著者:芥川龍之介 1922年3月に大観から出版
トロッコの主要登場人物
良平(りょうへい)
トロッコに興味を持っている8歳の男の子。土工になりたいと密かな憧れを持っている
縞のシャツを着た土工(しまのしゃつをきたどこう)
優しく若い土工で、トロッコに憧れる良平に快くトロッコを押させてあげた
巻き煙草を耳に挟んだ土工(まきたばこをみみにはさんだどこう)
縞のシャツを着た土工と共に、同じトロッコを押している若くて優しい土工
1分でわかる「トロッコ」のあらすじ
良平は、工事現場のトロッコを見るのが大好きな8歳の男の子でした。
ある日、優しそうな土工の2人組を見つけた良平は、トロッコを押してもいいかと2人に訊ねます。
優しい土工たちはそれを受け入れ、3人でトロッコを押しながら歩きだしました。
しかし、ずんずん進んでいくと辺りは日暮れになっていき、良平の楽しかった気持ちは、焦りといらだちに変わります。
挙句の果てに、土工たちからもう帰るように言われた良平は、絶望に打ちひしがれてしまうのでした。
そして、泣くのを懸命に堪えながらも、必死で元来た道を走って帰ったのでした。
芥川龍之介「トロッコ」の起承転結
【起】トロッコ のあらすじ①
良平は、村外れにある鉄道の工事現場に足しげく通っていました。
なぜなら、トロッコで土を運ぶという作業を見るのが面白く、トロッコに魅了されていたからです。
トロッコが山を下る様子を見ては、自分もトロッコを運ぶ土工になりたいと密かな憧れを持つようになっていました。
そして、例え土工になれなかったとしても、1度くらいは土工と一緒にトロッコに乗ってみたいものだとも考えていました。
そんなある日の夕方、良平は2つ下の弟と弟と同い年の隣の子を引き連れて、いつもの工事現場へ向かいます。
そこには、いつもいるはずの土工の姿はなく、泥だらけのトロッコだけが置いてありました。
しめたと思った良平たちは、恐る恐るトロッコに近づき、それを押してみます。
最初にトロッコを押した時は、車輪の音にヒヤリとしたものの、2度目に押したときにはその驚きも消え失せていました。
そして、そのうちに最初の恐れは全くなくなり、トロッコで遊ぶ楽しさが3人に芽生えていたのでした。
そうして、トロッコに乗れたという楽しさで有頂天になっていた頃、2月だというのに季節外れの麦わら帽子を被った、背の高い土工が現れます。
その背の高い土工は、「この野郎!誰に断ってトロに触った?」と大声で良平たちを叱りました。
トロッコに乗って遊んでいたことがバレてしまったのです。
しかし、良平たちはその言葉が聞こえた瞬間に逃げ出し、なんとかことなきを得たのでした。
それから、良平はトロッコに乗りたいと思うこともなくなっていたのでした。
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【承】トロッコ のあらすじ②
トロッコに乗ったのを怒られた良平は、すっかりトロッコに乗る気を失せていましたが、それでも10日もすればその気持ちは薄れていました。
そして、久しぶりにいつもの工事現場に行くと、トロッコを押していた2人の若い土工に出会います。
良平は、この土工たちは何だか親しみやすそうで、怒られないような気がしたため、ついこんな声をかけました。
「おじさん。
(トロッコを)押してやろうか。」
すると、縞のシャツを着た土工の男は、快くOKの返事をしてくれました。
もう1人の耳に煙草を挟んだ土工も、トロッコを押す良平の姿を見て、なかなか力があるなと褒めてくれたのでした。
この2人の優しさに嬉しくなった良平は、押すことに喜びを感じます。
そして、いつまででもトロッコを押していたいと思うようになっていました。
思い切って、二人にいつまでもトロッコを押してていいか聞いてみると、ふたりはいつまででもいいよと言ってくれたため、良平は登り坂を嬉しい気持ちで延々と押していきます。
そして、下り坂になると、縞のシャツを着た土工は、良平にトロッコに乗るよう言い渡します。
土工の2人と共にトロッコに乗り込んだ良平は、下り坂の気持ちよさに絶頂を味わっていました。
登り坂よりも下り坂の方がやっぱり楽しいという当たり前のことに気がつき、行きにトロッコを押す所が多ければ、帰りはトロッコに乗って帰れる所が多いはずだと、帰り道の楽しみも考えるようになっていました。
【転】トロッコ のあらすじ③
トロッコは竹薮まで来ると、静かに走るのを止めました。
そこで3人は、またトロッコを押し始めます。
しかし、気づくとそこは雑木林になっていて、良平はそこで初めて自分がかなり遠くの場所まで来てしまったことを知るのでした。
やがて、トロッコは下り坂となり、3人はまたトロッコに乗り出しますが、良平にはさっきまでの楽しさが急激にしぼんでいました。
その気持ちは、もう帰ってくれればいいのにと念じてしまうほどでした。
そんな中、トロッコはある藁屋根の茶店の前で止まります。
良平の焦りとは裏腹に、2人の土工はその茶店で悠々と茶を飲み出したのでした。
その姿にイライラし出した良平でしたが、土工たちにすまないという想いもあり、その場をやり過ごします。
耳に煙草を挟んだ土工は、茶店を出ると良平に駄菓子のプレゼントをしてくれました。
そうして、またトロッコを押し出す3人でしたが、良平の心のうちは、もう気が気じゃない状態になっていました。
しばらく行くと、また茶店が出現します。
2人の土工は良平をおいて、またその茶店に入ってしまいました。
その様子を見ながら、良平は帰ることばかりを気にしていました。
もう日が暮れてきそうなことを思うと、いてもたってもいられない状態だったのです。
そのうちに茶店から出てきた2人の土工は、良平にもう遅いから家に帰るよう伝えます。
なんと、ふたりはこの先で泊まる予定だというのですが、良平は両親が心配するからそろそろ帰れというのです。
良平は呆気にとられ、今来た道を1人で帰る恐怖に襲われました。
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【結】トロッコ のあらすじ④
今までに歩いたことのないような距離を、この日暮れの中たった1人で歩いて帰らなければならなくなった良平は、絶望に打ちひしがれます。
ほとんど泣きそうになっていましたが、泣いている場合でもないことは分かっていました。
そして、なんとか2人の土工におじぎをすると、一目散に来た道を走り出しました。
そのうちに、先ほど土工からもらった駄菓子が、懐で邪魔になっていることに気づき放り出すと、草履も脱ぎ捨ててしまいました。
おかげで、足袋の裏に小石が食い込みましたが、足だけは遥かに軽くなったことを実感します。
時々、涙も込み上げてきましたが無理に我慢をし、鼻だけをクウクウと鳴らして坂道を駆け上がりました。
しかし、竹薮まで来るともう夕焼けが沈む頃になっていて、さらにその先を走ると、辺りは暗くなりつつありました。
良平は、もう命さえ助かればそれでいいという想いに駆られ、滑ってもつまづいても負けずに走り切っていきました。
そうして、やっといつもの工事現場が見えた時には、良平は一思いに泣きたくなりました。
しかし、家はまだまだ先です。
良平はここでも泣くのを堪え、なんとか自分の村に帰ってきました。
もう村の家々には電灯がつき始めていました。
喘ぎながら走る良平を見て、村人たちは声をかけましたが、良平は無言のまま家まで走りきります。
そして、家の門口までようやく着いた時、良平はとうとう大声で泣き出したのでした。
そんな経験をした良平も、今では26歳です。
妻子持ちで東京に暮らす立派な青年になりました。
しかし、良平は今でもたまに、その時の8歳の自分を思い出すのでした。
芥川龍之介「トロッコ」を読んだ読書感想
芥川龍之介の作品の中でも、1番好きな作品です。
8歳の少年ならではの好奇心や焦り、不安などが、文章から事細かに伝わってくる点がなんともいえません。
良平にとっては、優しいと思っていた土工たちが、後半になって一気に豹変したように感じてしまう点も面白く感じました。
果たして、彼らは本当に優しい土工だったのか?という疑問も、大人になった良平には気づいているのだと思います。
最初に遊んでいた時に、キチンと叱ってくれた麦わら帽子の土工の方が、実はいい土工だったはずだと大人になれば分かるので、その辺の変化もまた面白いです。
子供と大人で読む視点が変わりそうなので、親子の本の読み聞かせにも向いている作品だと思います。
私自身も、大人になって久しぶりに読んでみて、感情が変わりました。
登場人物が少なく、文章量も多くはないので、初めて文学小説を読むという子供たちにもオススメです。
子供時代には誰もが経験する、ドキドキとハラハラが味わえる良作です。