著者:樋口一葉 1993年12月に集英社から出版
たけくらべの主要登場人物
美登利
花魁、大巻を姉に持つ快活で勝気な女の子。姉に劣らず美人。
藤本信如
龍華寺の住職の息子。おとなしくて賢い。
正太郎
祖母が金貸しをしている。陽気で表町の人気者。美登利のことが大好き。
長吉
鳶人足の頭の父を持つ。喧嘩っ早い横町のガキ大将。
三五郎
横町に住むひょうきんな男の子。親が正太郎の祖母から金を借りている。
1分でわかる「たけくらべ」のあらすじ
花魁の姉を持つ大黒屋の美登利は、表町の正太郎たちとお祭りの出し物は幻燈にすることに決めました。
表町と対立する横町の長吉は、龍華寺の住職の息子である信如に味方になってくれるよう頼みます。
祭りの日、美登利たちのところへ長吉たちが怒鳴り込んできます。
横町でありながら幻燈の口上をする三五郎に乱暴を働きます。
止めに入る美登利にひどい言葉をあびせ、草履を投げつけます。
そしてうしろに信如がいることを告げます。
かつてハンカチを貸そうとしてはやし立てられて以来、自分にだけはつれない態度をとる信如に対して、美登利はますます腹が立つのでした。
ある雨の日、鼻緒が取れて困っている信如に、ちりめんの切れ端を何も言い出せずに投げる美登利。
それを結局取ることができない信如でした。
島田を結い子供から大人に変わろうとしている美登利は、格子にさし入れてある水仙に気づきました。
信如が僧侶になるために旅立った日のことでした。
樋口一葉「たけくらべ」の起承転結
【起】たけくらべ のあらすじ①
ここは吉原、横町に住む長吉は鳶人足の頭を父に持ち、生意気な乱暴者として横町の子供たちを束ねていました。
一方、表町に住む田中屋正太郎は、祖母が金貸しを営んでいて、裕福な生活をしています。
温和な性格で茶目っ気もあり、表町の人気者です。
長吉はそんな正太郎が目障りでした。
力は自信があり挑みはしても、正太郎の利発さに及ばず、はぐらされてばかりです。
今年の祭りは絶対負けたくないと思案し、頼る人を思い出し龍華寺へ向かいました。
龍華寺の息子の信如は、学問ができる秀才です。
信如なら知恵を貸してくれるはずと長吉は思い、横町の組のものになってくれと懇願します。
寺と縁のある長吉の頼みを断ることもできず引き受けます。
しかし喧嘩だけはよしてほしいと頼みます。
大黒屋の美登利は、今をときめく花魁大巻の妹。
美人で愛嬌がよい、おまけに姉のおかげで羽振りがよくみんなから慕われていました。
今日は近づく祭りに向けてどんな出し物をしようかと、いつもの筆屋の店先で表町の子供たちと話し合っていました。
美登利は、お金ならいくらでも出すよと気前のいいことを言います。
その言葉にみんなは口々にいろいろと意見を出します。
茶番をしよう、いやおみこしを作ろうと話は盛り上がります。
最終的に正太郎が提案した幻燈に決まります。
横町の三五郎に口上をさせようと言えば、あの顔を幻燈に移したらおもしろいだろうねと笑う美登利でした。
みんな祭りの日がくるのが楽しみにしていました。
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【承】たけくらべ のあらすじ②
祭りの日、筆屋には正太郎はじめ子供たちが集まってきました。
なかなか来ない美登利を三五郎が呼びに行くことになりました。
横町に住みながらも、正太郎の親が祖母にお金を借りているため、表町にも呼ばれたら出向くのでした。
正太郎は今か今かと待っていましたが、祖母が夕飯の用意ができたと呼びに来ます。
しかたなく家に帰る正太郎。
入れ違いのように、いつもより着飾った美登利が現れます。
正太郎がいないと聞き、がっかりする美登利。
切抜きでもして遊んで待つことにします。
そこへ三五郎を呼ぶ声が聞こえます。
三五郎が呼ぶ方へ行くと、「この二股野郎」と長吉が怒鳴り込んできました。
筆屋の提灯を壊す乱暴狼藉。
正太郎の姿が見えないといら立ち、「隠すな、出せ」と三五郎を打ちのめすのでした。
思わず止めに入る美登利。
「正太はいない、代わりに私が相手になる」と言えば、「姉の跡継ぎの乞食め、お前の相手にはこれがお似合いだ」と泥付きの草履を、美登利の顔めがけて投げつけたのです。
「こっちには龍華寺の藤本がついている。
仕返しにはいつでも来い」と言い放ち、その場から去っていきました。
あまりの仕打ちに美登利は悔しさがこみ上げ、長吉を恨む言葉が出て涙もあふれ出しました。
どうしてあんなことを言われなければならないのかと、周りがなだめても憤る気持ちが抑えられません。
送ってくれるという巡査といっしょに帰りますが、家の人に知られるとまずいと途中から一人急いで帰るのでした。
それから、美登利は学校を休むようになりました。
【転】たけくらべ のあらすじ③
学校は休んでも、習慣としている神社参りには向かう美登利でした。
お参りを終えて帰る美登利に声をかける正太郎。
祭りのことを詫びる正太郎に、母親にはこのことは言わないでほしいと頼む美登利でした。
元気のない美登利を家に誘います。
正太郎は困っている人にお金を貸しているだけで、何でけちなどと祖母が悪口を言われるのかとこぼします。
正太郎は母親を早くに亡くし、父親はよそにいるため祖母と二人暮しでした。
そのため祖母のことを悪く言われると悲しくなるのでした。
しばらく錦絵など見せてなぐさめると、美登利も次第に機嫌も直って、正太郎と遊ぶ約束をして帰っていきました。
かつて美登利は、運動会の時に松の根につまずいた信如に、羽織の袂の汚れを拭くようにとやさしくハンカチを差し出したことがありました。
しかし、周りの者にはやしたてられ、それ以来またあのようなことにならないようにと、信如は美登利を避けるようになったのです。
美登利はそんなことは気にせず、信如に変わらず話しかけていました。
けれども信如の頑な態度に、なんて意地悪な人だろうと思い、友達とは思わないようにしました。
そして祭りの騒動に信如が後ろ盾していたことを知り、憤りを感じるのでした。
歳が上で、学問ができても、乞食などと言われる筋はないと思い、信如に対して悔しさがあり学校へ行かなくなったのです。
秋雨の降る夜、筆屋で美登利は正太郎や他の子たちと遊んでいると、誰かが訪ねて来た気配を感じ、正太郎が確かめると、どうやら信如でした。
信如の名前を聞き悪態をつく美登利でしたが、信如がいた方向をなぜかしばらくながめるのでした。
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【結】たけくらべ のあらすじ④
その日、信如は母の用事を頼まれ雨の中へ出かけました。
ひとしきり降る雨のなか激しい風に見舞われ、足の指に力が入れば鼻緒がスルーと抜けてしまいました。
そこは大黒屋の門の前、鼻緒を繕うとすれどもなかなかうまくいきません。
美登利は門前で困っている人をみかねて、友禅のちりめんの切れ端を持ち駆け寄ります。
信如であることにきづくと、顔は赤らみ動悸が激しくなるのでした。
言いたいことはあるはずなのに何も言えず立ち尽くす美登利。
そのうち家からは美登利を呼ぶ母の声がします。
しかたなく格子の間から切れ端を投げます。
それでも顔色を変えず切れ端を取ろうとしない信如。
あまりの仕打ちに恨めしい気持ちがありながらもその場を去る美登利でした。
どうしても切れ端を取ることができない信如は悩ましい思いをしつつ、どうにか立ち去ることができました。
とうとう美登利が島田を結う日がきました。
花魁となる日が近づいてきたのです。
京人形のようにきれいな美登利に正太郎が似合っていると言いますが、美登利の心は鬱々としています。
周りから褒められれば褒められるほどさげすまされているように感じるのでした。
大人にはなりたくない、時を戻したい、子供のままでいたかった、そう叫ぶ美登利に、正太郎は戸惑うばかりでした。
美登利は昔のようにみんなと遊ぶことはなくなりました。
ある霜の朝、格子に水仙の花がさし入れされていました。
その花をなつかしく思う美登利。
その日は信如がお坊さんの学校へ行くために旅立つ日でした。
樋口一葉「たけくらべ」を読んだ読書感想
思春期の子供たちの心がとてもよく書かれている作品だと思いました。
子供同士のけんかもありがちですが、それぞれの環境も絡み合い複雑でもあります。
美登利は、勝気だし地元のお姫様のような存在だったので、信如の態度は腹が立つことだと思います。
しかし、長吉の後ろ盾だと知った時、長吉の「女郎の乞食」という言葉が強く刺さったと思います。
姉の仕事をさげすむようなことはありませんでしたが、信如にもそのように思われていたのかと思うと悔しさとともに悲しい気持ちもあったのではないでしょうか。
好きな子には素直になれないというように、信如もそうだったのかもしれません。
しかし家はお寺、変なうわさがたてられても困ります。
自分の気持ちを押し殺すしかなかったのでしょう。
信如もつらかったことだと思います。
島田を結ったとき、無邪気な子供に戻れないと悟った美登利は泣きじゃくるしかなく、自分の運命を呪った瞬間だと思いました。
ここはとても切なかったです。
最後の水仙を手に取る美登利は、もはや子供のときのことをなつかしく思う大人になろうとしていました。
美登利ならこの先も強く自分の運命を生きていくことでしょう。