは、ある日相沢から豊太郎が単身日本へ帰国する旨であることを知らされます。
あまりの事態に発狂し、エリスはパラノイアと診断されました。
治る見込みはありません。
そんなエリスと赤子と共にベルリンに残していくことに苦悩しつつも、豊太郎は少しばかりの金を残し、日本に帰国してしまいます。
豊太郎が職を失った際、窮地を助けてくれた相沢のことを友と思い、これほど親身になってくれる友人はいないだろうと思いつつも、彼を憎む心も、また豊太郎の中にのこっていました。
森鴎外「舞姫」を読んだ読書感想
高校の教科書に掲載されるなど、舞姫を読んだことがある方も多いのではないでしょうか。
私が初めてこの作品を読んだのは、高校の授業の一環でした。
立身出世を望み、将来を嘱望された豊太郎がエリスと恋に落ち、彼の人生が変わるのかと思いきや、結局己の出世のためにエリスを捨て、日本に帰国する豊太郎の心情に全く共感できなかったのが本音です。
友人と豊太郎の心情と行動について熱く語った日々が思い出されます。
読む人の立場によって、この物語は大きく見方が変わります。
豊太郎の視点に立てば、その苦悩もよくわかりますし、エリスの視点に立てば、捨てられたその心情がつらいものがあります。
各々の心理描写が記されたこの作品は、不朽の名作のひとつといっても過言ではないでしょう。
森鴎外の文章はとても美しく、声に出して読むとその流麗な響きに驚かされます。